新型コロナウイルス研究注目の論文(6月)
6月26日
アウトブレイクの阻止には、検査感度よりも検査頻度が重要
大学など、COVID-19が急速に拡大して制御不能に陥る可能性があるコミュニティーでは、比較的感度の低い検査であっても、大勢を対象とするSARS-CoV-2検査を頻繁に実施すべきである。
定量的PCR(qPCR)検査は、SARS-CoV-2の遺伝物質がごく微量であっても検出できるが、費用が高く、結果が出るまでに時間がかかる。検査感度の重要性を評価するため、ハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のMichael Minaらは、広範な検査が大規模集団におけるウイルスの感染拡大にどのような影響を及ぼすかをモデル化した(D.B. Larremore et al. Preprint at medRxiv, http://doi.org/d2gt; 2020)。
研究者らは、週1回のサーベイランス検査と症例隔離を組み合わせれば、その検査の感度がqPCRより低くてもアウトブレイクを阻止できることを見いだした。これに対して、14日に1回ずつしかサーベイランス検査を行わない場合は、検査を全く行わない場合とほとんど同じ程度まで感染者の総数が増加してしまう恐れがある。なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月24日
詳細な地図からウイルスタンパク質のアキレス腱が明らかに
科学者たちは、新型コロナウイルスが標的に結合する際に用いるタンパク質のバリアントを3800種類以上作製し、その特徴について記述した。ウイルスタンパク質のどの部位がヒト細胞への結合に不可欠かを明らかにする成果である。
SARS-CoV-2が細胞に侵入する際には、スパイクと呼ばれるウイルスタンパク質が、ヒト細胞の表面にある受容体に固く結合する。フレッド・ハッチンソンがん研究センター(米国ワシントン州シアトル)のJesse Bloomらは、スパイクタンパク質の重要な部位のアミノ酸を一度に1つずつ改変して3804種類のバリアントを作成した(T. N. Starr et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dz8r; 2020)。検証の結果、これらのバリアントの多くが、現在パンデミックを引き起こしている新型コロナウイルスのタンパク質と少なくとも同程度の強さで受容体に結合することが分かった。
研究チームは、改変するとスパイクタンパク質の結合能力が損なわれるアミノ酸を特定した。この研究は、ウイルスの感染能力を失わせる分子の開発に役立つ可能性がある。なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月23日
新型コロナウイルス感染者の大半が典型的な症状を示さない
数千人を対象とするイタリアでの研究によると、SARS-CoV-2感染者のうち、呼吸器症状や発熱があった人は3分の1未満であったという。
ロンバルディア州ではこれまでに1万6000人以上がCOVID-19で死亡しており、イタリアでの流行の中心地となっている。ブルーノ・ケスラー財団(イタリア・トレント)のPiero Poletti、パビア健康保護庁(イタリア)のMarcello Tiraniらは、ロンバルディア州で感染者に濃厚接触した人々の調査を行った。
彼らが調べた5484人の濃厚接触者のうち、感染していたのは約半数だった(P. Poletti et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/2006.08471; 2020)。感染した濃厚接触者の31%に咳などの呼吸器症状や発熱が見られたが、60歳未満ではその割合は26%だった。年齢が高くなるにつれ、症状が出たり、集中治療が必要になるほど重症化したり、死亡したりする確率も高くなった。この結果は、病院のアウトブレイク対策に役立つ可能性があると著者らは述べている。
なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月22日
ウイルスの侵入を助ける宿主遺伝子をCRISPRが新たに特定
CRISPR-Cas9ゲノム編集システムを用いてサルのゲノムを網羅的に調べた研究で、SARS-CoV-2が宿主に感染するのを助けている可能性のある遺伝子が複数突き止められた。
ウイルスの活動を助ける宿主遺伝子の発見は、新しい治療法の開発に役立つことが期待されるだけでなく、COVID-19に罹患しやすい人としにくい人がいる理由の解明につながる可能性がある。ブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のJohn Doench、エール大学医学大学院(米国コネチカット州ニューヘブン)のCraig Wilenらは、CRISPR-Cas9を用いてサルの培養細胞の遺伝子を改変した。その後、ウイルス感染と宿主細胞の死に影響を及ぼす遺伝子を探索した(J. Wei et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dzz3; 2020)。
