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PLOSが新刊学術誌5誌と新出版モデルを発表

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210810

原文:Nature (2021-05-13) | doi: 10.1038/d41586-020-01907-3 | Open-access publisher PLOS pushes to extend clout beyond biomedicine

Holly Else

オープンアクセス出版社であるPLOSは、生物医学分野以外の学術誌5誌を創刊すると発表した。それにとどまらず、同社の既存の学術誌において、論文出版コストのより公平な配分を目的とする新たなビジネスモデルを立ち上げた。

PLOSは、PLOS ClimatePLOS Sustainability and TransformationPLOS WaterPLOS Digital HealthPLOS Global Public Healthの5誌を創刊すると発表した。 | 拡大する

AB/NurPhoto via Getty Images

生命科学系の学術誌を発行する非営利出版社であるPLOSが、生物医学以外の科学分野でのシェアの拡大を目指して、オープンサイエンスがあまり広く受け入れられていない分野で5誌の学術誌を創刊する。PLOSでは14年ぶりの新タイトルだ。PLOSはまた、研究者の間で出版コストをより公平に配分することを目的として、オープンアクセスの新しいビジネスモデルを試験的に導入するという。

この新しいビジネスモデルはPLOSにとって久しぶりの大改革であり、注目を集めている。出版コンサルタント会社Clarke & Esposito(米国ワシントンD.C.)のマネージングパートナーであるMichael Clarkeは、「PLOSは不可能に思われることをやってのける出版社です」と言う。「設立以来、PLOSは業界に非常に大きな影響を与えてきました。ここ数年、特に大きな動きはありませんでしたが、久々に革新的な取り組みを見せてくれました」。

PLOSは設立以来20年にわたって、論文出版の新しい道を切り開いてきた。論文を無料で読めるようにして購読料ではなく出版料で収入を得るというPLOSのやり方を、主だった学術誌の多くが追随している。しかし、今回PLOSが発表した新しいモデルは、出版社と機関の間で長期の出版契約を結ぶという複雑なものであるため、他の出版社は導入が難しいのではないかと危惧する声もある。

オープンアクセスの先駆者

PLOSは、生命科学分野の論文のオンライン・リポジトリを求めて約3万4000人の科学者が署名した公開状に応える形で、2001年にPublic Library of Scienceとして設立された。2003年にPLOSが創刊した最初の学術誌PLOS Biology では、従来にないビジネスモデルを使って資金調達を行った。著者に論文掲載料の支払いを求めることで、誰もが無料で論文を読めるようにしたのである。

この14年間、PLOSは生物学、医学、計算生物学、遺伝学、病原体分野をカバーする7誌の生命科学系学術誌からなるポートフォリオを維持してきた。この中で選択性の高いPLOS MedicinePLOS Biology といった学術誌は赤字だったが、あらゆる分野から科学的に妥当な研究論文を受け入れるメガジャーナルPLoS ONE を創刊することで、それを上回る収益を上げてきた。

新たに加わる5誌は、水、気候、持続可能性、国際公衆衛生、デジタルヘルスに焦点を合わせている。Clarkeは、生命科学分野以外のタイトルを創刊することで、PLOSは多様性を備えることができると言う。「この組織の将来的な方向性を考える上で重要なことです」。彼によると、PLoS ONE の創刊以後、他の出版社がメガジャーナルのコンセプトを模倣したことで、PLOSの市場占有率が下がったという。PLOSの財務状況は山あり谷ありだ。2010年に初めて収支がトントンになったものの、近年は赤字傾向にある。なお2019年は、2015年以来の営業黒字となった。

コストの分散

PLOSは今回、学術誌を創刊するだけでなく、2020年に導入したビジネスモデルの試験的な運用を継続することを決めた。「コミュニティー・アクション・パブリッシング(Community Action Publishing;CAP)」と呼ばれるこのスキームでは、大学がPLOSと契約を結ぶことで、その所属研究者はPLOS Medicine またはPLOS Biology に、論文を定額で無制限に出版できるようになる。

契約機関が3年間の試験運用期間中に支払う料金は、約350ドル(約3万9000円)から約4万ドル(約450万円)まで幅がある。金額は当該研究機関に所属する研究者の過去6年間の出版履歴に基づいて決まり、その際には責任著者であるかその他の共著者であるかが考慮される。利益は10%を上限とし、それを超える収益は契約機関に払い戻される。PLOSと契約を結んでいない機関の研究者がこれらの学術誌で論文を出版するには、非契約機関出版料金[論文掲載料(APC)のようなもの]を支払うことになり、その金額は年々増加していく。

APCは通常、責任著者の所属機関や資金配分機関が負担するが、今回の新しいモデルの背景には、論文を出版するためのコストを、全ての著者の所属機関でより公平に配分するという考え方がある。PLOSは、このスキームに参加する契約機関が増えれば、研究者が論文を出版する際の費用は安くなるとしている。現時点では、8カ国の75以上の機関が契約を締結している。

PLOSのチーフ・パブリッシング・オフィサーであるNiamh OʼConnorは、オープンアクセスによって論文出版のコストを読者から著者に移転させるという考え方をPLOSは回避したいと考えていると説明する。「論文掲載料のモデルによってオープンアクセスは発展を遂げましたが、私たちはそれが未来だとは考えていません」と彼女は言う。「私たちは、著者が論文掲載料を負うという障壁が取り除かれる未来を目指しています」。

Clarkeは、CAPは「巧妙なスキーム」であると評価する。このパートナーシップモデルでは、PLOSは個々の論文を出版する単発のやりとりから収入を得るのではなく、機関との間でより長期の金銭契約を結んで機関を縛ることで、数年にわたって予測可能な収入を得て、同社の学術誌の利益につなげることができる。「10%という利益率はさほど大きくないかもしれませんが、学術誌が現在赤字であるならば、10%という目標はかなり大きな利益を意味します」と彼は言う。

許容可能な利益

科学界が将来の論文出版のあり方を模索する中で、出版社の利益率はどの程度まで許容されるのかという問題についても多くの議論がなされてきた。

コミュニティー・アクション・パートナーシップに参加しているイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)の図書館員Lisa Hinchliffeは、多くの機関がPLOSのこのモデルに参加するなら、10%の利益率は許容範囲にあるということだろうと言う。しかし彼女は、このモデルでは論文に関わった全ての著者を考慮するため、管理が複雑になるだろうとも指摘する。「他の出版社がこの複雑な仕組みを導入する可能性は低いと思います」。

OʼConnorのチームは既に、中低所得国の研究者を締め出す既存のヒエラルキーを強化することなく、研究へのアクセスを向上させるにはどうすればよいかを考えている。PLOSは2021年5月12日に、科学者にコミュニケーションスキルを教えるナイロビ大学コミュニケーション訓練センターとパートナーシップを結んだと発表した。この提携の目的は、アフリカの研究者のニーズや価値観が出版社の方針やサービスに反映されるようにすることにある。

OʼConnorは、「私たちの次の段階の仕事は、単に論文を読んだり共有したりできるようにすることではなく、知識への公平な参加とその普及のための枠組みを構築することです」と語る。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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