中国が国内科学雑誌にてこ入れ
中国北京市にある人民大会堂。 Credit: Etienne Oliveau / 特派員/Getty Images News/Getty
中国政府は2019年8月、世界の画期的な論文が中国の科学雑誌で発表されるようにしていくという方針を打ち出した。そして同年11月25日には、約280の国内科学誌(その大半が英語で出版されている)のレベルを上げて、海外の研究者からの投稿を増やすために、今後5年にわたり年間2億元(約32億円)を投じていくことを明らかにした。
現在、中国には英文の国内科学誌が約500誌ある。しかし、品質の低い論文や不正な論文を大量に出版する科学雑誌もあり、懸念が高まっている。中国はこの5年間に複数のイニシアチブを立ち上げて、論文の品質や海外からの投稿の割合を高めようとしてきた。これにより一部の科学雑誌の品質は向上したが、編集者の話によれば、中国国内外の一流研究者からの投稿はほとんどないという。
中国の学術出版の独立コンサルタントで、米国ワシントンD.C.を拠点にしているTao Taoは、これらのイニシアチブのうち最も新しいものは、中国の科学出版の現状を変えるための、これまでで最も大規模で包括的な取り組みだと説明する。「これだけの規模ですから、この新しいプログラムは成功するでしょう」。
復旦大学(上海)で科学政策を研究しているTang Li(唐莉)は、この取り組みは、中国が科学立国としての地位を高めるにはどうすればよいかという長年にわたる議論にとって、重大な転換点になると言う。中国に生まれ、海外に留学して帰国した科学者の多くは、中国の研究の影響力は、すでに海外の著名な科学誌で論文を出版する中国人科学者の増加として表れていると考えている。しかし中国の科学雑誌の編集者や出版社は、中国科学の評価を高めるためには、国内資本の出版社が発行する権威ある科学雑誌がもっと必要だと考えている。今回の投資は、中国政府が後者の戦略を支持していることを意味するとTangは言う。
この投資は、中国の財政部、科学部、教育部、新聞出版総署(中国共産党の強力なプロパガンダ機関)、中国科学院および工程院、中国科学技術協会(非政府科学組織)という7つの大きな組織の代表からなる委員会によって監督される。
2億元の配分を決めるため、委員会は280の科学雑誌のうち250誌を品質に基づいて3つの等級に分けたが、等級の決定法の詳細については公表していない。第1級とされた22の英文科学雑誌は、世界の研究者に投稿を促すための費用として、それぞれ毎年100万〜520万元(約1600万〜8300万円)を受け取る。第2級とされた29の英文科学雑誌は、それぞれ毎年60万〜100万元(約960万〜1600万円)を与えられる。第3級とされた199の科学雑誌(約半数が中国語で出版されている)は、それぞれ毎年40万元(約640万円)を受け取る。さらに、格付けされなかった科学雑誌から毎年30誌が選ばれて、品質向上のために50万元(約800万円)を分け合うことになる。
中国政府は、このプログラムの成功をどのように測るかまだ明らかにしていないが、Taoは、品質向上の指標に学術誌のインパクトファクターを使うのではと考えている。
寧波ノッティンガム大学(中国浙江省)の科学政策研究者Cao Cong(曹聡)は、出版社には自ら品質向上を図るのに十分な資金がないため政府が資金を提供するのは理解できるが、中国は国内に有力な科学雑誌がなくても科学立国になることにほぼ成功していると指摘する。科学は国際的な営みであり、研究者はどこに拠点を置いていようとも最高の学術誌で論文を出版したがるものだとCaoは言う。「中国の化学、米国の生物学、ドイツの物理学などというものはありません」。
Caoは、中国語で出版している科学雑誌への投資が国際的な評価につながるかについては懐疑的だ。中国語を話さない科学者がそうした学術誌で論文を出版するとは思えないからだ。
これに対してTaoは、中国資本の科学雑誌が増えれば、中国の研究機関にとって出版費用の節約になるだろうと指摘する。国際的な科学雑誌とは違い、中国資本の出版社は中国人研究者の論文掲載料を減額する可能性があるからだと彼女は言う。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200312
原文
China spends millions to boost home-grown journals- Nature (2019-12-11) | DOI: 10.1038/d41586-019-03770-3
- David Cyranoski
関連記事
キーワード
Advertisement