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翼竜類の進化的起源を示す近縁動物

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210337

原文:Nature (2020-12-17) | doi: 10.1038/d41586-020-03420-z | Closest relatives found for pterosaurs, the first flying vertebrates

Kevin Padian

恐竜類に近縁な既知最古の飛行性脊椎動物として知られる翼竜類だが、その進化的起源は2世紀にわたり謎に包まれてきた。今回、一連の化石標本の詳細な解析から、この謎に対する1つの答えが導き出された。

1812年、自然史博物館(フランス・パリ)の比類なき解剖学者ジョルジュ・キュヴィエ(Georges Cuvier)は、化石四肢類に関する自身の研究をまとめた書籍『化石骨の研究(Recherches sur les Ossemens Fossiles des Quadrupèdes)』を出版した1。四肢類とは、魚類を除く全ての脊椎動物を指す分類群である。キュヴィエはこの著書の中で、四肢類の古生物学的知見の全てを網羅し、その壮大な多様性と奇妙な化石形態の謎を探った。一連の化石四肢類には、現生動物と明らかに近縁と分かるものもあれば、あまりに奇妙で分類が困難なものもあり、中でもドイツ・バイエルン州で発掘された、長いくちばしと四肢を持つジュラ紀(約1億5000万年前)の小型動物はその最たるものだった。この奇妙な動物の進化的起源については長く謎に包まれてきたが、今回その謎を解き明かす初めての証拠が、アルゼンチン自然科学博物館(ブエノスアイレス)とバーミンガム大学(英国)に所属する古生物学者Martín Ezcurraら2によって示され、Nature 2020年12月17日号445ページで報告された。

1800年、キュヴィエは、フランス・ストラスブールに住む友人の博物学教授ジャン・エルマン(Jean Hermann)から1通の手紙を受け取った3。そこには、エルマンがドイツ・マンハイムの博物学コレクションに関する書籍で目にした類例のない化石標本のことが記されており、イタリア人博物学者コジモ・コリーニ(Cosimo Collini)による1784年の最初の3自然哲学的な記載報告に基づく特徴の解釈と、手描きのスケッチが同封されていた(図1a)。この動物の手指の1本が極めて長いことに気付いたエルマンは、それが飛膜を支えていたのでないかと正確に想像した。この動物は、鳥ではあり得なかったが、コウモリには指の骨に支えられた飛膜があることから、それに似たものかもしれないと考えたのだ。エルマンは、軟らかい耳介と毛皮(これも結果的には正しかった)、そして生殖器を備えた一種の哺乳類としてこの動物を描いた。

キュヴィエは、この謎めいた動物の存在にすっかり魅了されるも、いら立ちを感じていた。化石標本の複製を入手したかったのだが、エルマンがその後間もなく他界したため、協力を得られなかったのだ。キュヴィエはその後数年にわたり、標本を見た博物学者たちにスケッチを送ってもらいながら研究を進めたという(図1b)。彼が最終的に複製を手にしたのは、『化石骨の研究』の出版から数年後の1818年のことだった。標本が手元にないことに加え、送られてきたスケッチが互いに著しく異なっていたことも問題だった。しかしキュヴィエは、優れた解剖学の知識を駆使してそれらの不一致を解消し、数々の特徴から、この動物が哺乳類ではなく爬虫類であると結論付けた。

図1「プテロダクティル」のスケッチ
a ジャン・エルマン(Jean Hermann)が最初の記載報告に基づいて描き、ジョルジュ・キュヴィエ(Georges Cuvier)に宛てた手紙に同封したスケッチ。キュヴィエは当時、四肢類(魚類を除く全ての脊椎動物)の化石に関する書籍の準備を進めていた。
b ミヒャエル・オッペル(Michael Oppel)が化石標本の原物を見て描いたスケッチ(aと同一の動物を示す)。キュヴィエが「プテロダクティル(「翼指」の意)」と名付けたこの動物は、飛行能力を初めて進化させた脊椎動物である「翼竜類」の既知で最古の動物である。 | 拡大する

