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付け加えがちな私たち

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210738

原文:Nature (2021-04-08) | doi: 10.1038/d41586-021-00592-0 | Adding is favoured over subtracting in problem solving

Tom Meyvis & Heeyoung Yoon

問題解決に関する心理学実験で、人々は、物、考え、状況などから要素を取り除く方が効率的であるときでも、要素を付け加える解決法を考える場合が多いことが分かった。

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LeventKonuk/iStock Editorial/Getty

ブロック玩具でできた建物を描いた図1を見てほしい。屋根が基礎部分の1つの角にある1本の支柱で支えられていて、屋根の下には小さな人形が置かれている。人形をぺしゃんこにせずに、屋根の上に重いれんがを置くことができるようにこの建物を改造するとしたら、あなたならどうするだろうか。ただし、ブロックを1個加えると10セントの費用がかかる。あなたの考えが、バージニア大学(米国シャーロッツビル)のGabrielle S. AdamsらがNature 2021年4月8日号258ページで報告した研究の被験者の大多数と同じであれば1、屋根をしっかり支えるために支柱を増やすだろう。しかし、もっと単純で費用のかからない解決法は、既にある支柱を取り除いて屋根を直に基礎部分の上に置くことだ。一連の同様の実験から、人々は常に、要素を取り除く変更よりも要素を加える変更を考える場合が多いことをAdamsらは見いだした。これは、日々の意志決定に広い意味を持つ、人間の傾向といえる。

例えば、Adamsらは保管されたデータを分析し、次のことに気付いた。大学の新任の学長が、学生や職員や教員にとってより良い大学にするための改革案を求めたとき、既存の規則、慣行、カリキュラムなどをなくすことに関係したものは回答の11%だけだった。また、Adamsらは、縦10マス横10マスの格子の所々が緑色になっている図(空白のマスは白色)を被験者に見せた。緑色のマスを増減させて、緑色のマスの配置が左右対称かつ上下対称になるようにしてほしいと被験者に依頼すると、被験者らは緑色のマスが多い象限から緑色のマスを消す方が効率的である場合も、緑色のマスが少ない象限に緑色のマスを増やすことが多かった。

Adamsらは、実験の被験者が引き算の解決法をほとんど提案しなかった理由は、引き算の解決法の価値を認めていないからではなく、そうした解決法を考えていなかったからだということを示した。事実、引き算の解決法の可能性に明示的に触れる指示があった場合、あるいは被験者が考えたり試したりする機会がもっと多かった場合は、被験者が引き算の解決法を提案する可能性は増加した。人々は「この場合、何を付け加えることができる?」というヒューリスティックス(発見的方法)、つまり、意志決定を単純化してその速度を上げるための標準的な戦略を適用しがちであるらしい。このヒューリスティックスは、直観的ではない、他の解決法を考えようとする認知的努力で克服できる。

図1 ブロック玩具の建物の安定性を改善する
このブロック玩具の建物の屋根は、基礎部分の1つの角にある1本の支柱で支えられている。屋根の上に重いれんがを載せると、屋根は崩れてその下の人形をつぶす。Adamsらは心理学実験の被験者に、屋根の上にれんがを載せても支えられるようにしてこの建物の安定性を改善してほしいと依頼し、被験者たちが取った解決方法を分析した1。(参考文献1の補足データ図2から改変) | 拡大する

Adamsらは被験者が引き算の解決法を考えない点を重点的に考察したが、私たちは、引き算の解決法は評価される可能性も小さいという事実が、足し算の解決法を選ぶ傾向をさらに強めているのかもしれないことを提起したい。人々は、引き算の解決法の評価は、足し算の解決法よりも低いだろうと考える可能性がある。何かを取り除く提案は、何か新しい、付け加えるものを思い付くよりも創造性に乏しいような感じがするかもしれないし、取り除く提案をした結果は社会的あるいは政治的にネガティブなものになるかもしれない。例えば、大学の学科の廃止を提案することは、そこで働く人々には歓迎されないかもしれない。さらに人々は、既存の要素は存在理由があり、付け加えるものを探す方が効果的だと考える可能性がある。最後に、サンクコストバイアス(金、努力、時間を投資した場合はその取り組みを続けがちになる傾向)や無駄を避けたい気持ちからも、人々は既存の要素をなくすことには消極的になるかもしれない2。その要素を最初に作り出す際、努力が必要だった場合は特にそうだ。

