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有望なマラリアワクチン、より厳格な試験へ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210808

原文:Nature (2021-04-26) | doi: 10.1038/d41586-021-01096-7 | Malaria vaccine shows promise — now come tougher trials

Heidi Ledford

ある開発中のマラリアワクチンが、初期の臨床試験で乳幼児に対して77%のマラリア予防効果を示すことが分かった。今後、より大規模な試験が待たれる。

R21の原型となった実験的なマラリアワクチンはガーナで試験が実施された。 | 拡大する

CRISTINA ALDEHUELA/AFP/GETTY

あるマラリアワクチンの有効性を評価する初期の臨床試験で有望な結果が得られ、世界中の子どもたちの最も多い死因の1つであるマラリアに対抗する有力な武器となる日が来るかもしれない、という期待が高まっている。

R21と呼ばれるこのワクチンは、生後5~17カ月の乳幼児450人を対象とした試験で、1年間にわたってマラリアを予防する効果が77%だった。これが事実であれば、世界保健機関(WHO;スイス・ジュネーブ)が設定している75%という目標をクリアしたことになる。結果は2021年4月20日にプレプリントサーバで公開された(M. S. Datoo et al. Preprint at SSRN https://doi.org/f9b3; 2021、現時点では既にLancet に発表されている1)。

R21は、マラウイ、ケニア、ガーナで数十万人の子どもたちを対象に試験されてきたワクチンを改良したものだ。これの原型となったワクチンは、RTS,S、あるいは商品名でモスキリックス(Mosquirix)と呼ばれ、1年間のマラリア予防効果が約56%、4年間の予防効果が約36%とされている。

ガーナ大学(アクラ)の疫学者Kwadwo Koramによれば、R21はモスキリックスよりも有効性が高く、製造コストも安く済むように考えられているという。だが、ブルキナファソのナノロで実施されたこのワクチンの試験で得られた有望な結果が、より大規模な試験でも同じように得られるかどうかはまだ分からない。「今は、大規模試験の結果が出るのをじっと待っているところです」とKoramは話す。「75%の有効性が示されたら、喜びのあまり跳び回ってしまいそうです」。

ゆっくりとした歩み

COVID-19に対して有効ないくつかのワクチンの開発には1年もかからなかったが、マラリアワクチンについては、半世紀にわたって研究が続けられているにもかかわらず、WHOが目標として設定した有効性を満たすものはまだ完成していない。問題の1つは、マラリアが主に低・中所得国に見られる感染症で、予防に対する投資が少ないことである。もう1つの問題は、マラリア原虫(Plasmodium spp.)そのものにある。生活環が複雑であることに加え、重要なタンパク質を変異させて新しい変異株を生み出すことができるのだ。

マヒドン大学(タイ・バンコク)で熱帯医学を研究しているNicholas Whiteは、マラリアワクチンの作製の難しさがはっきりしてくるにつれ、研究者たちの自信は挫折感に変わっていったと話す。「簡単にできると考えていたところ、マラリア原虫は賢いということがだんだん分かってきたのです」。

ヒトの体内に侵入した後、赤血球に感染し輪状体となったマラリア原虫(紫色)。 | 拡大する

toeytoey2530/iStock/Getty

それでもマラリアワクチン開発の緊急性は変わらない。マラリアによる死亡者は今でも年間約40万人にも上り、そのほとんどが5歳未満の乳幼児である。

R21とモスキリックスは、マラリア原虫の生活環のうち、宿主の蚊からヒトの体内に侵入するスポロゾイト期を標的としている。どちらのワクチンもスポロゾイト期の原虫が分泌するタンパク質を含んでおり(含んでいるタンパク質の量はR21の方が多い)、それに対する抗体応答を刺激することが期待されている。

それぞれのワクチンにはアジュバントと呼ばれる化学物質が添加されており、これにより接種後の免疫応答を増強することができる。R21で使われているアジュバントはモスキリックスのアジュバントよりも簡単に作ることができるので、製造コストの低減につながるものと期待されている。

だが、より大規模な試験が行われるまでは慎重になるべきだとWhiteは指摘する。試験の規模を大きくすると有効性の値が下がることはよくあるという。「今回の試験は規模が小さいので、『やった、ずっといいワクチンができたぞ!』と喜ぶのはまだ早いと思います」。

効果の持続

研究者たちは、ワクチンの効果がどれだけ続くかにも注目している。R21の試験は1年間にわたって行われたが、ブルキナファソでマラリアに悩まされるのは1年のうち6カ月ほどしかないと、同じくマラリアワクチンを開発しているサナリア社(Sanaria;米国メリーランド州ロックビル)の最高経営責任者Stephen Hoffmanは言う。研究の後半、ワクチンを接種しなかった対照群でのマラリアの発症は1件のみだったことから、ワクチンの効果が1年間持続したかどうかを判断することはできないはずだと、Hoffmanは指摘する。

今回の研究を率いた健康科学研究所(ブルキナファソ・ナノロ)の寄生虫学者Halidou Tintoは、今後少なくとも1年間は450人の参加者にブースター接種(追加免疫)を続けて追跡調査する予定で、その後も1~2年間は試験を続けたいと話す。Tintoによれば、4800人の子どもを対象とした、より大規模なR21の試験が間もなく始まる予定で、この試験では年間を通じてマラリアが脅威となっている国も対象に含まれているという。

R21はモスキリックスに次いで最も普及に近づいているワクチン候補だが、世界中の研究者たちは、原虫の生活環のそれぞれ異なる段階で発現する複数のタンパク質を標的にするなど、これら2つのワクチンを改良する手段を模索している。シアトル小児病院研究所(米国ワシントン州)でマラリア原虫の生物学と免疫学を研究しているStefan Kappeは、「R21は単一成分のワクチンとしては限界にきていると思います」と話す。「今後は成分の種類を増やす必要があるでしょう」。

Kappeはサナリア社の研究者と共同で、個々のタンパク質ではなく、弱体化させた原虫の虫体から作製したワクチンを接種する方法を試している。

今のところ得られているR21の試験結果は心強いものだと、Koramは言う。蚊の効果的な駆除といった別の予防策と併用すれば、有効性が75%を下回るワクチンであっても死亡者数を減らすことはできると彼は話す。「どんな小さな努力でもよいのです」。

(翻訳:藤山与一)

参考文献

  1. Datoo.M., et al. Lancet 397, 1809–1818 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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