Advances

ビールの複雑さ

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220116a

数千の分子種を化学的に追跡。

467種類ものビールが、質量分析によって解析された。 | 拡大する

JACK ANDERSEN/DIGITALVISION/GETTY

ビールの歴史は1万3000年にも及ぶのだから、ビールのことは既に知り尽くされていると思えるだろう。だが最近の研究では、この発泡飲料の組成がこれまでにない視点で調べられ、新たな品質管理の手法が見つかった。

ビールは3つの複雑な有機原料を含んでいる。穀粒、ホップ、酵母だ。醸造過程を通じてこれら全てが互いの副産物と相互作用して数百の化学的誘導体を生み、風味に影響を与える。このビールの複雑さを、手に負えないと考える食品化学者もいるが、自称「ビール博士」を目指しているミュンヘン工科大学(ドイツ)の研究者Stefan Pieczonkaはそこにまだ手付かずの可能性があるとみた。彼は同じ大学の化学者Philippe Schmitt-Kopplinと共に、市販のビール400種以上の試料を高性能の質量分析計にかけた。質量分析計は、試料の分子をイオン化し、磁場を使って分類して分子種を特定することで、混合物の化学組成を解明する機械だ。

彼らのチームはまた、一部のビール試料を別の種類の質量分析計にかけた。これらのプロセスの組み合わせによって、これまでビールで発見されていなかった7000を超えるユニークなイオンを特定できたと、Schmitt-Kopplinは言う。さらに彼らは、これらのイオンのもとになったとみられる分子をさかのぼって推論し、そうした数万種の分子それぞれが元々の醸造成分のどれに由来するかを突き止めた(残ったサンプルは、実験室でのご機嫌な打ち上げに有効利用されたそうだ)。

品質管理検査に応用も

新たに発見された分子の1つは酵母、ホップ、米に含まれる化合物の反応で生じたものだった。米は、ビールの醸造用器具や原料穀物に誤って混入する場合がある。ビール中の米を異物やアレルギー誘発物質として検出する品質管理テストは現時点では存在しないため、Pieczonkaらのチームは、今回新たに発見された化学物質の有無を調べる方法を提案している。この研究成果は、Frontiers in Chemistryに報告された。

酒類メーカーであるカットウォーター・スピリッツ社で品質管理と技術を率いているビール専門家のGwen Conley(この研究には関与していない)は、こうした試験は、ビールと蒸留酒の両方の品質保証を強化するのに役立つ可能性があると言う。「ビールに関して言えば、醸造の全ての段階で検査できるでしょう」。

ビールの成分について知ることは歴史の研究にも寄与する。PieczonkaとSchmitt-Kopplinは、今回と同じ分析を1885年に醸造されたドイツビールを対象に実施中で、19世紀の醸造法について知るとともに、その風味を再現しようとしている。

(翻訳協力:鐘田和彦)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度