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オミクロン株感染者の呼気中のウイルス量は多い

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2022.221010

原文:Nature (2022-08-17) | doi: 10.1038/d41586-022-02202-z | How much virus does a person with COVID exhale? New research has answers

McKenzie Prillaman

新型コロナウイルス変異株の感染者は、起源株感染者よりも呼気に排出するウイルスRNA量が多く、あるオミクロン株感染者は、アルファ株やデルタ株感染者の1000倍多く排出していた。

SARS-CoV-2感染者の呼気中に含まれるウイルスRNAを採集する装置「ゲズントハイト2」。 | 拡大する

ISABEL TERESA SIERRA MALDONADO

研究によると、新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2;SARS-CoV-2)の変異株のうち伝播力の高いアルファ株、デルタ株、オミクロン株に感染した人は、他の変異株に感染した人に比べて大量のウイルスを吐き出しているという。さらには、ワクチン接種完了者やブースター接種を受けた人が、後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった場合も、空気中にウイルスを排出していることが分かった。この論文は2022年7月29日にプレプリントサーバーmedRxiv (J. Lai et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/h856; 2022)に投稿されたもので、まだ査読は受けていない。

コロラド州立大学(米国フォートコリンズ)の公衆衛生エンジニアであるJohn Volckensはこの研究を、「新型コロナウイルスの中で優勢となった3種類の変異株の全てが、感染者が喋ったり叫んだりしたときに、ごく初期の株よりも効率よく体外に排出されることを示したものです」と説明する。彼はこの研究には参加していない。

論文共著者の1人で、メリーランド大学カレッジパーク校(米国)で新興感染症を研究しているKristen Colemanは、今回の知見が意味するところについて、「市民は政府に働きかけて、換気システムとろ過システムを改良して屋内の空気質を改善するための投資を促すべきです」と主張する。

呼気に含まれるウイルス量

Colemanらはこの研究のために、2020年半ばから2022年初頭にかけて、SARS-CoV-2感染者93人の呼気を調べた。研究参加者が感染していたウイルス株には、2020年末に出現したアルファ株や、その後に出現したデルタ株、オミクロン株も含まれていた。また、デルタ株とオミクロン株に感染した参加者は全員、感染前に必要な回数のワクチン接種を終えていた。

研究に参加した感染者たちは、検体採集装置「ゲズントハイト2(Gesundheit-II)」の円錐形の取り入れ口に向かって30分間歌を歌ったり叫んだりし(途中、咳き込んだりくしゃみをしたりすることもあった)、円錐につながっている機械が呼気の中から直径5µm以下のエアロゾルを分離した(註:「ゲズントハイト」は「健康」を意味するドイツ語で、「God bless you」と同様、くしゃみをした人にかける決まり文句である)。この大きさのエアロゾル粒子は布マスクやサージカルマスクを通り抜けることができる上、空気中に長時間浮遊し、すぐには落下しない。

分析の結果、アルファ株、デルタ株、オミクロン株に感染した参加者の呼気に含まれるウイルスRNA量は、中国の武漢で最初に検出された起源株や、伝播力の高さと関連付けられていない他の変異株(2020年末に出現したガンマ株など)に感染した参加者のウイルスRNA量に比べてはるかに多いことが明らかになった。さらに、デルタ株やオミクロン株に感染した参加者が排出する直径5µm以下の微細なエアロゾルには、それよりも大きいエアロゾルの平均5倍のウイルスRNAが含まれていた。

また実験室での実験で、細胞に参加者のエアロゾル検体を播種したところ、デルタ株感染者2人とオミクロン株感染者2人から採集した検体が細胞に感染した。論文共著者であるメリーランド大学の疫学者Jianyu Laiによると、感染者が排出するウイルスは必ずしも感染力があるわけではなく、今回の検体が実験室の細胞に感染できたということは、吐き出されたエアロゾル中のウイルスRNAは疾患を広め得ることを意味するという。

ルンド大学(スウェーデン)のエアロゾル技術の専門家であるMalin Alsvedは、この研究について、「呼吸器系から排出された全てのエアロゾルを混ぜてしまっていることが、少々引っかかります」と難色を示す。「採集された検体には、呼吸、会話、叫び、咳の他、くしゃみによって排出されたものさえ含まれているのです」。これに対してColemanは、自分たちがこれらの検体を一緒にしたのは、レストランでの食事中など、現実の状況を模倣するためだと反論している。

スーパースプレッダー

この研究は、感染者がウイルスを排出する量には個人差がかなりあり、検出不可能なレベルから「スーパースプレッダー」と呼べるレベルまで幅広いことも明らかにした。例えば、あるオミクロン株感染者が排出していたウイルスRNA量は、アルファ株やデルタ株に感染した参加者が排出していた最大のウイルスRNA量の1000倍もあった。研究者たちは、このような差が生じる原因はまだ分からないが、感染者の年齢などの生物学的要因が関係しているのかもしれないと言う。行動も関係しているかもしれない。今回の研究でスーパースプレッダーとされた参加者は、他の参加者よりも頻繁に咳をしていたからだ。

新しい変異株がよりスーパースプレッディングを起こしやすいなら、その株が優勢となるかもしれない。研究チームは、SARS-CoV-2感染者が吐き出すウイルスRNAの量は、同じように空気感染するインフルエンザウイルス感染者が吐き出すウイルスRNAの量に比べてはるかに少ないと指摘する。このことは、SARS-CoV-2がさらに伝播力の強い変異株を生み出す可能性があることを示唆している。Alsvedは、「心配なのはこの点です」と言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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