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手遅れになったハンドフィッシュ

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200817a

現代の海水魚として初の絶滅が記録された。

絶滅寸前に陥っているレッド・ハンドフィッシュ。 | 拡大する

AUSCAPE/UNIVERSAL IMAGES GROUP VIA GETTY IMAGES

人間は長い間、海は広いから目に見えるようなダメージを人が海に与えることはできないと信じてきた。だが現在、人間活動が海洋生物の重要な生息環境を破壊し、海水を危険なまでに汚染して、海洋環境を酸性化させ得ることが分かっている。乱獲が食物網を乱し、多くの海洋生物を絶滅危惧種の カテゴリーに追いやり、ステラーカイギュウ(Hydrodamalis gigas)などいくつかの動物が絶滅した。そして2020年3月、スムース・ハンドフィッシュ(Sympterichthys unipennis)が、現代の海水魚としては初めて、正式に絶滅を宣言された。

ハンドフィッシュ科は深海魚のアンコウに類縁の風変わりな底魚14種からなる。他の大半の魚とは違って仔魚(幼生)の段階がなく、成魚になってもあまり動き回らない。タスマニア大学(オーストラリア)の海洋生態学者Graham Edgarによると、こうした特徴のため環境の変化にとても敏感だ。「ほとんどの時間を海底でじっとしながら過ごし、たまに邪魔されると数mほど移動するだけです」という。「仔魚の段階がないので、新たな場所に分散できません。従って、ハンドフィッシュの個体群は非常に狭い範囲に局在しており、さまざまな脅威に対して弱いのです」。1996年、スポッテッド・ハンドフィッシュという今回とは別の種が国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに海水魚では初めて「絶滅寸前」として登録された。

悲しい警鐘

かつてスムース・ハンドフィッシュはありふれた魚で、欧州人探検家によってオーストラリアで初めて記録された魚種の1つだった。だが、Edgarらによる調査も含め、既知の生息域で科学調査が何度も行われたにもかかわらず、過去100年以上にわたって1匹も報告されていない。レッドリストの「絶滅」についての公式な定義は、「最後の個体が死滅したと考えるに合理的な疑問の余地がない」ことだ。Edgarとオーストラリア国家ハンドフィッシュ回復チームのメンバーはスムース・ハンドフィッシュについて今年初めにこの結論を下さざるを得ず、レッドリストはこの魚を「絶滅」に分類した。何が絶滅の原因となったのか正確には分かっていないが、同じ領域に生息している他の生物は、トロール漁業や汚染、気候変動によって脅かされている。

正式な判定はまだできないものの、すでに絶滅した海水魚が他にもあるだろうとEdgarは言う。さらに多くが「絶滅寸前」の状況に陥っている。「人がほとんど訪れたことのない場所にある小さなニッチに生息する小さな生物がなぜ重要なのか想像しにくいかもしれませんが、現在COVID-19の診断検査に用いられている酵素の1つは極限環境微生物から得られたものなのです」と非営利の海洋生物保護団体Oceanaの首席科学者Katie Matthewsは言う。「目には見えないかもしれませんが、生物多様性は重要です」。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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