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見落とされていたタンパク質の架橋

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210844

原文:Nature (2021-05-20) | doi: 10.1038/d41586-021-01135-3 | Previously unknown type of protein crosslink discovered

Deborah Fass & Sergey N. Semenov

ジスルフィドとして知られる分子架橋は、多くのタンパク質の立体構造を安定化させているほか、タンパク質の機能を調節することもある。しかし、調節性タンパク質架橋は、ジスルフィドだけでなく、別のタイプもあることが発見された。

オキシトシンの分子モデル
ペプチドホルモンのオキシトシンは視床下部で合成され、分娩時の子宮収縮、乳汁分泌、ストレス抑制、向社会性などの作用がある。9つのアミノ酸(システイン−チロシン−イソロイシン−グルタミン−アスパラギン−システイン−プロリン−ロイシン−グリシン)から成り、2つのシステイン残基のSH基(チオール基)がジスルフィド(S–S)結合している(オレンジ色部分)。S–S結合はタンパク質でよく見られる架橋であるが、今回、これとは異なる結合が発見された。この全く新しい、システイン残基のSH基とリシン残基のNH2基(アミン基)との間に形成されるN‒O‒S結合は、今後のタンパク質の構造や活性の研究に影響を及ぼすだろう。 | 拡大する

KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Getty

タンパク質の特徴となる形状と機能は、構成アミノ酸が鎖状に連結される順序に依存する。しかし、アミノ酸は連結された後に、さらに化学修飾を受けることが多い。このような修飾には、特定のアミノ酸残基間の架橋が含まれる。最も一般的なタイプの架橋はジスルフィドである。ジスルフィドでは、2個の硫黄原子が共有結合によって結び付く。このほどゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンおよびマックス・プランク生物物理化学研究所(共にドイツ・ゲッティンゲン)のMarie Wensienらは、1個の窒素原子(N)が1個の酸素原子(O)を介して1個の硫黄原子(S)と結び付く、全く異なるタイプのタンパク質架橋を発見し、Nature 2021年5月20日号460ページで報告している1。さらにWensienらは、このようなN–O–S架橋がこれまでに報告された他のタンパク質の構造解析で見落とされてきたという証拠も示している。

Wensienらは、性感染症の淋病を引き起こす淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌の酵素であるトランスアルドラーゼを研究していた。Wensienらは、このトランスアルドラーゼの精製酵素はほとんど活性がないが、一般的にジスルフィド結合を切断する還元剤の使用により、酵素活性を回復できることを観察した。

ジスルフィドを形成するには、鎖状のタンパク質では離れて存在していることもある2個のシステインというアミノ酸残基の側鎖が、空間的には互いに接近していなければならない。Wensienらは、トランスアルドラーゼには3個のシステイン残基があり、これらのうちの2個がジスルフィドを形成することで、不活性化されているのかもしれないと考えた。そこで彼女らは、各システイン残基を個別に別のアミノ酸に置換して3つの変異型酵素を作製した。もし本当にこの酵素がジスルフィドによって不活性化されるならば、ジスルフィドに関与する2個のシステイン残基のどちらかが置換された変異型酵素は不活性化されないはずである(ただし、この単純な一般化には例外がある2)。ところが結果からは、1つの変異型酵素の場合にだけ、不活性化されないことが分かった。では、何が起こっていたのだろうか?

Wensienらは、この謎を解くため、X線結晶学を用いて原子分解能でトランスアルドラーゼの構造を決定した。この解析から、システイン–システインのジスルフィド架橋ではなく、システイン残基の側鎖にあるチオール基(SH基)とリシン残基の側鎖にあるアミン基(NH2基)との間での共有結合(N–O–S架橋)が明らかになった(図1)。興味深いことに、N–O–S架橋の酸素原子は、システイン残基とリシン残基、いずれの側鎖からも生じたものではない。Wensienらは、1個の酸素分子がN–O–S架橋の1個の酸素原子に関与すると推測した。そして、このトランスアルドラーゼの還元型(N–O–S架橋がなされていない)の結晶構造の観察から、SH基とNH2基の近くに酸素分子が存在することを見いだした。Wensienらの合理的な推測が、裏付けられたのである。

図1 リシンとシステインのアミノ酸残基間での架橋の形成
Wensienら1は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌の酵素であるトランスアルドラーゼには、リシン残基の側鎖の窒素原子(N)が酸素原子(O)を介してシステイン残基の側鎖の硫黄原子(S)に結び付けられた分子架橋が含まれることを報告している。Wensienらは、このようなN–O–S架橋は、2つの側鎖と1個の酸素分子(O2)の反応によって形成されると提示している。このN–O–Sモチーフは通常、不安定であり、おそらく周囲のタンパク質構造によって安定化されていると考えられる。しかし、N–O–S架橋は還元剤で切断できる。図の球はタンパク質分子の他の部分を表す。 | 拡大する

