Editorial

科学と政治は切り離せない

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201244

原文:Nature (2020-10-06) | doi: 10.1038/d41586-020-02797-1 | Why Nature needs to cover politics now more than ever

Nature はこれまで以上に、政治に関するニュースやコメント記事および一次研究論文を掲載していきます。

2020年10月16日、東京都内で菅義偉首相と会談した後、記者団の取材に答える日本学術会議の梶田隆章会長。 | 拡大する

Kyodo News/Kyodo News/Getty

Nature には、創刊以来、科学と政治に関するニュース記事やコメント記事、一次研究論文を掲載してきました。しかし、なぜ科学の専門誌が政治を取り上げねばならないのか。これは、読者から頻繁に尋ねられる重要な質問です。

2020年10月8日号のNature には、11月3日の米国大統領選挙でジョー・バイデン候補が勝利した場合に科学が受け得る影響を概説する記事(177ページ)、ドナルド・トランプ大統領が科学に遺した数々の問題を時間の流れに沿ってまとめた記事(190ページ)が掲載されています。今後は、世界中から寄せられる政治報道を増やし、政治学と関連分野の一次研究論文をこれまで以上に掲載する予定です。

科学と政治は常に、互いに依存し合ってきました。政治家の決定や行動は、研究資金や研究政策上の優先順位に影響を与えます。その一方で科学と研究は、環境保護からデータ倫理に至るさまざまな公共政策の立案に役立つ情報をもたらし、政策を形作ります。政治家の行動は、高等教育環境にも影響を与えます。例えば政治家は、学問の自由が確実に守られるように行動することができます。また、教育機関に対しさらなる努力を傾注して平等と多様性、そして多様性の受け入れを擁護し、これまで疎外されていたコミュニティーの声を取り入れる余地を広げることを確約させることもできます。しかし、その逆の効果を有する法律を制定する権力も持っています。

これまでに100万人以上の命を奪ったコロナウイルスの大流行は、かつてないほど科学と政治の関係を公の場に押し出して、いくつかの深刻な問題を浮き彫りにしました。COVID-19関連の研究は、感染症研究として前例のないハイペースで生み出されています。そうした中、政治指導者が決定を下す際の手掛かりとして科学をどのように利用しているのか、そして一部の政治家がどのように科学を誤解したり、誤用したり、隠蔽したりしているのかという点に、全世界で強い関心が集まっています。これは当然のことです。また、政治家と、政府の諮問機関の委員や公務員になった科学者の関係が揺らいでいることにも、高い関心が寄せられています。

学者の自律性が脅かされている

おそらくもっと心配な問題は、学者の自律性、つまり学問の自由を守るという原則に政治家が反発し始めていることです。この原則は、過去の諸文明を含めて何世紀にもわたって存在してきたもので、現代科学の中心に位置しています。

現在、この原則の意味は、研究のために公的資金を利用する研究者が、科学研究の実施や最終的に到達した結論に関して、政治家の干渉を受けることは想定されない、あるいは非常に限定的な干渉しか受けないということ、そして、政治家と官僚が研究者に助言や情報提供を求める場合は、特定の回答を命じることはできないという了解の下で行われるということ、と解釈されています。この原則が現在の科学と政治との約束事の基盤であり、研究や教育、公共政策、規制の各分野に適用されます。

これは決して完璧なシステムではありません。研究分野によって自律性の高い分野と低い分野があります。また自律性とは、何をしてもよいという意味では決してなく、研究者はその行動について説明責任を負っており、質と公正さの水準を維持しなければならないのです。しかし、自律性の保護は、専門家と政策立案者が達成を目指して長年取り組んできた基準です。その実現には、研究者と政治家が約束を守ることで、お互いを一定程度信頼し合っている必要があります。この信頼が失われ始めると、このシステムの脆弱性が見え始めるのです。

今、世界中で、両者の信頼関係を壊し得る力が相当に強まっています。気候変動の分野では、信頼に亀裂が入っていることが何年も前から明白です。気候変動が人為起源であることの動かぬ証拠を無視したり、弱体化させたりする政治家が少なからず存在しています。しかし、こうした信頼の欠如は、気候変動の分野だけで起きているわけではありません。有効な政策立案のために検証可能な知識と研究が必要とされる他の公共分野でも見られるようになってきました。

ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は在任中の2019年に、「アマゾン川流域での森林伐採が加速している」という国立宇宙研究所の報告を受け入れず、同研究所の所長を解任しました。また、同じ年にインドの100人以上のエコノミストが、同国のナレンドラ・モディ首相に対しインドの公式統計、特に経済データに政治的影響力を行使することをやめるよう求める書簡を送るという前例のない行動に出ました。

そして、2020年9月下旬には日本で、菅義偉首相が日本学術会議が推薦した会員候補のうち、これまで政府の科学政策に批判的だった6人の学者を任命しないという事態が生じました。日本学術会議は、日本の科学者の代表機関で、内閣総理大臣の所轄の下、独立して職務を行うことが定められています。2004年以降、日本学術会議が推薦した会員候補を首相が任命する方式を採っていましたが、任命拒否は初めてです。

また、新型コロナウイルスの世界的流行においても、科学への政治的干渉の実例が発覚しています。英国では2020年6月、官公庁の統計を監督する統計理事会の会長が、政府当局者にある書簡を送りました。その内容は、政府が発表するCOVID-19の検査データに不正確な記載が繰り返し見られる点を強調するもので、これは「検査件数をできるだけ多く」見せる目的で行われているという見解が示されていました。

これまで公衆衛生と感染症研究の分野で、感染症の世界的流行の影響および阻止方法について解明が進みました。2020年は、COVID-19に関する膨大な研究により、SARS-CoV-2とCOVID-19の挙動がどちらも明らかになりました。また研究が進むにつれて、私たちの知識にやはり不確実な点や欠落、誤りがあったことも分かりました。だからといって世界中の政治家が、トランプ大統領のような悪評の高い行動を取ること、すなわち科学者を非難し貶めつつ、不十分な情報に基づいた支離滅裂な対応を取ることに対する言い訳にはなりません。

国家が学者の独立性を尊重するという原則は、現代の研究を支える基盤の1つです。この原則が侵されれば、研究と政策立案における質と公正性の水準に重大なリスクをもたらします。政治家がこの約束事を破れば、人々の健康や環境、そして社会は危険にさらされます。

だからこそNature のニュース特派員は、世界中の政治と研究上の出来事に目を配り、それを伝える努力を倍増させるのです。本誌が専門家のComment記事でこうした出来事の展開を評価し、批判し続けるのも、政治学の一次研究論文をこれまで以上に掲載したいと考えているのも、それが理由なのです。

そして、Nature の社説では政治家に対し、学問と協力の精神を受け入れ、異なる視点を大切にし、科学と学者の自律性へのコミットメントを守ることを強く懇請し続けます。

科学と政治の関係を導いてきた約束事が脅威にさらされています。Natureは、これを黙って傍観していられません。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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