Feature

マスク着用義務の解除について、科学の視点で考えてみる

新型コロナウイルス感染者数の減少やワクチン接種率の上昇に伴い、米国などではマスクの着用義務が部分的に解除されつつある。この動きは早過ぎないのだろうか?

拡大する

KOBI WOLF/BLOOMBERG/GETTY

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210714

原文:Nature (2021-05-27) | doi: 10.1038/d41586-021-01394-0 | What the science says about lifting mask mandates

Lynne Peeples

米国ニューハンプシャー州の自然食品マーケット「ウルフボロ・フード・コープ(Wolfeboro Food Co-op)」の正面入口には今も、「マスクを着用してください」と書かれたポスターが張ってある。最近までそのすぐ下に、同店が連邦政府の方針に従っていることを説明するポスターも張ってあった。

店長のErin Perkinsが下のポスターを剥がしたのは2021年5月14日のことだった。前日に、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチン接種が完了した人は基本的にマスクを着用する必要はない、とする声明を米国疾病管理予防センター(CDC)が出したからだ。「予想外のことでした」と彼女は言う。「おかげで私たちは危険な立場に置かれています。ワクチン接種が終わっているかどうかをお客様に尋ねるなんて、できませんから」。

米国ニューイングランド地方の各州は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2;重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)の感染拡大を防ぐために公共の場でのマスク着用を義務付けてきた。ニューイングランド地方でマスクの義務化に踏み切るのが最も遅かったニューハンプシャー州は、他の地方でパンデミック関連規制の緩和が始まると、2021年4月16日にはこの地方で最も早くマスク着用義務を解除した。ただし州内の都市や企業は、マスク着用に関して独自の方針を定めることができる。Perkinsは、直ちに方針を転換することには抵抗があった。CDCが最新の指針を発表したのは、「ワクチン接種が完了した人も、まだ屋内ではマスクを着用すべきだ」という声明を出してわずか2週間後だったからだ。Perkins自身、マスク未着用の人が店内にいるのは不安だったし、得意客の中には免疫力が低下している人もいた。最近の研究では、免疫力が低下している人はワクチン接種後も感染する恐れがあるという1

「私たちは、もう少し納得できる数字になり、状況が好転したと実感できるようになるまでは待つことにしました」と彼女は言う。マスクの着用を求められて不機嫌になった顧客に対応せざるを得なくなるのは覚悟の上だ。

同じニューハンプシャー州にあるダートマス大学(米国ハノーバー)の疫学者Anne Hoenは、Perkinsの慎重さを理解できる。州と連邦政府の動きは、どちらも少し早過ぎるのではないかと彼女は言う。Hoenは、州境を越えたバーモント州に住んでいる。バーモント州の人口当たりのCOVID-19入院患者数は全米で最も低い水準だったが、隣のニューハンプシャー州より約1カ月も遅い5月中旬まで、州全体で屋内でのマスクの着用を義務付けていた。同州の知事であるPhil Scottがワクチン接種を完了した人のマスク着用義務を緩和したのは、5月13日のCDCの声明を受けてのことだった。

米国はマスク着用義務の緩和に向かっているが、他の多くの国々はそうではない。ワクチンの接種ペースが鈍化し、感染者数が増加する傾向が見られたドイツは、4月末にマスクの着用義務を強化した。スペインも3月末にマスクの着用義務を厳格化している。

マスクの着用でSARS-CoV-2による死亡者数が減ることは、エビデンス(科学的根拠)により明らかだ。しかし、パンデミックの発生から約1年半となり、多くの地域でワクチン接種率が上昇している中、公衆衛生に携わる科学者や当局は、いまだに人々(特に、ワクチン接種を受けていない人々)にしかるべき状況でマスクを着用してもらうのに苦労している。全米の平均マスク着用率は、2021年2月中旬から低下している。その一方で、一部の地域では感染率が上昇している。政治家と公衆衛生当局のそれぞれが、継ぎはぎの方針と相反するメッセージを出してきたことで、混乱と困惑が生じ、解釈すべきデータは取り散らかったままになっている。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の感染症内科医であるMonica Gandhiは、「てんでんばらばらです」と言う。「それが今回のパンデミックの問題点です。私たちは進みながら道を作っているような状況です」。

