News in Focus

準結晶は人類初の核実験で生まれていた!

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210804

原文:Nature (2021-05-17) | doi: 10.1038/d41586-021-01332-0 | First nuclear detonation created ‘impossible’ quasicrystals

Davide Castelvecchi

1945年に原子爆弾の爆発実験で偶然生成された鉱物中に、新たな組成を持つ未知の準結晶が見つかった。

今回、赤色のトリニタイト試料に、これまで知られていなかった組成の準結晶が含まれていることが明らかになった。 | 拡大する

LUCA BINDI, PAUL J. STEINHARDT

周期性はないが長距離秩序はある、結晶でもアモルファス(非晶質)でもない特殊な固体物質「準結晶」。1980年代まで「存在し得ない」とされていたこの稀な物質がこのほど、世界初の核実験で生成された鉱物の中に発見された。この新たな準結晶は、ケイ素、銅、カルシウム、鉄という、これまで知られていなかった独特な組み合わせからなり、おそらく砂漠の砂と銅線ケーブルが蒸発・溶融して形成されたと考えられる。この成果は、プリンストン大学(米国ニュージャージー州)の理論物理学者ポール・スタインハート(Paul Steinhardt)らによって、Proceedings of the National Academy of Sciences 2021年6月1日号で報告された1

準結晶を構成する原子の配列は、普通の結晶とは異なり、れんがを規則正しく積み上げたような繰り返しパターン(すなわち、並進対称性)を示さない。準結晶が示すのは、例えば5回対称性などの、かつて結晶学的には「存在し得ない」と考えられていた秩序である。5回対称性とは、5分の1回転させると元の形と同じになる性質をいう。

こうした対称性を持つ物質は1982年、現在はテクニオン・イスラエル工科大学(ハイファ)に所属する材料科学者のダニエル・シェヒトマン(Daniel Shechtman)によって初めて発見された。彼は、アルミニウムとマンガンの急冷合金の電子線回折像に5回対称性を示すパターンを見いだし、この物質が正二十面体(20の面を持つ正多面体)構造を持つと考えたのである。ところが、正二十面体だけで空間を埋めるのは数学的に不可能なことから、1984年に論文が掲載された2後も、多くの研究者はシェヒトマンの主張を信じようとしなかった。シェヒトマンは最終的に、準結晶発見の功績により2011年のノーベル化学賞を受賞している(2011年12月号「ノーベル化学賞は準結晶に」参照)。

見落とされた秩序

偶然にも、シェヒトマンが準結晶を発見したのとほぼ同じ頃、当時ペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)に所属していたスタインハートは共同研究者と共に、「ペンローズ・タイル」と呼ばれる非周期的平面充填を三次元(3D)に拡張する理論研究を進めていた。こうした3D構造は正二十面体と同じ対称性を持つが、異なる複数の多面体で構成されており、同じパターンを繰り返すことはない。スタインハートは、このような特異な秩序を「準周期性」と呼び、準周期的構造を持つ物質を「準結晶」と名付けた3。並進対称性を定義とする結晶の数学で準結晶が見落とされてきたのは、この準周期性にあったのだ。

スタインハートは、1982年にシェヒトマンの構造データを初めて目にした瞬間をこう振り返る。「自分たちの理論予測で得られたパターンと見比べると、まるで区別がつきませんでした。それはもう、驚きでしたね」。

5回対称性を持つペンローズ・タイル。2種類の菱形タイルが秩序を持って配列しているが、周期的な繰り返しパターンはない。 | 拡大する

Steinhardt, P. J. Nature 452, 43–44 (2008).

以来、材料科学者たちは実験室でさまざまな準結晶を合成し、「存在し得る」対称性の種類を増やしてきた。一方、自然に形成された天然の準結晶を探し求めていたスタインハートらは2011年、ロシア最東端で回収された鉱物中に、初の天然準結晶「イコサヘドライト」を発見する4。その後の研究で、この鉱物は地球外起源であることが示された5。「この準結晶はおそらく、原始太陽系で2つの小惑星が衝突した際に形成されたのでしょう」とスタインハートは言う。実験室で合成された準結晶の中には、物質を高速で衝突させて作られたものもある。そこでスタインハートらは、核爆発による衝撃波なら、準結晶を形成できるのではないかと考えた。

切り刻んで調べる

1945年7月16日、米国ニューメキシコ州アラモゴード爆撃試験場で、人類初の核実験「トリニティ実験」が実施された。その後、実験の跡地では広範囲にわたって緑がかったガラス状の物質が見つかり、これらは砂漠の砂が爆発により液化して生成されたものであることから、「トリニタイト」と名付けられた。

トリニティ実験では、爆弾は高さ30mの塔の上に設置されており、この塔は爆発時、配設されていた多くの計測機器やケーブルと共に蒸発した。その結果生じたのが、一部のトリニタイトに見られる、赤みがかった包有物だと、スタインハートは説明する。「天然物質である砂と伝送線由来の銅が融合してできた物質なのです」。準結晶は、普通なら化合しない元素の組み合わせから成ることが多いため、スタインハートらは、赤色のトリニタイトにも準結晶が隠れているのではないかと考えた。

「10カ月にわたって、試料を切り刻み、あらゆる種類の鉱物を調べました」とスタインハートは言う。「そしてついに、小さな準結晶の粒を見つけたのです」。この準結晶の粒には、シェヒトマンが最初に発見したのと同じ正二十面体の対称性が見られた。

「構造の主成分がケイ素であるというのが、他とは明らかに違いますね」と話すのは、ユタ大学(米国ソルトレークシティ)の理論化学者Valeria Molineroだ。「これまでに多くの準結晶が実験室で合成されてきたわけですが、そうした中で本当に興味深いのは、自然界で見つかる準結晶がいかに少ないかということです」とMolinero。スタインハートはその理由を、準結晶の形成には「元素の稀な組み合わせと稀な配列」が必要だからかもしれないと語る。

既知の大半の準結晶と同様、今回見つかった準結晶も合金であるように思われる。合金とは、電子の海の中に陽イオンが存在する金属様の物質だが、岩石中のケイ素は酸化物の状態であることが多く、この状態は極めて稀だ。ケイ素をこの状態にするには、強烈な熱や衝撃波による圧力といった極端な条件が必要だろうと、プリンストン大学の地球科学者Lincoln Hollisterは言う。人類は期せずして、現存最古となる人工準結晶を作り出していたのである。

こうした状況を踏まえると、準結晶は核実験の科学捜査に使えるかもしれない、とスタインハートは提案する。秘密裏に行われた実験であっても、準結晶の存在によってそれが明らかになる可能性があるからだ。準結晶は他にも、雷が岩や砂などの堆積物を直撃したときに生成する閃電岩などの物質でも形成されている可能性がある。「準結晶物語はまだ始まったばかりです」とHollisterは目を輝かせて語った。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Bindi, L. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 118, e2101350118 (2021).
  2. Shechtman, D., Blech, I., Gratias, D. & Cahn, J. W. Phys. Rev. Lett. 53, 1951–1953 (1984).
  3. Levine, D. & Steinhardt, P. J. Phys. Rev. Lett. 53, 2477–2480 (1984).
  4. Bindi, L. et al. American Mineralogist. 96 928–931 (2011).
  5. Bindi, L. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 109 1396–1401 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度