新たな頭蓋化石は新種として人類の系統樹に加わるか
イスラエル中部のネシェル・ラムラ近くの発掘現場。 Credit: YOSSI ZAIDNER
約14万年前より新しい時代の化石によって、初期のホモ・サピエンス(Homo sapiens;現生人類)と混血したヒト族の仲間が増えつつある。
イスラエルで出土した一群の化石から、レバント地方(東部地中海沿岸地方)ではネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の直接の祖先と考えられる未知のヒト族集団が優占し、ホモ・サピエンスと同時代に生きていたのではないかと推察されている1,2。一方、中国で発見された古代人の頭骨を調べる研究者は、議論の余地はあるものの、それを「竜人(Dragon Man)」という新種に分類し、ネアンデルタール人よりもさらにホモ・サピエンスに近縁の可能性があるとしている3,4。
しかし、どちらの発見も議論が巻き起こっている。そうした研究は、骨の化石のサイズや形状、構造の解析に基づいており、個人の判断や解釈に左右される方法だからだ。どちらの化石も、発掘化石としてはご多分に漏れず、DNAの証拠はない。
ネアンデルタール人の祖先
2000年以降、50万年にわたるヒトの進化に対する認識は、かつてなく複雑化した。それは、ホモ・サピエンスやネアンデルタール人の時代に重なる、中期~後期更新世に生きていたヒト属(Homo)の種が増加したためだ。
現在、イスラエルで発見された化石の研究者は、その化石が未知のヒト族集団のものではないかと考えている。テルアビブ大学(イスラエル)の自然人類学者Israel Hershkovitzらは、イスラエル中部のネシェル・ラムラ(Nesher Ramla)遺跡で発見された14万~12万年前の頭頂骨の一部と顎骨に着目した。彼らは、この2つの頭骨片が同一人物のものと考えている。
Hershkovitzらによれば、従来、この時代にレバント地方に住んでいたのはホモ・サピエンスのみと考えられていたという。現在、この地方における最古のネアンデルタール人の決定的証拠は7万年前以降のものだ。同じくテルアビブ大学に所属する論文共著者のHila Mayは、「期待していたのは、ホモ・サピエンスの化石の発見でした。しかし一目見て、これは違うと確信しました」と話す。顎骨と歯はネアンデルタール人のようだったが、頭骨の形状はもっと原始的だったのだ。
その風変わりな化石は、他にもイスラエル各地で発見されている未分類の少数の化石と合致するように見える。Science 2021年6月25日号に掲載された2編の論文1,2では、この全ての化石について、数十万年にわたってこの地域を優占していたと考えられる未知のヒト族集団、「ネシェル・ラムラ人」のものとすることが提案されている。
さらに、出土した石器から、ネシェル・ラムラ人集団は、レバント地方に住んでいたホモ・サピエンスと同じ高度な石器作製の技術を習得していたと考えられる。このことから、ネシェル・ラムラ人はホモ・サピエンスと共に生きていた種であって、両者は混血していた可能性がある。しかし、その所見に賛意を示さない研究者もいる。ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の古人類学者Philip Rightmireには、その頭骨が「かなり古い時代に生きていたと思われる初期のネアンデルタール人」のように映る。Rightmireは、その時代、この地域にネアンデルタール人がいても不思議ではないだろうと話す。
ネアンデルタール人(左)とホモ・サピエンス(右)の頭骨化石。「ネシェル・ラムラ人」と「竜人」は、両者と同時代に生きた別種の人類なのだろうか。 Credit: Creativemarc/iStock/Getty
竜人
一方、何十年も前に中国で出土した中期更新世ヒト族の頭骨の解析から、人類の祖先に関する新たな手掛かりが得られる可能性もある。
「ハルビンの頭骨」と呼ばれるその化石は、保存状態が極めて良好な約14万年前の頭蓋で、50歳ほどの男性のものと考えられている。当初1933年に発掘され、旧日本軍の目を逃れるため井戸の中に隠されていたが、2018年に河北地質大学(中国石家荘)に寄贈された。ハルビンの頭骨は、とりわけ大きくて厚みがあり、眼窩が角張っていて大きく、頬骨が低くて、大きな歯と幅の広い口蓋を持っている。
2021年6月25日にThe Innovation のオンラインで発表された論文(同年8月28日号掲載)では、河北地質大学の古生物学者Ji Qiang(季強)らが、ハルビンの頭骨に見られる独特の構造について、新種として分類するに足るものだと唱えている3,4。そして、化石の発掘地である黒竜江省の一般的な呼称「竜江(Long Jiang)」にちなみ、種名をホモ・ロンギ(Homo longi;竜人)とすることを提唱した。
しかし、たった1つの頭骨、しかも元の出土地から動かされていて、石器などの人工物を1つも伴っていない骨に基づいて新種を命名することは、議論を招いている。ピッツバーグ大学(米国ペンシルベニア州)の人類学者であり進化生物学者でもあるJeffrey Schwartzは、「アジア各地では、想定し得る以上に多くの種が生きていたとは思います」と話す。しかし、Schwartzに言わせれば、ハルビンの頭骨が新種のものであることを確信できるだけの証拠は存在しない。
論文の中でJiらは、ハルビンの頭骨が一部の初期のホモ・サピエンスの化石と類似していることから、ホモ・ロンギはネアンデルタール人よりもさらにホモ・サピエンスに近縁である可能性があるとしている。しかし、そうした化石には不適切にホモ・サピエンスのものとしてまとめられているものがある、とSchwartzは考える。
現在のヒト族の分類は、あまりにも多くの多様性をホモ・サピエンスなどの既存の種に詰め込んでいるため、概してほとんど意味をなさない、とSchwartzは論じる。そして、「原点に立ち戻ってやり直すべきだと思います。そうは言っても、『全てのことを最初から見てみよう』と言えるだけの勇気がない人もいますが」と語る。
翻訳:小林盛方
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10
DOI: 10.1038/ndigest.2021.211006
原文
Mysterious skull fossils expand human family tree — but questions remain- Nature (2021-06-25) | DOI: 10.1038/d41586-021-01738-w
- Nicola Jones
参考文献
- Hershkovitz, I. et al. Science 372, 1424–1428 (2021).
- Zaidner, Y. et al. Science 372, 1429–1433 (2021).
- Ji, Q. et al. The Innovation 2, 100132 (2021).
- Ni, X. et al. The Innovation 2, 100130 (2021).
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