例えば、米国政府は2021年4月下旬になってようやく、屋内と屋外でのマスクの使用を区別して推奨するようになったが、ウイルスが屋外で伝播するリスクが屋内に比べてはるかに低いことは何カ月も前から科学的に明らかになっていた2。CDCの長官Rochelle Walenskyは、同センターがマスク着用義務緩和の声明を出してから間もない5月下旬、マスク着用に関する指針を再び変更する可能性があると語った。Hoenをはじめとする疫学者は、一度廃止された規則を復活させるのは非常に難しいと警告している。

マスクの着用は、今回のパンデミックが収束するまで続くだろう。だが今後、何らかのパンデミックが発生した場合にも、マスクの着用が一般的な対応となる可能性が高い。それ故、研究者たちは、人々にマスクの着用を促す方法について、科学的な情報をくまなく把握しようと試みている。SARS-CoV-2のパンデミックが新たな段階に入った今、世界中の科学者がこれまでに蓄積されたデータにアクセスし、ある政策が他の政策よりも効果的だった理由を探り、いつ、どのようにして政策を転換する必要があるかを調べている。

一部の人々は、ワクチン接種率の上昇に合わせて、マスク着用に関するメッセージも変えるべきだという。Gandhiもその1人で、人々に希望を与え、ワクチン接種への意欲を高めるために、当局は制限を緩和し始めるべきだと主張する。しかし、政策の転換は慎重に行う必要がある。

例えばインドでは、ニューハンプシャー州が規制を解除したのと同じころに感染者が増加し始めた。2020年9月に第一波が発生したインドは、厳しいマスク着用義務を課すことで抑え込みに成功していた。しかし、感染者数が減少するとマスクを着用する人が減り、大規模な集会に参加する人が増えて、感染は一気に広まってしまった。インド政府は現在、大慌てでワクチン接種を進め、マスクを着用するように呼び掛けている。

「マスクの着用は、最後の最後までやめるべきではないのかもしれません」とHoenは言い、他の国々が米国のやり方を真似しないことを願っている。

マスクと義務

マスク着用の義務化の主張は、パンデミックの比較的早い段階で登場した。2020年4月6日、ドイツの人口約11万の都市イエナ(チューリンゲン州)は、世界でも最も早い時期に公共の場でのマスクの着用を義務付けた。イエナ市長のThomas Nitzscheは、この措置を施行するまでの2日間は眠れなかったと振り返る。「市民が受け入れてくれるかどうか、確信がなかったからです」と彼は言う。「幸い、受け入れてもらえました」。

研究者らの推定によれば、イエナではマスクの着用が義務化されてからの20日間で、新規感染者が約75%減少したという3

しかし、マスクの義務化は、スイッチを入れれば必ず効果が出るというような単純なものではない。マスクの義務化は強力な手段だが、一般の人々に受け入れられるためには効果的なメッセージとロールモデルが必要であることを示すエビデンスが蓄積してきている。

イエナでは、マスク着用の義務化に先立ち、市当局が地元の人々にこれからどのような生活になるかを知ってもらうためのキャンペーンを行った。市内のあちこちに「Jena zeigt Maske(イエナはマスクを見せる)」と書かれたポスターが張り出され、Nitzscheはマスクをして路面電車に乗る自分の姿を撮影させた。

Nitzscheにとって、早くからマスクの有効性を訴え、その着用を義務付けるのは、ごく当たり前のことだった。一方、チューリンゲン州の他の都市やドイツ国内のほとんどの地域ではマスクの義務化はなかなか進まず、患者数が急増してから義務化するのが一般的だった。イエナではマスクの着用が義務化されてから5日後には新規の感染者がゼロになる日が出たが、イエナから近い州都のエアフルトではウイルスの伝播が続き、マスクの着用が義務化されてから初めてそのスピードが遅くなったことが、イエナの公衆衛生指導者によるプレプリント論文で明らかになっている4

2020年9月の規制の変更を受け、マスク着用を求めるポスターを掲示する、英国ウェールズの店舗。 | 拡大する

MATTHEW HORWOOD/GETTY

少数の例外はあるものの、世界中で同じようなことが起きている。中国をはじめとするアジア諸国では迅速にマスクの着用が受け入れられ、おそらくこれにより大規模な感染拡大を防ぐことができた。Nitzsche自身は、2020年3月中旬から特定の公共の場でのマスクの着用を義務付けたチェコ共和国の措置がヒントになったと述べている。

ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(ドイツ)の経済学者Klaus Wäldeは、他の地域もイエナに倣うべきだったと言う。しかし、ドイツ国内外でのマスクの義務化の時期がばらついていたおかげで、Wäldeらはまたとない研究の機会を得ることができた。

Wäldeらは、ドイツの401の地域のデータを用いて、マスクの着用の義務化がSARS-CoV-2の伝播に与える影響を推定した3。彼らは地域差を利用して対照群を合成し、介入が行われなかった場合にどうなっていたかを推定した。その結果、マスクの着用を義務付けることで、報告される感染者数の1日の増加率が40%以上減少することが明らかになった。Hoenは、経済学者たちのこのアプローチは「巧妙」だと言う。「おかげで、マスクの有効性を示すエビデンスが増えました」。

2021年1月に発表された米国での同様の研究5は、パンデミックの初期に国が従業員にマスク着用を義務付けていたら、2020年4月下旬時点での感染者数と死亡者数の1週間の増加率を10ポイント以上減少させることができ、同年5月末までの全米の死亡者数を47%(約5万人)減らすことができたはずだとしている。また、2020年10月に発表された別のプレプリント論文は、カナダでのマスク着用の義務化と1週間の新規感染者数が20~22%減少した事象との間には関連があると結論している6

とはいえ、米国のデータは、規制だけではマスクの効果が十分に得られなかった可能性があることを示唆している。2021年3月に発表された35万人以上を対象とする調査では、マスクを着用しているとする自己申告は、政府によるマスク着用の義務化とは無関係に増加していたことが分かったのだ7。論文の著者の1人であるハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の疫学者John Brownsteinは、マスク着用の義務化が有効なのは確かだが、「私たちが調べたところ、コミュニティーの行動の方が良い指標となっていました」と言う。「政府の政策と、コミュニティーがそれを受け入れるかどうかは別の話なのです」。

この研究は、マスクの着用が本人と周囲の人々の双方を保護することを示した数百の観察や実験で得られたエビデンスに基づいている。マスクは、飛沫やエーロゾル(エアロゾル)に乗ったウイルス粒子の拡散と侵入を阻止することができるのだ。また、マスク内は湿度が高く保たれ、これにより病原体に対する肺の防御能力が強化されることが、2021年2月に発表された米国立衛生研究所(NIH)の研究で示唆されている8

それにもかかわらず、マスクの有効性や、今後もマスクが必要かどうかを巡る議論が、いまだにずるずると続いている。マスクの着用を義務付けている国々や、規制の解除に向かっている米国で感染者が再び急増した場合に、人々にマスクを着用してもらうには何が必要だろう? コロナ疲れが広がる中で、ワクチン接種が完了していない地域の人々がマスクを着用しようという気持ちになるには、どうすればよいのだろうか? 一部の研究者は、過去の危機から得られた教訓に注目している。

エイズ禍からの教訓

1980年代に、AIDS(後天性免疫不全症候群)を引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の流行が始まった当初、ウイルスの拡散を遅らせようとする公衆衛生当局は大きな課題に直面していた。問題は必ずしも、人々に「物理的なバリア(この場合はコンドーム)によって感染を防ぐことができる」と理解してもらうことではなかった。エモリー大学(米国ジョージア州アトランタ)の疫学者Ronald Valdiserriは、「問題の核心は多くの場合、防御のレベルではなく、リスクの認識にあったと考えています」と言う。米国の東海岸と西海岸の男性同性愛者たちは流行初期にゲイコミュニティーで多くの死者が出たことを無視できなかったのに対し、異性愛者の多くはHIV/AIDSを「ゲイの病気」と見なし、自分たちが感染のリスクにさらされているとは考えていなかったのだ。

SARS-CoV-2のパンデミック初期には、多くの場所で同様の悲劇が繰り返された。「人々は、『COVID-19は私のいるコミュニティーや町や隣近所に影響を与えるような病気ではない。だったらマスクなどしなくてよいではないか?』と考えたのです」と、Valdiserriは言う。彼は、HIV/AIDSの流行初期におけるコンドームの使用の促進に関する研究から得られた教訓を、コロナ禍でのマスク着用を促す政策に生かす方法に関する論文9の著者の1人だ。「『こうせよ』と言えば誰もがそれに従うというような単純な話ではないのです。人間のあらゆる行動について言えることです」。