これにより、SARS-CoV-2を補助することが知られていなかったタンパク質とそれをコードする遺伝子が複数見つかった。その中には、細胞の増殖と死に関与するTGF-βシグナル伝達経路のタンパク質も含まれていた。この経路を阻害する化学物質は、SARS-CoV-2が誘導する細胞死も阻害することができた。
なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月19日
若者は濃厚接触しても感染しにくい
20歳未満の人々は、年長者に比べて、家庭内の感染者から新型コロナウイルスに感染する可能性が大幅に低い。
フロリダ大学(米国ゲインズビル)のYang Yangと広州疾病管理予防センター(中国)のZhi-Cong Yangらは、広州のSARS-CoV-2感染者とその濃厚接触者へのウイルス感染伝播を分析した(Q. Jing et al. Lancet Inf. Dis. http://doi.org/dznw; 2020)。公衆衛生当局が感染者の隔離と濃厚接触者の検疫を実施した後、20歳未満の人が家族から感染するリスクが5.2%だったのに対し、20~59歳では14.8%、60歳以上では18.4%だった。
この研究では、発症前であっても、少なくとも発症後と同程度の感染力があることも示された。著者らは、感染者を家族から隔離できるような施設を提供することで、家庭内での感染伝播を食い止められる可能性を示唆している。
6月17日
COVID-19の重症化リスクが高い人は全世界で10億人以上
ありふれた健康問題の中には、SARS-CoV-2に感染すると重症化リスクを上昇させるものがたくさんある。新たな分析により、実に世界人口の20%以上が、重症化リスクを高める基礎疾患を1つ以上持っていることが分かった。
ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(英国)のAndrew Clarkらは、SARS-CoV-2に感染した人が、重症COVID-19を発症する素因となる糖尿病や心血管疾患などの疾患を有する割合を調べた(A. Clark et al. Lancet Glob. Health http://doi.org/dzk9; 2020)。188カ国のデータを分析した研究チームは、重症化リスクの高い人は全世界に17億人いると推定した。彼らはまた、感染した場合に入院が必要となる人々が3億5000万人近くいて、その中には基礎疾患を持たない人々もいると推定している。
この研究は、ワクチンを必要とするハイリスクの人々がどれだけいるかを評価するのに利用できると著者らは述べている。
6月16日
小児は新型コロナウイルスに感染しにくい
小児と高齢者は、65歳未満の成人に比べて過去にSARS-CoV-2に感染した証拠が見られることが少ないという。この結果は、ジュネーブ(スイス)市民を対象とした研究で得られた。
ジュネーブ大学病院のSilvia Stringhiniらは、5歳以上の約2700人を対象に、新型コロナウイルスへの再感染を防ぐために免疫系が産生する抗体の有無を検査した(S. Stringhini et al. Lancet http://doi.org/dzh5; 2020)。
研究に参加した5~9歳の小児123人については、そのうちの21人がCOVID-19抗体を持つ人と同居していたにもかかわらず、陽性と判定されたのは1人だけだった。また、65歳以上の高齢者369人については、そのうちの11人がCOVID-19抗体を持つ人と同居していたが、陽性だったのは15人だけだった。
研究者らは、抗体を持つ小児の割合の低さは小児がこのウイルスに感染しにくい可能性を示唆しているのに対し、抗体を持つ高齢者の割合の低さはウイルスに曝露する機会の少なさと老化による免疫反応の低下が原因かもしれないと述べている。
6月15日
バーとカラオケとジムは「スーパースプレッディング」を促す可能性がある
日本の研究によると、新型コロナウイルス感染のクラスターは、カラオケパーティーやジムのセッションなど、多くの人が密集して激しく呼吸するイベントに関連していることが多いという。
東北大学(宮城県仙台市)の押谷仁らは、5人以上の感染者が同じイベントに参加していたか同じ場所にいたクラスターを分析した(Y. Furuse et al. Emerg. Inf. Dis. http://doi.org/ggz2hg; 2020)。彼らが調査した61件の「スーパースプレッディング」事象には、病院や各種介護施設で発生したものは多数あるものの、半数以上は音楽イベントやレストランや職場で発生したものだった。例えば、あるコンサートでは、演奏者、観客、スタッフなど30人以上が感染していた。