MUSÉUM NATIONAL D’HISTOIRE NATURELLE

だが、それは普通の爬虫類ではなかった。キュヴィエはこの動物について、空を飛ぶことができ、温血動物で、体が毛で覆われており、地上では翼を折り畳んで主に後肢で歩いていたと推測した。彼は、1809年に発表した論文の中で出版予定の『化石骨の研究』に触れ、「この本で存在が明かされている全ての古代生物の中で、これは疑いの余地なく最も不可思議な動物だ。もしも生きている姿が見られたなら、それは現存のどの動物よりも奇妙なものに見えるに違いない」と述べている4。また、『化石骨の研究』では後に、「この議論の全体を踏まえていない人の目には、その姿は自然の力で生み出されたものではなく、奇怪な想像の産物として映るだろう」と結論している。

それではここで、キュヴィエが「プテロダクティル(ptero-dactyle;「翼指」の意)」と名付けた、翼竜類の世界に飛び立つとしよう。余談だが、プテロダクティルという名前は1809年の論文タイトルでは誤植により「ペトロダクティル(petro-dactyle;「岩指」の意)」となっており、後に『化石骨の研究』内で訂正された。それから約2世紀、翼竜類は今なお、多くの化石動物の中でも特に議論の絶えない存在であり続けている。とはいえ、意見の一致が見られる部分もあり、1980年代には、翼竜類が単に滑空しただけでなく能動的に翼を羽ばたかせていたこと、鳥類や一部の非鳥類型恐竜に似た構造の後肢で地上を歩いていたこと5、そしてコウモリよりも鳥類によく似ていたことが定説となった。

現在、根拠が確かとされる翼竜類は優に100種類を超え、世界各地で化石標本が発見されていて、その年代も三畳紀から白亜紀(約2億3500万~6600万年前)と実に幅広い。中には極端に奇妙なものもいるが6(図2)、より標準的な種類であっても、その起源や他の主竜類(ワニ類および鳥類を含む恐竜類)との類縁関係は、これまで十分に確立されていなかった。

図2 初期の翼竜類ドリグナトゥス(Dorygnathus)の復元図
Ezcurraら2は、ラゲルペトン類と呼ばれる恐竜類の近縁動物群が、長く探し求められてきた、翼竜類に最も近縁と考えられる動物群であることを示した。 | 拡大する

KEVIN PADIAN

1980年代、翼竜類に最も近縁なのは、恐竜類に近縁な小型の二足歩行爬虫類であるとする説が提唱された7。この説は、翼竜類が進化系統樹のどこに位置するのかを検討した最初期の系統発生解析の結果からも支持されたが8、それを裏付ける化石証拠はなかなか見つからなかった。翼竜類はその骨格自体が極めて特殊なため、通常であれば他の動物群との類縁関係を明らかにできるはずの特徴の多くが、飛行への極端な適応によって隠されてしまうのだ。

今回のEzcurraらによる報告では、この長く探し求められてきた証拠、つまり、翼竜類に近縁な、恐竜類へとつながる主竜類の一群を指し示す証拠が提示されている。研究チームは、有力候補とされるある動物群について、世界各地の既知の全化石標本と、自ら見いだした新たな標本を詳細に調べた。彼らが注目したのは、「ラゲルペトン類(lagerpetid;「ウサギ爬虫類」の意)」と呼ばれる、長い肢と華奢な体を特徴とする、敏捷な小型の二足歩行爬虫類である。ラゲルペトン類が生息したのは中期~後期三畳紀(約2億3500万~2億500万年前)で、化石標本は南北米大陸の他、マダガスカルで発見されている。ラゲルペトン類は、ラゴスクス類(lagosuchid)、シレサウルス類(silesaurid)、スクレロモクルス(Scleromochlus)、そして最初の翼竜類や恐竜類と共に、鳥類へとつながる主竜類の大きな一群を形成していたと考えられている。

では、なぜラゲルペトン類が最有力候補なのか。まず、翼竜類が小型の二足歩行主竜類から進化したことは数十年前から明らかで、その動物の後肢は、ワニ類のように体の横に突き出してはおらず、鳥類や一部の非鳥類型恐竜類のように体の真下に伸びていたと考えられてきた5,9。また、その肢の長さや背中の形状は、まさに鳥類様のボディープランそのものだったとされる9