HIV/AIDSと闘うための公衆衛生上の取り組みは、さまざまな集団に合わせた方法でコンドームの使用を呼び掛け、提供することを中心に行われてきた。サハラ以南のアフリカのセックスワーカーの間では、仲間が最高の代弁者となった。サッカーの人気選手たちは、男性たちにコンドームの使用を広めた。チュレーン大学(米国ルイジアナ州ニューオーリンズ)の感染症疫学者Susan Hassigによると、1980年代初頭にサンフランシスコとニューヨークでHIVが猛威を振るっていたときの効果的なキャンペーンの1つに、魅力的なゲイ男性が他のゲイ男性とコミュニケーションを取り、コンドームを「楽しくてセクシー」なものにするというものがあったという。

そうは言っても、マスクを楽しくてセクシーなものにすることなど、できるだろうか? マスクのマーケティングの効果に関する正式な研究は行われていないが、このアイデアはそう的外れではないかもしれない。子ども用の面白いマスクの作り方は簡単に調べられるし、大人用の魅力的なマスクを販売する店も少なくない。2021年3月に米国ロサンゼルスで開催されたグラミー賞の授賞式では、スターたちが衣装に合わせたマスクを着けて注目を集めた。

オックスフォード大学(英国)の公衆衛生科学者Helene-Mari van der Westhuizenは、SARS-CoV-2対策の初期の指針が、人々にマスクは「おっかない衛生用品」だという印象を与えてしまったことを嘆いている。当時は、マスクは医療用品であり、取り扱いや使用の方法が決まっていて、洗う温度まで気にしなければならないと強調されていた。政策を立案する際には、マスクの着用を医学的な行動ではなく社会的な行動として捉えるべきだと主張する論文10を著者の1人として発表した彼女は、「布マスクとそれに関連したファッションは、マスクの着用に遊び心と日常性をもたらしました。それがマスクの受容につながったのです」と語る。

もちろん、バランスとニュアンスが重要であることに変わりはない。マスクは機能しなければならない。「バルブ付きのマスクは大流行しましたが、あれは間違ったファッションの例です」とvan der Westhuizen。感染者がこのマスクをしていたら、ウイルス粒子をまき散らしてしまう。

マスクの着用をさらにややこしくしているのは、マスクはどれも同じというわけではないという事実である。サンフランシスコ州立大学(米国)のリサーチ・サイエンティストで、2021年1月にマスクに関する総説論文を共同執筆したJeremy Howardは、布製のマスクは「着用者が周囲の人を守る分には役立ちますが、着用者を周囲の人から守るのには必ずしも適していません」と言う11。一方で、医療用のN95マスクを着用するのは、やり過ぎかもしれないという。N95マスクは確かに着用者を保護してくれるが、通常の呼吸よりもはるかに高い吸気圧を要する製品であるため呼吸がしにくい。そこで彼は、N95マスクの代わりに、より入手しやすく快適なKN95マスクを推奨している。

ロンドンでマスクの着用が義務化されたことへの不快感を表して抗議する人。 | 拡大する

Peter Summers/Getty Images

2021年1月に各種マスクの有効性に関する別の総説論文12の共著者となったGandhiは、「メッセージのニュアンスを大切にすべき時期が来たと思います」と付け加える。マスクの着用を求めるメッセージの中で、どのようなマスクが適切かを明示したドイツは正しいと彼女は言う。イエナをはじめとするドイツ国内では、布製のマスクをしていても着用義務に従ったことにはならないのだ。ドイツでは2021年1月から公共の場での医療用マスクの着用が義務付けられている。ワクチン接種率で米国に後れを取っているドイツは、同年4月にマスクの着用ルールを一段と強化し、公共交通機関ではN95またはKN95マスクを着用することを義務化した。ドイツでは、感染リスクが高い人々やマスクを買えない人々にマスクを配布している。また、指導者たちは彼らにマスク着用を義務付けている。「マスクをしないと罰金を課されます」とNitzscheは言う。「あるいは人からじろじろ見られます」。

変わる文化

韓国をはじめとする東アジアの国々は、欧米よりも有利なスタートを切った。この地域にはもともとマスクをする文化があったため、COVID-19の発生後は速やかに着用が広がった。欧米諸国では、世界保健機関(WHO)やCDCの公衆衛生当局者でさえ、当初はマスクは役に立たない、それどころか有害であるなどとして着用を差し控えさせようとしていたのとは対照的だ。

