学術界サバイバル術入門 — 自分に合った研究の場を見つける③
Credit: elenabs/iStock / Getty Images Plus/Getty
前回までに、地域のトレンドとトピックのトレンドを検討すること、そして応募できるポジションを見つけることの重要性について述べてきました。ポジションを見つけたら、雇い主とコンタクトを取って、応募過程を始めなければなりません。この過程には重要な2つのステップがあります。(1)効果的な履歴書(CV)を作成すること、(2)インパクトのある添え状を書くことです。今回は(1)を中心にお話しします。
CVと添え状のフォーマット
適切なCVと添え状を作成する際、最も重要なガイドラインの1つとなるのが、簡潔さとプロフェッショナリズムです。読み手は素早く情報を手に入れたいと考えています。ですから、レイアウトは明確で読みやすいものにしなければなりません。そのための重要なヒントは以下の通りです。
標準的な字体(Times New RomanやArial)を使い、フォントサイズは10~12ポイントに。こうした文書ではこれが一般的です。その理由は読みやすさです。読み手の多くが年配の教授で細かい字が読みづらくなっている可能性があるということを覚えておいてください。
読みやすさを念頭に置いて書こう。選考者が理解しやすいように書きましょう。このシリーズでは過去に、論文の読みやすさを改善するためのヒント(例えば、文章を短くする、能動態を多用するなど)をお話ししました(Training 4〜6:学術英語)。それを参考にしてください。
見出しとスタイルを全体的に統一する。あなたが細部にまで注意を払う人間であることを示し、それがひいては研究者としてのあなたの評価に有利に働きます。
全てのページのフッターに氏名とページ番号を書く。読み手があなたの文書をプリントアウトした際、もしページがばらばらになってしまっても、あなたの氏名とページ番号が記載されていれば、手早く元に戻せます。
PDF形式で送る。 オペレーティングシステムやソフトウエアのバージョンが異なってもフォーマットが維持されます。また、文書は容易に変更できません。
CVを書くときに避けるべきこと
多くの色を使ったり、凝ったテンプレートを使用したりしない。あなたの目的は、内容でCVを際立たせることであって、見た目をよくすることではありません。また、ほとんどの人は凝ったテンプレートに困惑し、素早く読むことができません。これはCVのフォーマット作りの全体的な原則に反します。明確なフォーマットのCVを書くための優れたリソースの1つにOverleaf4(overleaf.com)があり、無料で利用できます。図1は、Overleafで作成しました。
図1 見やすいCVのフォーマット例
一番上に「履歴書(Curriculum Vitae)」と書かない。一目瞭然だからです。
個人情報を含めない。ほとんどの国や組織で、既婚/未婚、人種、宗教などの記載は応募過程では必要ありません。一部のアジアの国々などでは写真が必要になることがありますが、ほとんどの西洋諸国では一般的な慣習ではありません。しかし、雇い主の中にはあなたの市民権や就労ビザの状況を知りたいと考える人もいますから、職務記述書を注意深く読んで、必要な場合はCVに記載するべきです。
効果的なCVを書く
Curriculum Vitae(CV)は「人生行路」という意味のラテン語ですが、だからといって自叙伝である必要はありません! むしろ、自分の学問的な業績の客観な記述と考えた方がいいでしょう。同じく履歴書と訳されるrésuméと同じものでしょうか? いいえ、résuméは、ビジネス分野の職に関係する専門技術や仕事の経験を簡潔に1ページの文書にまとめたものです。一方、CVは、学問分野の職に対して書かれるもので、発表論文や招待講演など、応募者の学歴と業績をより広くカバーします。CVは長さが数ページに及ぶこともよくあります。特に学術経験の豊富な人では長くなる傾向があります。研究職に応募する際に必要なのはCVですから、今回はCVについてのみ説明します。
一般的にCVには2通りの書き方があります。技術ベースのものと、時間順のものです。技術ベースのCVでは、あなたがいつ何をしてきたかよりも、あなたの技術と経験に焦点を合わせます。résuméに近いです。このタイプのCVは、あなたが職を変えたいと考えているとき、そして、身に付けた技術が応募する仕事に関連していることを強調したいときに有用です。また、さまざまな個人的な理由によって休職していた期間があって、職歴に空白があるのを隠したいときにも役立ちます。