ラゲルペトン類は、この描写にぴたりと当てはまる。また、他の主竜類には見られない特徴をいくつも翼竜類と共有していたことも、他の候補動物群とは異なる。Ezcurraらは今回、「共通派生形質」に基づく系統分類の手法を用いてこの知見を得た。この手法は、恐竜類を含む全生物群の間の類縁関係を明らかにするために以前から使われてきたもので10、進化的に新しい特徴を探し出すことで異なる複数の生物を結び付けていく。最も新しく生じた形質は、最も新しく互いから分岐した生物群に現れるはずで、それ故、それらの生物群は互いに遺伝的に最も近いはずだ、というのがその論法だ。こうした特徴は往々にして、熟練した研究者の目をも欺くほど分かりにくいが、類縁関係や、時には適応の進化について重要な手掛かりをもたらす。例えば、ある生物群(ここでは翼竜類)が、分岐した姉妹群にはない機能を反映する独特な特徴(空を飛ぶための翼)を持つ場合、それは新たな適応(飛行)の進化を意味する。

マイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)と三次元再構築を用いて、一連の標本を詳細に解析したEzcurraらは、脳函や内耳の複雑な形態など、多数の独特な特徴がラゲルペトン類と翼竜類で共通して見られることに気付いた。こうした内耳の形態は、高度な敏捷性(翼竜類では飛行性)の進化と関連付けられ、中手骨(手のひらの骨)の伸長(翼竜類ではさらに伸長しており、第4指が非常に長い)は、飛行性進化の出発点を示唆していた。また、大規模なデータ解析からも、頭蓋、顎、骨盤、前肢、後肢、椎骨など、骨格全体にわたって少なくとも33の共有派生形質が存在することが示され、両者の類縁関係が強く裏付けられた。

Ezcurraらによる今回の成果では、小型の地上性爬虫類から最初の飛行性脊椎動物に至る進化の道筋の全てが描き出されたわけではない。だが、残された空白も、いつの日か三畳紀の岩石から翼竜類の祖先が現れ、その一部が埋まる可能性はある。ちょうど、始祖鳥の発見で鳥類の飛行の初期段階に関する重要な手掛かりがもたらされたように。

一方で、Ezcurraらの今回の研究は、主要な動物群としては翼竜類が恐竜類に最も近縁であり、恐竜類に近縁とされていたラゲルペトン類がこれまで考えられていた以上に翼竜類により近縁で、これらの動物群全ての共通祖先は、おそらく長い肢、短い体、大きな頭、釘のような歯を特徴とする、極めて敏捷で周囲の事象に敏感な小型の二足歩行動物だった、という見解を強調している。つまり、地上で暮らしていた翼竜類の祖先は既に、羽ばたき飛行を自由に進化させられるような前肢を持っていたことになる。生物の主要な形態間の移行の説明として「進化論」を受け入れていなかったキュヴィエだが、翼竜類の解剖学的構造や生態に関しては、自身の最初の推測が正しかったと喜ぶことだろう。

(翻訳:小林盛方)

Kevin Padianは、カリフォルニア大学バークレー校(米国)に所属。

参考文献

  1. Cuvier, G. Recherches sur les Ossemens Fossiles des Quadrupèdes (Deterville, 1812).
  2. Ezcurra, M. D. et al. Nature 588, 445–449 (2020).
  3. Taquet, P. & Padian, K. C.R. Palevol 3, 157–175 (2004).
  4. Cuvier, G. Ann. Mus. d’Hist. Nat. 13, 424–437 (1809).
  5. Padian, K. Paleobiology 9, 218–239 (1983).
  6. Paul, G. S. The Princeton Field Guide to Pterosaurs (Princeton Univ. Press, in the press).
  7. Padian, K. in 3rd Symp. Mesozoic Terrestrial Ecosystems: Short Papers (eds Reif, W.-E. & Westphal, F.) 163–168 (Attempto, 1984).
  8. Gauthier, J. A. PhD thesis, Univ. California, Berkeley (1984).
  9. Padian, K. Zitteliana 28B, 21–28 (2008).
  10. Padian, K. Nature 543, 494–495 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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