ソウル国立大学医学部(韓国)で内科学と感染症の研究に従事し、韓国でのマスク使用に関する論文13を発表しているHong Bin Kimは、この文化が良い影響を及ぼしたと言う。Kimの研究は、リーダーが市民の模範となることの重要性も強調している。ドイツのイエナでNitzscheや公衆衛生当局者が果たしたような役割を、韓国では政治家や医師が果たしているという。

今回のパンデミックが収束した後、欧米諸国でマスクの着用が東アジアの国々と同じ程度に普及するとは考えにくい。しかしvan der Westhuizenは、以前に比べればマスクははるかに一般的になり、受け入れやすくなるだろうと予想している。「新しい習慣がここまで広まったことは、本当に驚異的です。私たちは貴重な予防手段を手に入れたのです」と彼女は言う。

彼女がここで念頭に置いているのは、SARS-CoV-2とその変異株や、インフルエンザだけではない。例えば、彼女の長年の研究対象でもある結核は、今でも南アフリカ共和国の主要な死因となっている。マスクが結核の広がりを抑制するのに役立つ可能性があることはデータによって示されているにもかかわらず、社会規範やスティグマ(間違った認識)がその着用を妨げてきた14。COVID-19対策の初期の指針では、マスク着用は症状のある人だけでよいとされていた。それを知った彼女はすぐに、結核の状況を思い浮かべたという。公衆衛生当局が同様の譲歩をしてきたからだ。幸い、マスクの推奨は進化した。「パンデミックのおかげで、過去のスティグマは払拭されました」とVan der Westhuizen。

Hassigは、それとは別の、公衆衛生上の介入を思い出したという。例えば車のシートベルトだ。米国や英国では、当初はシートベルトの着用は単なる推奨にとどまっていたが、その後、法律で規定されるようになった。やがて警察が違反者に罰金を科すようになると、シートベルトの着用は当たり前になった。「公衆衛生上の介入が、何らかの強制の仕組みなしに広く受け入れられることはほとんどありません」とHassigは言う。ちなみに彼女はワクチン接種を完了しているが、人々にマスクの着用を奨励したいという気持ちもあり、今でもマスクを着用している。

一方Perkinsは、ニューハンプシャー州ののどかな町の顧客を、自身で監視しなければならない。これを州や連邦政府の強制なしにやり遂げるのは難しい。少なくとも1日に1回は、「なぜいまだにマスクの着用を求めるのか」と顧客から尋ねられるという。マスクなしで来店したある男性は、彼女が差し出した無料のマスクの着用を拒んで出ていったという。「人々は異口同音に『なぜ?』と聞きます。一部の人は、マスクに対して非常に強い拒否感があるのです」とPerkinsは言う。「私はひたすら、『着用が現時点での当店の方針だからです』と説明します。私たちが安心だと思えるようになれば、方針は変わります」。

(翻訳:三枝小夜子)

Lynne Peeplesは、ワシントン州シアトル在住の科学ジャーナリスト。

参考文献

  1. Boyarski, B. J. et al. J. Am. Med. Assoc https://doi.org/10.1001/jama.2021.7489 (2021).
  2. Bulfone, T. C., Malekinejad, M., Rutherford, G. W. & Razani, N. J. Inf. Dis. 223, 550–561 (2021).
  3. Mitze, T. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 117, 32293–32301 (2020).
  4. Pletz, M. W. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2020.09.02.20187021 (2020).
  5. Chernozhukov, V., Kasahara, H. & Schrimpf, P. J. Econom. 220, 23–62 (2021).
  6. Karaivanov, A. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2020.09.24.20201178 (2021).
  7. Rader, B. et al. Lancet Digit. Health 3, e148–e157 (2021).
  8. Courtney, J. M. & Bax, A. Biophys. J. 120, 994–1000 (2021).
  9. Valdiserri, R. O., Holtgrave, D. R. & Kalichman S. C. Aids Behav. 24, 3283–3287 (2020).
  10. van der Westhuizen, H.-M. et al. Br. Med. J. 370, m3021 (2020).
  11. Howard, J. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 118, e2014564118 (2021).
  12. Gandhi, M. & Marr, L. C. Med 2, 29–32 (2021).
  13. Lim, S. et al. J. Hosp. Infect. 106, 206–207 (2020).
  14. Driessche, K. V. et al. Lancet Resp. Med. 4, 340–342 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度