研究チームは22のスーパースプレッディング事象について発端となったと考えられる人物を特定し、また16の事象については、そのタイミングを特定した。調査の結果、スーパースプレッダーの半数は40歳未満で、41%はウイルスを伝播させた時点で無症状だったことが判明した。
6月12日
遺伝子改変マウスがワクチンや治療薬の開発に役立つ可能性がある
マウスは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しないが、このほど2つの研究チームが、その感染症であるCOVID-19を発症するマウスモデルを作製するための近道を開発した。無害なウイルスを使用して、マウスの細胞をSARS-CoV-2に感染するように変えるのである。
SARS-CoV-2は、ヒト細胞の表面にあるACE2などの受容体に結合することにより細胞内に侵入する。マウスのACE2はヒトのACE2とは異なるため、マウスはSARS-CoV-2に感染しない。ヒトのACE2を持つトランスジェニックマウスはSARS-CoV-2に感染するが、その数は少ない。
より入手しやすいマウスモデルを開発するため、ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)のMichael Diamondが率いるチームと、広州医科大学附属第一病院(中国)のJincun Zhaoが率いるチームは、遺伝子治療に広く利用されているアデノウイルスを用いて、マウスの肺の細胞にヒトのACE2遺伝子を導入した。これらのマウスは、SARS-CoV-2への曝露後に体重が減少し、肺炎を発症した。
Diamondのチームは、肺炎を発症したマウスを治療用抗体で治療することに成功した(A. O. Hassan et al. Cell doi.org/dzbk; 2020)。Zhaoのチームは、このマウスを用いて、COVID-19の実験的ワクチンといくつかの治療法の試験を行った(J. Sun et al. Cell doi.org/dzbm; 2020)。
6月11日
英国でのアウトブレイクはウイルスが何度も持ち込まれたのが原因
海外から英国内に持ち込まれたSARS-CoV-2のうち英国内で感染伝播したものは1300件以上という。初期の報道では中国をはじめとするアジア諸国で感染した旅行者に注目が集まっていたが、実際には、大半のウイルスがフランスとスペインから来ていた。
英国のCOVID-19による死者数は4万人を突破している。英国でのアウトブレイクの起源を解明するため、オックスフォード大学(英国)のOliver Pybusとエディンバラ大学(英国)のAndrew Rambautが率いるチームは、約3万件に及ぶSARS-CoV-2のゲノム塩基配列を分析した(O. Pybus et al. Preprint at Virological https://go.nature.com/37ieyvw; 2020)。
ゲノム解析の結果、海外から持ち込まれたSARS-CoV-2のうち1356件が国内で伝播したことが明らかになったが、研究者らは、この数字は予備的なものであり、おそらく実際より少なく見積もられていると述べている。
ウイルスを英国内に持ち込んだ人の約3分の1がスペインからの旅行者で、3分の1弱がフランスからの旅行者だった。一方、中国からの旅行者は0.1%未満であった。なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月11日
ウイルスがヒト細胞に侵入する際に利用する2つのヒトタンパク質
SARS-CoV-2がヒト細胞に侵入する際に利用する第2のタンパク質が見つかった。このタンパク質は、ワクチンや治療薬の新たな標的となる可能性がある。
SARS-CoV-2は、スパイクタンパク質をヒトのACE2タンパク質と結合させることで細胞内に侵入することが分かっている。今回、2つの研究チームが、ヒトのニューロピリン-1(NRP1)というタンパク質もウイルスの侵入を助けていることを発見した。
ブリストル大学(英国)のPeter Cullenと山内洋平らは、スパイクタンパク質の断片がNRP1に結合できることを示した(L. Cantuti-Castelvetri et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dx5c; 2020)。また、ミュンヘン工科大学(ドイツ)のMikael Simonsらは、マウスでの研究ではあるが、ウイルス大の粒子がNRP1を介して中枢神経系へと侵入することを明らかにした(J. L. Daly et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dx5d; 2020)。両研究はいずれも、NRP1に結合する抗体により、SARS-CoV-2の培養ヒト細胞への感染を阻害できることを示した。
