Jamie Craggs
Credit: Phil Barthropp
サンゴ礁研究が掃除道具をしまう物置棚のような場所で行われているなんて、皆さんは想像したこともないでしょう。でも、ロンドンの「ホーニマン博物館と庭園」で我々がやっているのは、まさにそれです。この博物館は1901年に開館し、植物園と、自然史や人類学、音楽をテーマとする展示・収蔵の他に、私が12秒で走り切れるほどのこぢんまりとした水族館があります。
我々の研究スペースはさらに狭く、写真のように、まるで階段下の物置部屋です。このスペースを最大限に生かすには、コンパクトさを追求するヨット製作者になったつもりで考えねばなりません。また我々は、この窮屈な暗い場所で赤色光のヘッドランプを装着して研究しています。
私の主な研究テーマは、造礁サンゴの生殖生物学です。造礁サンゴは年に2〜3回しか生殖しません。2010年以前は、野生でサンゴの産卵を誘発する要因を水槽内で最もうまく再現する方法が分かっていませんでした。サンゴ礁は気候変動で失われつつあります。そこで我々は、野生で卵や精子を採取してサンゴの「試験官ベビー」を作り出し、損傷したサンゴ礁にそれらを戻せるかどうかを知りたいと考えました。
私は、サンゴの一斉産卵イベントの観察と標本採集のため、2010年にシンガポール、2013年と2014年にグアムに行きました。こうしたイベントに遭遇できるのは、年に1度、ある満月の日の後のわずか15分間です。私を含めたチームは夜間、波に襲われたりクラゲに取り囲まれたりしながら観察・調査しました。
我々の務めは、水槽内でこれらの条件を模倣する手立てを探り出すことです。現在は、水温周期や日照時間、月の満ち欠けを包括的にまとめたデータセットを使い、サンゴに野生に近い環境を与えています。赤ちゃんサンゴはサイズがわずか数mmで、身を守ることもほとんどできないため、とてもか弱いのです。我々は、この取り組みを拡大して、ここで育てたサンゴが野生のサンゴ礁に戻って生き延びてほしいと考えています。
サンゴ礁の減少速度はあまりに速く、また、サンゴ礁には全ての海洋サンゴ種の3分の1が生息しています。サンゴ礁を調べていると気が滅入ってきます。でも、サンゴ礁を復元する研究は元気をくれます。
翻訳:船田晶子
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200752
原文
Growing baby corals in a broom cupboard- Nature (2020-02-24) | DOI: 10.1038/d41586-020-00512-8
- Kendall Powell
- Jamie Craggsは海洋生物学者で、ホーニマン 博物館と庭園(英国ロンドン)の水族館学芸員。
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