このように引き算の解決法が不利な点を意識して、人々は常に足し算の解決法を探し出すように促されているのかもしれない。Adamsらは、人々は足し算の解決法に頻繁に触れることでそれを思い付きやすくなり、さらに足し算の解決法を検討する可能性が高くなるのだ、という理由を提案している。Adamsらの考える理由と、引き算の解決法は不利であるという私たちの見方は矛盾しない。私たちはさらに、人々はこれまでの経験から、取り除くのではなく加えるように期待されていると思い込んでしまうのかもしれないと考えている。このため、今回の被験者たちは、過去の経験から一般化して、要素を加えるべきだと直観的に思い込み、この思い込みを再考するのは、さらによく考えるか、明示的に促された場合だけになるのかもしれない。同様に、大学の職員や教員は、新任の学長が自分たちに望んでいるのは、既存の構想の批判ではなく新たな構想を作り上げることだと暗黙のうちに思い込むのかもしれない。

Adamsらの発見の意味は何だろうか。加えるのではなく、取り除くことによって状況は改善できることが多いということを考えないとすれば、現実世界にはいろいろ影響が生じる。例えば、人々が自宅のインテリアに不満であるとき、散らかったソファーテーブルを処分しても同じくらい効果的だったとしても、財布のひもを緩めてさらに家具を入手することで問題を解決しようとするかもしれない。このような傾向は、使えるお金に制約がある消費者の場合は特に顕著かもしれない。そうした消費者は有形の商品を手に入れることに特に力を注ぎがちだ3。これは、消費者の金銭的な状況を悪化させるだけではなく、環境への負荷も増す。さらに大きなスケールで考えれば、個々の意志決定者が付け加える解決法を好めば、組織のさらなる肥大化や4、ほぼ世界的なものだが、環境面では持続不可能な経済成長の追求など5、問題をはらむ社会現象を悪化させるかもしれない。

今回の研究は、こうした将来の隠れた危険を避ける方法を指し示している。政策立案者や組織の指導者は、加えるのではなく減らす提案を求め、減らす提案を高く評価することができる。例えば大学の学長は、委員会や方針をなくす勧告を期待しているし評価もする、と明確に述べることができるだろう。さらに個人も組織も、物事を加える傾向をセルフコントロールにより自ら抑えることができる。消費者は保管スペースを最小限にして購入を抑制することができるし、組織は特定の目標を達成できなかった計画を自動的に終わらせる満了条項を明示しておくことができる。

注意すべきは、問題解決のために何かを付け加えがちだという傾向が常に見られるとはいえないことだ。おそらく状況によっては、引き算の変更を行う方がたやすいはずだ。引き算の変更は、ここにはない何かを想像する必要はないからだ。実際、人々は状況が今とどう違っていたかを想像する場合、実行しなかった行動を実行した場合を考えるのではなく、実行した行動をもしも実行しなかったら、と考えることが多い6。行動しなかった場合を私たちが積極的に想像するのであれば、どういう場合にそれが、要素を取り除くことを想像することにまで発展するのかを調べることは価値があるだろう。その知見は、私たちが引き算によって問題を解決する際に役立つはずだ。

(翻訳:新庄直樹)

Tom Meyvis & Heeyoung Yoonは、共にニューヨーク大学レナード・N・スターン・スクール(米国)に所属。

参考文献

  1. Adams, G. S., Converse, B. A., Hales, A. H. & Klotz, L. E. Nature 592, 258–261 (2021).
  2. Arkes, H. R. & Blumer, C. Organiz. Behav. Hum. Decision Processes 35, 124–140 (1985).
  3. Tully, S. M., Hershfield, H. E. & Meyvis, T. J. Consumer Res. 42, 59–75 (2015).
  4. Meyer, J. W. & Bromley, P. Sociol. Theory 31, 366–389 (2013).
  5. Victor, P. Nature 468, 370–371 (2010).
  6. Byrne, R. M. J. & McEleney, A. J. Exp. Psychol. 26, 1318–1331 (2000).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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