これらの研究は、ウイルスとNRP1との相互作用を阻害することがコロナウイルス感染と戦う方法の1つとなる可能性を示唆している。
なお、どちらの論文もまだ査読は済んでいない。
6月9日
無症状の感染者は知らないうちにウイルスを拡散させ得る
ベトナムで実施されている大規模な新型コロナウイルス検査キャンペーンで、無症状の感染者が他の人をウイルスに感染させ得ることを示す証拠が見つかった。
COVID-19の世界的大流行が始まったばかりの頃、ベトナムでは感染リスクが高い人の検査を繰り返し実施し始めた。検査結果が陽性だった人は、回復するか、検査結果が陰性になるまで入院した。
3月中旬から4月上旬にかけて検査を受けた約1万4000人のうち、49人が感染していた。ベトナム・ホーチミン市にあるオックスフォード大学臨床研究ユニットのLe Van Tanらは、49人のうち30人をモニターしたところ、そのうちの13人は、入院中に何の症状も出なかったことが判明した(N. V. V. Chau et al. Clin. Infect. Dis. doi.org/ggzfz9; 2020)。
鼻腔ぬぐい液検査の結果から、研究に参加した無症状の感染者は、いずれかの時点で症状が出た感染者よりもウイルスRNA濃度が低いことが示された。しかし著者らは、無症状だった研究参加者のうち2人から、少なくとも他の2人にウイルスが伝播した「可能性が高い」としている。
6月8日
ロックダウンはパンデミックへの 強力な対抗手段である
異なる国々について異なる有効性の尺度を用いて行われた2つの独立の研究によると、ロックダウンをはじめとする社会的距離確保という措置は、感染拡大を阻止する上で大きな成功を収めているという。
ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)のSamir Bhattらは、COVID-19関連死のデータを用いて、欧州11カ国でのウイルス伝播のモデルを作成した(S. Flaxman et al. Nature doi.org/dxxs; 2020)。研究チームは、これらの国々ではウイルスの拡散を遅くするための施策の組み合わせにより、流行の開始から5月上旬までの間に300万人 以上の死亡を防ぐことができたと見積もっている。
どの国の施策も、流行を食い止めるのに十分なものであった。特に有効だったのはロックダウン(外出禁止令や密接な接触を制限する施策)で、ウイルスの伝播を81%減少させた。
カリフォルニア大学バークレー校(米国)のSolomon Hsiangらは、ウイルスの拡散を防ぐための施策を講じた中国、米国、およびその他の4カ国で、感染の増加率が時間の経過とともにどのように変化していったかを分析した(S. Hsiang et al. Nature doi.org/dxxt; 2020)。分析の結果、6カ国の感染防止策により、全体で約5億人の感染を回避できたことが明らかになった。
このチームは、ロックダウン(感染の有無を問わず外出を制限する施策)がウイルスの拡散を食い止めるのに効果的であることも明らかにした。
6月5日
家庭での感染伝播に調度品表面に付着したウイルスが及ぼす影響は小さい可能性
SARS-CoV-2の家庭内伝播において、調度品表面に付着したウイルスは小さな役割しか果たしていない可能性がある。
ボン大学(ドイツ)のRicarda Schmithausenらは、1人以上の感染者を出した21世帯を対象に、SARS-CoV-2の痕跡を探した(M. Döhla et al. preprint at medRxiv http://doi.org/dxqn; 2020)。ドアノブなどの最も頻繁に触れるものから採取した試料のうちウイルスRNAが検出されたものはわずか3%で、浴室の排水管やトイレから採取した試料では15%であり、どの試料からも感染力のあるウイルスを培養することはできなかった。
また、呼吸器から排出される微小なエアロゾルを採取できるように設計された空気モニターを使って採取した15の試料の全てでウイルスRNAは検出されなかったが、著者らは、自分たちが用いた手法の性質上、今回の結果は慎重な解釈が必要と述べている。
今回の知見は、ウイルスの直接伝播(呼気や咳などの飛沫を介した伝播)が新型コロナウイルスの主な感染経路であることを示唆している。しかし著者らは、下水からの伝播も感染経路の1つと考えられると付言する。
なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月4日
血液型はCOVID-19のリスクに影響を及ぼす可能性がある
COVID-19に起因する肺不全を起こしやすい可能性のある2つのヒト遺伝子多様体が突き止められた。
