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地球が太陽の周りを回っていることをAIが「発見」

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200213

原文:Nature (2019-11-07) | doi: 10.1038/d41586-019-03332-7 | AI Copernicus ‘discovers’ that earth orbits the sun

Davide Castelvecchi

物理法則を独習するニューラルネットワークは、将来、量子力学の謎解きに役立つかもしれない。

物理学者がデザインしたAIが、太陽が太陽系の中心にあることに気付いた。 | 拡大する

Elen11/iStock / Getty Images Plus/Getty

天文学者がそれを発見するには何世紀もかかった。けれども今や、脳に着想を得た機械学習アルゴリズムが、地球から見た太陽と火星の運動を根拠に、太陽が太陽系の中心にあることを「発見」できるようになった。研究者たちは大きなデータセット中にパターンを見いだすことで新しい物理法則を発見し、できれば量子力学を再構築するのにも利用したいと考えていて、今回の快挙は、この手法の最初のテストの1つとして位置付けられる。研究の成果はPhysical Review Letters で2020年1月8日、発表された(R. Iten et al. Phys. Rev. Lett.; 2020)。

スイス連邦工科大学チューリヒ校の物理学者Renato Rennerらは、物理学者がE = mc2などの簡潔な方程式を思いつく過程を模した、大きなデータセットから少数の基本的な公式を抽出するアルゴリズムをデザインしたいと考えた。これを行うには、これまでにないタイプのニューラルネットワーク(脳の構造に着想を得た機械学習システム)をデザインする必要があった。

従来のニューラルネットワークは、巨大なデータセットで訓練することにより、対象(画像や音声)の認識を学習する。ニューラルネットワークは、最初に一般的な特徴を発見し(例えばネコの特定には「4本の脚」や「尖った耳」などを利用しているようである)、これらの特徴を「ノード」と呼ばれる数学的な人工ニューロンに符号化する。けれども、ニューラルネットワークはブラックボックスのようなものだ。物理学者たちが情報を解釈しやすい少数の法則に要約するのに対し、ニューラルネットワークは獲得した知識を数千あるいは数百万のノードに拡散させてしまうため、それを予測するのは不可能で、解釈するのは困難だ。

そこでRennerのチームは、ある種の「ロボトミー手術」を施したニューラルネットワーク(つまり、2つのサブネットワークが、少数のリンクのみによって結合しているニューラルネットワーク)をデザインした。第1のサブネットワークは典型的なニューラルネットワークのようにデータから学習し、第2のサブネットワークはその「経験」を利用して新しい予測をし、テストする。2つのサブネットワークを結ぶリンクはほとんどないため、第1のネットワークは情報を圧縮した形で第2のネットワークに伝えなければならない。Rennerはこれを、指導教官が自分の持つ知識を学生に伝えるときのやり方に例える。

惑星の並び方を決める

Rennerらはこのネットワークに、地上から見上げた空で観察される火星と太陽の運動に関するシミュレーションデータを与えた。太陽の周りを公転する火星の動きは、地球から見ると不規則に見える。例えば火星は夜空の中を時々逆行する。天文学者たちは何世紀にもわたって地球は宇宙の中心にあると考え、火星が周転円(天球上の従円と呼ばれる大きな円の円周上を運動する点を中心とする小さな円)の上を運動しているとすることで、その運動を説明してきた。けれども16世紀になると、ニコラウス・コペルニクスが、地球と火星の両方が太陽の周りを回っていると考えれば火星の運動をもっと単純な系で予想できることを発見した。

トロント大学(カナダ)の物理学者で、AIを科学の発見に応用する方法を研究しているMario Krennは、「Rennerらのニューラルネットワークは火星の軌道についてコペルニクス風の公式を編み出して、科学史の中で最も重要なパラダイムシフトの1つを再現した」と評価する。

なおRennerは、このアルゴリズムは確かに公式を導いたが、方程式を解釈し、これらが太陽を周る惑星の運動とどのように関連しているかを理解するには、人間の目が必要だと強調している。

コロンビア大学(米国ニューヨーク)のロボット学者Hod Lipsonは、今回の研究は物理系を記述する重要なパラメーターを選び出せる点で重要だと言う。「こうした手法は、物理学に限らず、ますます複雑になっていく現象を私たちが理解し、遅れずについていくための唯一の希望だと思います」。

Rennerとそのチームは、物理学者が現在の量子力学に見られる矛盾を解決するのに役立つAI技術を開発したいと考えている。彼らが以前に行った思考実験によると、複数の観測者が量子力学を用いてお互いの観測結果を予測しようとすると、常に矛盾した結果になるという(D. Frauchiger and R. Renner Nature Commun. 9, 3711; 2018)。

Rennerは、「現在の量子力学の定式化は単なる歴史的遺物になる可能性があります」と言い、コンピューターはこのような矛盾のない定式化を編み出す可能性があるが、自分たちの現在の手法はまだそこまで洗練されていないとする。この目標に近づくため、彼らは実験データから学べるだけでなく、その仮説を検証するための全く新しい実験を提案することもできるようなニューラルネットワークを開発しようと取り組んでいる。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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