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数学の「天才」AIが人類に新たな難問を出題

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210502

原文:Nature (2021-02-03) | doi: 10.1038/d41586-021-00304-8 | AI maths whiz creates tough new problems for humans to solve

Davide Castelvecchi

伝説の天才数学者シュリニバーサ・ラマヌジャンにちなんだ名が付けられたAIアルゴリズムは、数々の興味深い数式を提案するが、その中には証明が困難なものも含まれている。

数学者シュリニバーサ・ラマヌジャン | 拡大する

HISTORIC COLLECTION/ALAMY

πやeなどの数学定数の多くは、小数部分が循環することなく無限に続く無理数である。今回開発された新しい人工知能(AI)アルゴリズム「ラマヌジャン機械(Ramanujan Machine)」は、重要な数学定数の値を計算する新しい数式を生成することができる。このAIが提案した数式の中には、数学者が以前から証明を試みているものも含まれている。

ラマヌジャン機械は、数学定数の値を計算するためのよく知られた数式(例えば、πの最初の数千桁を計算するための数式)から出発する。このアルゴリズムはここから、同じような計算ができる新しい数式の予測を試みる。このプロセスによってラマヌジャン機械がそれらしい「予想(conjecture)」を提案した後は、人間の数学者が、その数式を使って数学定数の値を正しく計算できることを証明する。

テクニオン・イスラエル工科大学(ハイファ)のプロジェクトチームは、2019年にウェブサイト上でこうした予想を公開し始め(go.nature.com/3td0ky3参照)、研究者たちは、そのうちいくつかについて正しいことを証明してきた。しかし、物理学の分野で重要な応用が考えられる「アペリーの定数(Apery’s constant)」の数式の予想など、未解決の問題も残っている。このプロジェクトを率いる物理学者Ido Kaminerは、「最後の結果、すなわち最も刺激的な結果を証明する方法は、誰も知りません」と言う。彼は、こうした予想を自動的に次々と作成することで、これまで存在が知られていなかった数学分野間のつながりに数学者の目を向けさせることができると考えている。

Nature 2021年2月3日号に掲載されたこのプロジェクトのAIは、20世紀初頭に活躍したインドの数学者シュリニバーサ・ラマヌジャン(Srinivasa Ramanujan)にちなんで名付けられた1。ラマヌジャンは、通常の数学論文に登場するような証明をほとんど書かず、「夢に現れた女神が教えてくれた」という数々の数式でノートを埋め尽くした。彼は1920年に32歳の若さで死去したが、彼の研究は今も新たな研究のヒントになっている。

現時点では、ラマヌジャン機械の応用範囲は限られている。このアルゴリズムが生成できる予想は、分母の中に分数が無限に入れ子になっている連分数と呼ばれる形の数式だけなのだ。

Kaminerたちのチームは、連分数を見つけるためのアルゴリズムをいくつか試し、概念的に重要な数字に適用した。その1つが、19世紀のベルギーの数学者ウジェーヌ・カタラン(Eugène Catalan)の研究から生まれた「カタランの定数(Catalan’s constant)」である。

カタランの定数は約0.916であるが、非常に謎めいた数字で、有理数であるかどうか、つまり2つの整数の分数として表すことができるかどうかはまだ明らかになっていない。カタランの定数についてこれまでに数学者が証明できたのは、「無理数性指数(irrationality exponent)」(有理数を使ってその数を近似することの難しさの指標)が少なくとも0.554であることだけである。カタランの定数が無理数であることを証明することは、その無理数性指数が1よりも大きいことを証明することに相当する。Kaminerのチームは、ラマヌジャン機械が生成した数式によって、人間が出したこれまでで最高の結果をわずかに改善させ、無理数性指数を0.567にすることができた。

ペンシルべニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)の数学者George Andrewsは、「カタランの定数の無理数性指数を改善させたという事実は、このアルゴリズムが本当に難しい問題に貢献できることを示しています」と言うが、現時点では名前負けしていると考えている。「これを『ラマヌジャン機械』と呼ぶのは大げさです」。

Kaminerのチームは、このAIの技術を拡大し、他の種類の数式も生成できるようにすることを計画している。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Raayoni, G. et al. Nature 590, 67–73 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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