News in Focus

新型コロナウイルス変異株の呼称はギリシャ文字に

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210812

原文:Nature (2021-06-01) | doi: 10.1038/d41586-021-01483-0 | Coronavirus variants get Greek names — but will scientists use them?

Ewen Callaway

WHOは、新型コロナウイルス変異株の呼称をギリシャ文字とすることを提唱した。人々の間に混乱を引き起こしたり、特定の国に汚名を着せたりするのを避けるためだ。

SARS-CoV-2(黄色)に感染した細胞(赤)の走査型電子顕微鏡画像。 | 拡大する

NIAID

2020年末に新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2が引き起こす感染症;COVID-19)の第2波が南アフリカ共和国を襲ったとき、ウイルスを分析して高度な変異を起こした株を発見した同国の研究者たちは、それを501Y.V2変異株と呼んだ。他の科学的命名システムでは、この変異株はB.1.351、20H/501Y.V2、GH/501Y.V2と呼ばれている。しかし、多くの報道機関や一部の科学者は、この変異株を「南アフリカ株」と呼んでいる。

世界保健機関(WHO;スイス・ジュネーブ)は2021年5月31日、こうした混乱を抑え、特定の地域に汚名を着せるの避けるために新しい命名システムを提案し、その詳細をNature Microbiology で発表した(F. Konings et al. Nature Microbiol. https://doi.org/10.1038/s41564-021-00932-w; 2021)。新しい命名システムでは、この変異株は「ベータ株」と呼ばれる(「懸念される変異株(VOC)」参照)。

懸念される変異株(VOC)
WHOの呼称 Pango系統 GISAID系統 Nextstrain系統 最初に検出された国と時期 命名時期
アルファ株 B.1.1.7 GRY 20I/S:501Y.V1 英国、2020年9月 2020年12月
ベータ株 B.1.351 GH/501Y.V2 20H/S:501Y.V2 南アフリカ共和国、2020年5月 2020年12月
ガンマ株 P.1 GR/501Y.V3 20J/S:501Y.V3 ブラジル、2020年11月 2021年1月
デルタ株 B.1.617.2 G/452R.V3 21A/S:478K インド、2020年10月 2021年5月

ギリシャ文字を用いた呼称は、学術的な名称を置き換えることを意図するものではないが、政策立案者や一般の人々などの非専門家にとって、簡略で便利な呼称となるだろう。ウェルカム・サンガー研究所(英国ヒンクストン)でSARS-CoV-2の塩基配列を決定するチームを率いる統計遺伝学者のJeffrey Barrettは、「ニュースキャスターにとって、『B.1.617.2』より『デルタ』と言う方がはるかに簡単です」と話す。

クワズール・ナタール研究イノベーション・シーケンシング・プラットフォーム(南アフリカ共和国ダーバン)のディレクターであるバイオインフォマティシャンのTulio de Oliveiraは、「この呼称の定着を願うばかりです」と語る。

科学者が使用する予定の呼称
Nature は読者に、SARS-CoV-2変異株の呼称についてアンケート調査を行った。1362人から回答があり、その大半が、ギリシャ文字の命名システムを用いるか、文脈によって従来の名称と併用すると回答した。 | 拡大する

SOURCE: NATURE POLL

Nature のオンラインアンケート調査では、回答者の大半が、新しい呼称を単独または学術的な名称と一緒に用いるつもりだとしている(「科学者が使用する予定の呼称」参照)。

この命名システムは、複数の変異株と戦う南アフリカ共和国などの国では特に有用だろう。同国では、英国で最初に発見され、科学者がB.1.1.7と呼ぶ変異株(アルファ株)が増加しつつある。de Oliveiraなどの研究者は、インドで最初に発見され、B.1.617.2と呼ばれる変異株(デルタ株)のことも警戒している。

WHOの命名システムを支持する人々は、これを採用するのは単に混乱を避けるためだけではないと言う。「南アフリカ株」や「インド株」などの呼び方は、特定の国や地域の住民に汚名を着せることになり、各国が新たな変異株に関するサーベイランスの実施を躊躇しかねないからだ。アフリカ諸国の保健大臣が、地域で新たな変異株が見つかっても、爪はじきにされるのを恐れて発表したがらないことに気付いているde Oliveiraは、「地名で呼ぶのは全くもってやめるべきです」と話す。

エイズ研究プログラムセンター(南アフリカ共和国ダーバン)の疫学者であるSalim Abdool Karimは、「人々が『南アフリカ株』と呼ぶのは理解できます。彼らに他意はないのです」と言う。「問題は、この呼称を放置していたら、何らかの意図を持ってそれを用いる人々が出てくるということです」。

Barrettは、自分がメディアに登場する際には新しい呼称を用いるつもりだが、地名を用いた呼称はすぐにはなくならないと予想している。彼はNature へのメールで、「変異株を国名で呼ぶことに問題があるのは明らかですが、それでも人々がこの呼称を用いるのは、個々の変異株をパンデミックの物語と結び付ける役割を果たしていて、覚えやすいからです」と説明する。「新しい命名システムの呼称は今のところ没個性的です。一般の人には、どれがどれかを覚えるのは難しいでしょう」。

ここ数カ月で、ほとんどの科学者は、変異株の進化的関係を表す単一の系統命名システムを用いることで落ち着きつつある。一方で、WHOの命名システムによる呼称が一般の人々の間で定着すれば、それがデフォルトになるだろうと、ルイジアナ州立保健大学(米国シュリーブポート)のウイルス学者のJeremy Kamilは語る。

(翻訳:三枝小夜子)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度