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ブラックホールの初の画像が動画に!

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210104

原文:Nature (2020-09-23) | doi: 10.1038/d41586-020-02717-3 | The first-ever image of a black hole is now a movie

Davide Castelvecchi

2019年の歴史的な画像が、このほど動画になった。ブラックホールの重力が周囲の物質をかき回して持続的な渦を作り出す際に、その周囲の様子がどのように変化するかが、この動画で示された。

Event Horizon Telescope Collaboration; gif compiled by Nature.

連続したコマからなるこの短い動画には、M87銀河の中心にある超大質量ブラックホールの周りに渦巻く非対称な光の塊が見える。動画の制作に当たり、地球サイズの観測網を利用するイベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope:EHT)・コラボレーションは、ブラックホールの古いデータを掘り起こし、2019年4月に発表された画像に基づく数理モデルと組み合わせて、ブラックホールの周囲が8年の間にどのように変化していったかを示した。推測に基づく部分もあるが、この結果は、強力な重力により周囲の物質と光を吸い込むブラックホールの振る舞いについて、天文学者に豊かな洞察をもたらすものだ。

エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の天体物理学者Priyamvada Natarajanは、「この論文は、降着円盤を貫く磁場の乱流とその性質について、全く新しい段階の理解を授けてくれます」と言う。

2020年9月23日にThe Astrophysical Journal に発表されたこの論文は、近い将来、研究チームの技術がさらに進歩したらどんなことが可能になるかを垣間見せるものだ(M. Wielgus et al. Astrophys. J. 901,67;2020)。ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の電波天文学者で論文の筆頭著者のMaciek Wielgusは、「数年後には1本の映画のようになっているかもしれません」と言う。

EHTコラボレーションは2019年、M87銀河の中心にある超大質量ブラックホールM87*の画像を発表した。研究者らは、2017年4月に世界各地の天文台で2晩にわたって収集した電波信号を組み合わせて画像を作ったが、地球から約17メガパーセク(5500万光年)の彼方にあるこのブラックホールの解像作業は、地球から月面に置いた1個のドーナツの形を分解することに匹敵する離れ技であった(2019年7月号「ブラックホールを初めて撮影」参照)。

2019年4月10日、EHTの成果について記者会見を行う、国立天文台の本間希樹氏。 | 拡大する

The Asahi Shimbun via Getty Images

画像はぼんやりしているものの、ブラックホールの近傍の見え方に関するアルベルト・アインシュタインの一般相対性理論の予言と一致していた。特に重要なのは、ブラックホールとその周囲とを分けている「後戻りできない」表面、すなわち事象の地平線の影の直接的な証拠を初めて研究者に与えたことだ。この暗い円盤は、事象の地平線のすぐ外側にある超高温に熱せられた物質が放つ光の環と好対照をなしている。

印象的だったのは、環の片側が、もう片方の側に比べて明るく見えたことである。これは、ブラックホールの周囲の複雑なダイナミクスの影響の組み合わせから予想されていた。詳しく言うと、ブラックホールの中に落ち込んでいく物質は、ブラックホールの赤道の外側で高速で渦を巻き、天体物理学者が「降着円盤」と呼んでいるものを形成する。非対称な見た目の一因はドップラー効果にある。円盤の片側は観測者の方に向かっていくように回転し、その物質の運動が放射を強め、より明るく見えるようになる。これに対して、観測者から遠ざかっていくように回転している側では、その逆のことが起こるのだ。

これらの結果に基づき、Wielgusは過去にさかのぼりたいと考えるようになった。彼はEHTのより古いデータを見て、2017年の写真を指針にしてこれらを再解釈することができないか検討した。EHTは2009年からM87*を観測しているが、当初は3カ所の望遠鏡しか使っていなかった。EHTの観測網に参加する天文台が増えるにつれて、観測の品質は向上した。2017年にはハワイやチリから欧州まで世界8カ所の天文台がコラボレーションに参加し、EHTはついに実際に画像を生成できるレベルに達した。

古いデータは2009年、2011年、2012年、2013年に収集された4つのバッチからなり、そのうちの2つは発表されていなかった。「誰もが2017年のデータに夢中だったので、これらはある意味、忘れ去られていたのです」とWielgusは言う。彼は、EHTの他の研究者のグループと一緒にデータを分析しなおし、それが暗い円盤と明るい環の存在を示していることを明らかにした。これは、2017年の観測の結果と整合性があることを意味する。そして、2009年から2013年までのデータバッチは、それだけで画像を作れるほどの分解能はないものの、限られたデータを2017年のデータから作成したブラックホールの数理モデルと組み合わせることで、それぞれの年の合成画像を生成することができた(「荒れ狂う環」参照)。

荒れ狂う環
EHTのチームは観測データと数理モデルを用いて、ブラックホールM87*の8年間の変化を示す一連の画像を制作した。 | 拡大する

EVENT HORIZON TELESCOPE COLLABORATION

これらの結果には、Wielgusが期待した以上の情報が含まれていた。2017年の画像のように、環の一方が他方よりも明るくなっていたが、その明るい点は移動していることが分かった。これは、降着円盤の別々の領域が明るくなったり暗くなったりして、ドップラー効果による明るさの増加を一段と強めたり、時には打ち消したりしているせいかもしれない。

これは予想されなかったわけではないと著者らは言う。M87*ブラックホール自体は年々変化しているわけではないが、その周囲の環境は変化している。数週間のスケールで強い磁場が降着円盤をかき乱してより高温のスポットを作り出し、それがブラックホールの周囲を回るのだ。2018年には別の研究チームが、銀河系の中心にあるブラックホール「いて座A*」の周りを高温のガスの塊が1時間前後で周回している証拠をつかんだと報告している。一方、M87*は太陽の65億倍の質量と、いて座A*の1000倍以上の大きさを持つため、周囲のダイナミクスの展開により長い時間が必要となる。

EHTコラボレーションはM87*といて座A*を毎年3月末か4月初めに観測することを考えている。この時期は、観測網の多くの地点で良好な気象条件が揃いやすいからだ。2020年の観測はCOVID-19のパンデミックによる制約のため諦めざるを得なかったが、研究チームは2021年にもう一度チャンスをつかみたいと希望している。うまくいけば、グリーンランドとフランスの天文台を含む、さらに多くの天文台がこの試みに参加するはずだ。

研究チームは、2021年の観測では、より短い波長の放射を使った観測を、初めて地球規模で行いたいとしている。地球の大気越しに観測するのは一段と難しくなるが、EHT画像の分解能を高めることができる。ラドバウド大学ナイメーヘン校(オランダ)の電波天文学者でEHTのメンバーであるSara Issaounは、「ブラックホールの影にさらに近づき、よりシャープな画像を得ることができます」と言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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