オスロ大学病院(ノルウェー)のTom Karlsenらは、イタリアとスペインの呼吸不全に陥ったCOVID-19患者1980人とCOVID-19に罹患していない対照群2000人以上の計約4000人のゲノムを分析した(D. Ellinghaus et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/dxk7; 2020)。その結果、COVID-19重症患者は、罹患していない人に比べて2つの遺伝子多様体のうちのいずれかを有している可能性が高かった。
1つの遺伝子多様体は、血液型を決定するゲノム領域内にある。追跡分析の結果、血液型がRhプラス A型の人は、他の血液型の人に比べて肺不全となるリスクが高く、O型の人のリスクはやや低いことが分かった。もう1つの遺伝子多様体は、3番染色体上の、ACE2を含む6つの遺伝子をコードする領域にある。ACE2は、SARS-CoV-2がヒト細胞内に侵入する際に足場として利用する分子である。
なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月3日
COVID-19に有効と言われていた薬では感染を予防できない
大規模な臨床試験の結果、ヒドロキシクロロキンがCOVID-19に有効である証拠は見いだされなかった。
世界の指導者の中には、ヒドロキシクロロキンがCOVID-19の治療や予防に有効であると信じている人がいる。ミネソタ大学(米国ミネアポリス)のDavid Boulwareらは821人の研究参加者を、SARS-CoV-2への曝露後4日以内にヒドロキシクロロキンを投与するグループとプラセボを投与するグループに無作為に割り付けた(D. R. Boulware et al. N. Engl. J. Med. doi.org/dxkv; 2020)。研究参加者には、感染者と接触した医療従事者と、感染者と同居する家族が含まれていた。
ヒドロキシクロロキンを投与された人の約12%が2週間以内にCOVID-19を発症したのに対し、プラセボを投与された人で発症したのは約14%であった。この差は統計的に有意ではない。また、ヒドロキシクロロキンを投与されたグループでは、プラセボを投与された群よりも多くの副作用が報告された。
この研究では、医療従事者を含め、COVID-19の症状がない人は検査を受けることができないという制約を設けていたため、無症状の感染者は数に入っていない。
6月2日
新型コロナウイルスの抗体検査では感染者が少なく出る可能性がある?
抗体検査は、SARS-CoV-2に感染した人々が集団内で占める割合を過小評価する可能性がある。
免疫細胞は病原体による攻撃に反応して抗体と呼ばれる分子を産生し、これが血液中に留まって感染の記録を残す。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)のIsabel Rodríguez-Barraquerらは、新型コロナウイルスに対する抗体を検出する検査について、バイアスの原因となり得るものを特定した(S. Takahashi et al. Preprint at OSF Preprints http://doi.org/dxc2; 2020)。
ほとんどの抗体検査は、入院中の重症患者の血液検体を用いて実証されてきた。しかし、こうした患者は感染者のごく一部にすぎず、軽症や無症状の患者に比べて、体内を循環する抗体の濃度が高い可能性がある。
著者らは、軽症の感染経験を抗体検査でどこまで検出可能かを評価する、より詳細な研究が必要と述べている。
なお、この論文はまだ査読を受けていない。
6月1日
新型コロナウイルスの検査結果が 陽性であっても他の人に感染させるとは限らない
サルの細胞を使った実験によると、COVID-19患者は、発症から8日以上経過していればウイルスを拡散する可能性が低下するようだ。
マニトバ大学(カナダ・ウィニペグ)のJared Bullardらは、SARS-CoV-2のRNA検査で陽性と判定された人から採取した90の検体を、培養したサル細胞に接種した(J. Bullard et al. Clin. Infect. Dis. doi.org/dw8z; 2020)。研究者らは、発症から8日以上経過してから採取した検体は、ウイルスRNAが陽性であっても細胞に感染しないことを発見した。これは、ウイルスRNAが陽性と判定された人が必ずしも他の人に感染させるわけではないことを示唆している。
研究チームは、発症から数週間経過してもウイルスRNAが陽性となる入院患者は、厳格に隔離する必要はないかもしれないと述べている。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200728
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200728