逆に、時間的順序のCVは、学歴から始まって職歴を時間順に記載していきますから、あなたの職歴や技術が時間経過とともにどのように培われてきたかが分かりやすいでしょう。そのため、学問の世界ではこのようなCVの方がはるかに一般的なので、今回もこれを例に話を進めていきます。
CVにどの程度の量の情報を含めるかは、あなたが学問的キャリアのどの段階にいるかによって決まります。教授/教員職に応募するときには、研究、教育、そして管理に関連する業績を含めることになるでしょう。けれども、ポスドクのポジションに応募するなら、教育や管理の経験は通常、そのポジションの前提条件にはならないでしょうから、主に研究業績に関係するものだけを強調することになるでしょう。もちろん、教育や管理の経験があるなら、それらも含めておくことをお勧めします。加えてもマイナスになることはなく、選考中の他の応募者のCVよりも目立たせてくれることでしょう。
CVの主要なセクション
個人情報:冒頭には必ず、極めて簡潔に氏名と問い合わせ先(メールアドレスや電話番号)を書きましょう。応募過程のこの段階では住所は必要ありません。また、LinkedInやResearchGate、Academia.Eduなど、自分の仕事関連のウェブサイトやソーシャルメディアのアドレスなどを記載してもいいでしょう。
研究的関心:この任意のセクションはCVの冒頭に持ってきます。その分野であなたが現在関心を持っている研究テーマを明確に示しましょう。CVの別のセクションや添え状に書くこともできますが、多くの応募者を審査している雇い主にとって、最初の部分であなたの関心と彼らの関心と一致することが分かれば非常に有益です。
研究者としての経験と教育の経験:より上級の研究者は、最初に大学卒業後の経験(ポスドク研究のポジションなど)を記載しましょう。教授/教員職に応募するときには、そうした経験は学歴よりも意味があるからです。しかし、ポスドクのポジションに応募するときは、学歴から記載するといいでしょう。この時点では大学卒業後の経験がまだほとんどないのですから。どちらのセクションでも、最新の経験から順番に記載しましょう。仕事の経験においては、主要なプロジェクト、責任、技術、および具体的な成果(例えば、「この研究は最終的に3つの査読付き論文と1つの特許につながった」など)を箇条書きにしてまとめるとよいでしょう。
表彰および賞:あなたの専門家としての評価を示す良い機会になります。競争から一歩抜け出す絶好のチャンスです。
教育:教授/教員職に応募する際には、カリキュラム作成を助けた授業ならびに担当した授業を列記します。応募先の学部では、教育もあなたの重要な役割になるでしょうから。
研究助成金:以前に研究助成金を得たことがあるという実績はしばしば、将来にも研究助成金を得られる可能性を予測させる材料となります。研究助成金は研究に不可欠ですから、選考過程でこれは非常に有利に評価されるでしょう。獲得した交付金名、企画書のタイトル、得られた金額、および有効年数を記載しましょう。
管理:以前の職で管理責任を負っていたなら、ここでこうした役割を強調しておくべきです。特に教授/教員職では、学部において重要な管理的役割を果たすことが期待されるでしょう。
研究発表:CVの最後に、研究発表を全て列記しましょう。これには、査読付き論文、書籍、書籍の分担執筆、学会での招待講演、獲得した特許などが含まれます。氏名を太字フォントにしておくと、読み手が共著者の中からあなたを見つけやすいです。研究発表経験があまり多くない若手研究者の場合は、学会でのポスター発表と口頭発表も加えることができます。
ただしCVは、単にあなたの主要な業績を明確に示すための客観的なリストにすぎません。選考過程でインパクトを与えるためには、こうした業績がなぜ、あなたが最適任者である証明になるかを説明する必要もあります。これが添え状の役割です。次回は、印象的な添え状の書き方について説明します。
次回は9月号掲載予定です。
(翻訳:古川奈々子)
ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)
Nature Masterclasses 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。
Nature Masterclasses は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金申請、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200730
関連記事
キーワード
Advertisement