タンパク質におけるN–O–S架橋の発見は特筆すべきものだ。なぜなら、このような分子モチーフを生じる非生物学的反応は、知られていないからである[例外があるとすれば、1つの稀な分子(環状芳香族化合物の1つのタイプ3)が考えられる]。低分子の化学におけるN–O結合の形成には強力な酸化条件が必要であるが4、そのような条件では、おそらく硫黄原子は、N–O–S架橋の硫黄原子よりも高い酸化状態に変換されると考えられる。さらに、N–O–Sモチーフを含む小分子は、不均化(2つの同一分子が互いに反応して2つの異なる生成物を生じる過程)を受ける危険性があるかもしれない。それでもタンパク質の場合、システインのチオール、リシンのアミン、1個の酸素分子の都合の良い配置は、N–O–S形成に必要な酸化を助ける可能性があり、一方、その周囲のタンパク質構造による空間的(立体的)な制約は、架橋を安定化させ、硫黄のさらなる酸化を阻止するのかもしれない。

Wensienらは、架橋形成機構の候補として、システインの側鎖の硫黄原子とリシンの側鎖のアミン基の両方にヒドロキシル基(OH)が付加される反応がエネルギー的に有利になる機構を推測している(引用文献1のExtended Data Fig. 3bを参照)。N–O–S架橋が全く新しいものであることや研究が構造生物学を中心に置いているため、N–O–S架橋の化学的機序の重要な詳細はまだ研究されていない。具体的に、どのように酸素分子が活性化されてN–O–S架橋反応に関与するのか、報告されていないのだ。酸素分子との多くの化学反応には遊離基が関与するため5、N–O–S架橋を形成する機構では遊離基が関与する経路を明確に考慮する必要がある。

架橋形成機構に関する別の問題として、N–O–S架橋が酵素活性にどのように影響するかということがある。架橋型トランスアルドラーゼの触媒部位の構造は、非架橋型の触媒部位の構造とわずかに異なっているだけである。従って、N–O–S架橋の形成によって触媒作用が阻害される仕組みは明らかではない。Wensienらは、このような構造のわずかな違いに注目したが、架橋型トランスアルドラーゼは、非架橋型よりも熱による変性に耐性があることも観察された。この結果は意外ではなく、架橋型酵素は変性につながり得るコンフォメーション揺らぎが少ないと考えられる。触媒活性には非常に小さなコンフォメーション揺らぎが必要な可能性があり、この架橋の存在によって必要な揺らぎも抑制されるのかもしれない。

タンパク質の機能を調節するためにジスルフィド結合を用いる場合とN–O–S架橋を用いる場合の間には、重要な概念上の違いがある。ジスルフィド結合の形成は化学的に可逆的である。これは、生物学的系ではジスルフィドが頻繁に形成されたり切断されたりしていて、ジスルフィドあるいはチオールを含む他の分子との「交換」反応によく用いられていることを意味する。対照的に、N–O–S架橋では、形成と切断の化学的性質は異なっている。つまり、架橋の形成には酸素分子が使われるが、架橋が切断されても酸素分子は放出されないのだ。

さらに、これらの反応の熱力学から、N–O–S架橋を形成するのは難しいが、切断するのは容易であることが示された。従って、N–O–S架橋は、ジスルフィドが保存されている条件下で、この架橋を形成する酵素の選択的活性化が可能なように進化したのかもしれない。今後、N–O–S架橋による特定の利点や、N–O–S架橋がジスルフィドよりも有用である生物学的シナリオを調べることもできよう。

新しいタンパク質架橋の発見は、淋菌のトランスアルドラーゼという酵素やN–O–S架橋自体の特異性以上に大きな意味を持つ。意外にも、タンパク質の構造モデルの作成は、おそらく高分解能のX線データを利用できる場合は、さらに困難になることがあるだろう。タンパク質のコンフォメーションや化学組成の揺らぎは、低分解能ではデータのノイズに埋もれている可能性があるが、この不均一性は高分解能では明らかになるため、いろいろ解釈しなければならないし6、予期しない化学基がデータに隠れていることもある。Wensienらの研究は、構造生物学者が生体分子の電子密度マップによって予想から逸脱したものを調べることにつながると考えられる。

酵素が世界最高の有機化学者であると長く評価されているのは、酵素が存在しないとほとんど促進できない反応があるためである。今回の結果から、酵素自体の共有結合の化学も化学的直感に従わない可能性があることが示された。

(翻訳:三谷祐貴子)

Deborah Fass & Sergey N. Semenovは、共にワイツマン科学研究所(イスラエル・レホボト)に所属。

参考文献

  1. Wensien, M. et al. Nature 593, 460–464 (2021).
  2. Mor-Cohen, R. Antioxid. Redox. Signal. 24, 16–31 (2016).
  3. Hassan, A., Ibrahim, Y. R. & Shawky, A. M. J. Sulfur Chem. 28, 211–222 (2007).
  4. Challis, B. C. & Butler, A. R. in The Chemistry of the Amino Group (ed. Patai, S.) Ch. 6 (Interscience, 1968).
  5. Sawyer, D. T. Oxygen Chemistry Ch. 5–6 (Oxford Univ. Press, 1991).
  6. Lang, P. T. et al. Protein Sci. 19, 1420–1431 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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