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人工知能を使ってマウスの表情を解読

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200602

原文:Nature (2020-04-02) | doi: 10.1038/d41586-020-01002-7 | Artificial intelligence decodes the facial expressions of mice

Alison Abbott

マウスの表情を解読した神経科学者たちはさらに、特定の感情と相関して活動する神経回路も明らかにした。

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Getty

研究者たちは、機械学習アルゴリズムを使用して、実験用マウスの一見理解不可能に思える顔の表情を解読した。この研究は、特定の表情を符号化するヒト脳のニューロンの位置を正確に示すことにおいても意味を持つかもしれない。

彼らの研究は、感情の不可解な側面のいくつかを理解したり、感情が脳にどのように現れるかを解明したりするための「重要な第一歩だ」とカリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の神経科学者David Andersonは言う。

およそ150年前、チャールズ・ダーウィンは、動物の表情は、人間の場合と同様に、彼らの感情をのぞき込むための窓となる可能性があると述べた。しかし、高倍率の顕微鏡やカメラ、遺伝子工学技術などのツールが開発されて、顔の動きを高い信頼性で捉えて分析し、感情が脳内でどのように生じるかを調べられるようになったのは最近のことだ。

「我々人間には感情状態(emotional state)があり、それを気分として経験しているという事実に、私は魅了されました」と、この3年にわたる研究を指揮したマックス・プランク神経生物学研究所(ドイツ・マルティンスリート)の神経科学者Nadine Gogollaは言う。「私は動物実験で、これらの状態が脳に現れてくる仕組みを解明できるかどうかを知りたかったのです」。この研究はScience 2020年4月3日号1に掲載された。

Gogollaは、Andersonがカリフォルニア工科大学の同僚Ralph Adolphsと共同で執筆して2014年にCellに発表された論文2に刺激を受けた。その研究でAndersonらは、感情のような「脳の状態」は特定の特徴を示すはずだと考えた。例えば、そうした状態を誘発した刺激が消えた後もしばらく続く、持続性のある状態であるはずだ。そして、刺激の強さに比例するだろう、と想定した。

顔面値

Gogollaの研究チームは、マウスの頭部を固定して動けないようにし、特定の感情を引き起こす目的で異なる感覚刺激を与え、マウスの顔を撮影した。例えば、喜びまたは嫌悪を喚起するために甘い味か苦い味のする液体をマウスの唇に垂らした。また、不快感を引き起こすために、尾に疼痛性の軽い電気ショックを与えたり、塩化リチウムを注射したりもした。

マウスが耳や頬、鼻や上まぶたを動かすことによって表情を変えられることは分かっていたが、そうした表情を高い信頼性を持って特定の感情に割り当てることはできていなかった。そこで彼らは、マウスが異なった刺激に反応するときの顔面筋の動きの動画を、極短時間の画像データに分解した。

機械学習アルゴリズムは、顔面筋の特定のグループの動きが生み出す異なる表情を認識した(「感情を表すマウス」参照)。これらの表情は喜びや嫌悪や恐怖といった、誘発された感情状態と相関していた。例えば、喜びを経験しているマウスは、鼻を口の方向に引き下げ、耳と顎を前方に引く。対照的に、痛みを感じているときには、マウスは耳を後方に引き、頰を膨らませ、時には目を細める。そうした表情には、AndersonとAdolphsが提案した特性が見られた。例えば、表情には持続性があり、表情の強さは刺激の強度と相関していた。

感情を表すマウス
マウスもヒトと同様に、感情と対応する表情を示す。研究者たちはマウスに刺激を与えて、喜びや恐怖などの特定の感情を引き起こし、動画分析を使ってマウスの顔面筋がどのように動くかを調べた。 | 拡大する

REF.1

「このやり方で表情を調べることには大きな利点があります。実験者のあらゆる偏見を避けることができますから」と、ジュネーブ大学(スイス)で神経精神疾患の研究を行っているCamilla Belloneは言う。

次に、Gogollaらは脳でこれらの感情を符号化している可能性のある脳細胞を探した。彼らはマウスで光遺伝学使用して、ヒトなどの動物で特別な感情の引き金となることが示されている個々の神経回路を標的とした。直接これらの神経回路を刺激すると、マウスはそれと関連する表情を示した。

最後に、研究チームは2光子カルシウムイメージング法を用いて、特定の感情、そして特定の表情が誘発されたときにだけ発火するマウス脳の単一ニューロンを特定した。「それらは脳において感情の符号化の一部を担っているのかもしれません」とGogollaは推測する。「私たちは感情の符号化は進化的に保存されているのではないかと考えています。ですから、ヒトとマウスにおける符号化に共通した特徴がいくつかあるかもしれません」。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Dolensek, N., Gehrlach, D. A., Klein, A. S. & Gogolla, N. Science https://www.doi.org/10.1126/science.aaz9468 (2020).
  2. Anderson, D. J. & Adolphs, R. Cell 157, 187–200 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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