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クジラの声で海底下を探る

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210617a

ナガスクジラの発した音波が地殻内部で反射してきた信号を捕捉する。

ナガスクジラ(Balaenoptera physalus)の力強い声は海底下の構造を調べるのに役立つ。 | 拡大する

BY WILDESTANIMAL/MOMENT/GETTY

科学者が海底下の構造を地図に描く上で、意外な協力者が新たに登場した。ナガスクジラ(Balaenoptera physalus)だ。体長18~27mのこの巨大生物の声は海中で1000km先まで届き、音量は船のエンジン並みだ。Science に掲載された最近の研究によると、こうした声を海底下2.5kmまでの構造を画像化するのに利用できるという。

通常の海底画像化システムは、大きなエアガンを用いて強力な音波を海底に向けて発射する。この音波が地殻の内部に入り込んだ後に跳ね返る。海底に設置した計器でこれを検出することで、音波が通過してきた海底下の構造を割り出す。だがこの調査は費用がかかる他、エアガンが発する衝撃性の音は海生哺乳類に悪影響を及ぼす恐れがある。今回の新研究は、エアガンの代わりにナガスクジラの声を使った海底画像化の可能性を示したものだ。

「別の情報源を利用できるというのは実にすてきなことです」と、この研究論文を共著したチェコ科学アカデミー地球物理学研究所の地震学者Václav Kunaは言う。

当時オレゴン州立大学(米国)に在籍していたKunaは、オレゴン州沿岸の地震を研究する中で、海底の地震計が奇妙な信号を記録していることに気付いた。その信号の周波数はナガスクジラの声の周波数と一致していた。クジラの声がこうした観測装置の記録に現れることはよくあると、ワシントン大学(米国シアトル)の海洋地震学者Emily Roland(今回の研究には関与していない)は言う。それらの信号は普通、地震学者にとって邪魔者だ。

しかしKunaは、一部の声が海底観測装置の地震計には現れるが水中音響マイクでは捉えられていないことに気付いた。この信号がクジラから直接届いたものではなく、地殻内部から跳ね返ってきたエコーであることを示している。

クジラの歌の音響解析

この信号をイメージングに使うにはまず、クジラのおおよその位置を決定する必要があった。そのためKunaは、同じ鳴き声を起源とする2組の音波の到達時間を計った。1つは海底地震計に直接届いた音波、もう1つは海底と地下構造の間で反射してから同じ装置に届いた音波だ。

ナガスクジラの歌は1秒間の大音量パルスからなっており、連続音よりも解析が容易で画像化に利用しやすいと、ワシントン大学の海洋地球物理学者William Wilcock(今回の研究には関与していない)は言う。クジラは北極海の氷に覆われた領域を除いてほぼどこにでも現れるので、その声は「多くの領域で使えるでしょう」と言う。

この新手法には限界もあるとKunaは言う。ナガスクジラの歌は周波数帯域が狭いので、エアガンの衝撃音に比べると得られる海底下の画像は不鮮明になる。さらに、クジラの位置を三角測量で求める処理と、単一の地震計のデータ解析にクジラの声を使う場合には、比較的平坦な海底が必要だ。傾斜地や起伏の大きな領域では多数の観測ステーションが必要になるだろう。

それでも、クジラの声は海の広い範囲にとどろいているので、過去のデータを見直して新たな知見を得られるだろうとRolandは言う。気候学(海底堆積物の炭素貯蔵量を精度よく推計)や地震学(震源の正確な特定や断層帯の監視)などの分野で役立つ可能性がある。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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