アフリカ人ゲノムで統合失調症の複数変異を特定
コサの人々は、非アフリカ系の人々よりも遺伝的多様性が高い。 Credit: CHRISTOPHER FURLONG/GETTY
アフリカ人集団を対象にした統合失調症のゲノム解析が初めて行われ、この疾患の患者でより頻繁に見られる複数の稀な変異が特定された。これらの変異は主に、脳の発達および脳のシナプス(ニューロン間の情報伝達を調整する構造物)にとって重要な複数の遺伝子で見つかった。2020年1月31日号に掲載されたこの研究結果(S.Gulsuner et al. Science 367, 569-573; 2020)は、他の統合失調症研究の結果と一致している。ただし、以前の研究はほとんど全て、欧州系またはアジア系の集団で行われてきた。
この研究が重要なのは、遺伝学者たちがこれまで研究してきた集団にはアフリカ系の人々が含まれていないという大きな欠落部分があったことを示しているからだと、精神衛生中央研究所(ドイツ・マンハイム)の所長を務める精神医学遺伝学者Andreas Meyer-Lindenbergは述べる。彼は、今回の研究は統合失調症の生物学的起源に関する現在の仮説に裏付けを与えるものだと言う。統合失調症は幻覚や妄想を引き起こす場合がある。研究者たちは、各変異はこの疾患を発生させる全体的リスクに少しずつ寄与しており、シナプスの崩壊が統合失調症の発症に重要であるかもしれないと考えている。
ゲノム研究ではこれまでアフリカ人集団がほとんど無視されてきたため、遺伝学者たちは昔から、ゲノム研究において多様な集団が抽出されていないことを批判してきた。「この件に、より多くの関心が向けられることが緊急に必要です」と、ケープタウン大学(南アフリカ)の人類遺伝学者Ambroise Wonkamは言う。
この偏りは、これらの研究に基づいて開発された診断検査や治療は、特定の集団では役立たない可能性があることを意味する。また、多様な集団を対象とした研究によって、疾患のより包括的な展望を作り上げることもできる。特に、集団としてのアフリカの人々は、他の集団の人々よりも多様なゲノムを持っている。ヒト進化の大部分がアフリカで起こったからだ。
今回の研究には、約900人の統合失調症患者と、それとほぼ同数の対照者が登録された。全員がコサ(主に南アフリカで暮らしている民族集団)の人々であることが特定された。
この研究では、被験者のゲノムの塩基配列を解読し、遺伝子を破壊する変異を探した。このような変異は統合失調症の患者では対照被験者に比べてはるかに多く見られ、脳で高発現している遺伝子やシナプス機能に関わる遺伝子に集中していた。
この結果は、同じ方法を用いてスウェーデンで行われた大規模研究(G. Genovese et al. Nature Neurosci. 19, 1433–1441; 2016)の結果と同様だったが、影響を受けた遺伝子における変異の密度は、コサ被験者の方が概して高かった。今回の研究チームはこの結果について、コサの人々の間では遺伝的多様性がより高いことを反映していると述べている。
翻訳:古川奈々子
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200504
原文
First genomic study of schizophrenia in African people turns up broken genes- Nature (2020-02-03) | DOI: 10.1038/d41586-020-00255-6
- Alison Abbott
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