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中間質量ブラックホールを重力波で確認

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201213

原文:Nature (2020-09-02) | doi: 10.1038/d41586-020-02524-w | ‘It’s mindboggling!’: astronomers detect most powerful black-hole collision yet

Davide Castelvecchi

中間質量ブラックホールの存在と、「禁じられた」質量範囲にあるブラックホールの存在が、重力波の観測で確認された。

合体する前、互いの周囲を回りながら重力波を放出する2つのブラックホールのイメージ画像。 | 拡大する

MARK GARLICK/SPL/Getty

太陽の100倍以上の質量を持つ「中間質量ブラックホール」が存在することが重力波の観測で確かめられ、このほど報告された。また、恒星進化の理論上あり得ないとされていた質量範囲にあるブラックホールが存在することも、同じ観測で分かった。この重力波は米国とイタリアの重力波検出器で2019年5月21日に検出され、85太陽質量と66太陽質量のブラックホール同士が合体し、142太陽質量のブラックホールができたイベントで放出されたとみられている。合体前の質量、合体後の質量共にこれまでに重力波検出器で観測された中で最大だった。

重力波は時空の波動であり、その観測により、従来の望遠鏡では通常見えない、ブラックホールの合体などの現象を知ることができる。中間質量ブラックホールは、典型的な星よりずっと質量が大きいが、銀河の中心にある超大質量ブラックホールほどには質量が大きくないブラックホールで、通常、太陽質量の100倍から10万倍までとされている。中間質量ブラックホールの有力な候補は見つかっていたが、確実な方法で確認されてはいなかった。

今回の重力波は、米国ワシントン州ハンフォードと同ルイジアナ州リビングストンにある2つの検出器からなるLIGO(レーザー干渉計重力波観測所)と、少し小型の重力波検出器Virgo(イタリア・ピサ近郊)によって観測され、2020年9月2日に公開された2つの論文で報告された1,2。重力波は、検出された日付からGW190521と名付けられた。重力波源までの光度距離は170億光年と見積もられている。

ライデン大学(オランダ)の計算天体物理学者Simon Portegies Zwartは「今回の発見に関する全てが驚きです。特に、約150太陽質量のブラックホールは、中間質量ブラックホールの存在を裏付けるものです」と話す。モナッシュ大学(オーストラリア・メルボルン)の理論天体物理学者Ilya Mandelも、今回の発見を「素晴らしく想定外です」と評する。

禁じられた質量

重力波は、ブラックホールなどの天体が互いの周囲を回り、渦巻き状の軌道を描いて合体する際などに生じる。重力波の波形の分析から、天体の質量などの特徴を推定することができる。この方法はブラックホール研究に革命を起こし、これまでに数十個のブラックホールや中性子星の直接的証拠が得られ、その質量は太陽と同程度からその約50倍までに及ぶ。

ブラックホール形成の典型的なシナリオは、巨大な恒星が燃料を使い果たし、自身の重さでつぶれてブラックホールになるというものだ。これまでに重力波検出器で観測された質量範囲は、この典型的なシナリオに合致している。しかし、恒星進化理論によると、太陽質量の約65~120倍のブラックホールは星の崩壊では生じないはずだという。

ブラックホールの質量に空白域が生じる理由は、ある質量範囲の星は、生涯の終わりに星を完全にばらばらにする超新星爆発を起こしてブラックホールが残らないためだ。これらの星は生涯の終わりに近づくと中心部が高温になり、光子が電子と陽電子の対に変わり始める。これは対不安定と呼ばれる現象で、放射圧の減少と急激な核融合を引き起こし、星は爆発する。

LIGOコラボレーションの一員であるノースウェスタン大学(米国イリノイ州エバンストン)の天体物理学者Christopher Berryは「今回の合体前のブラックホールの質量は、対不安定による質量の空白があるはずと予想されている範囲にちょうど入っています」と話す。

ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の天体物理学者Selma de Minkは、対不安定によるブラックホール質量空白域の下限を45太陽質量とさらに低く見積もっている。このため、今回の2つのブラックホールの軽い方も、確実に禁じられた領域にあることになる。「私にとって、今回の2つのブラックホールは困ってしまうほど質量が大きいのです」と彼女は話す。

変わり者のブラックホール

今回観測された重力波は10分の1秒ほどの短いもので、最後の約4サイクルだけが検出され、周波数は30~80ヘルツと低かった。小さなブラックホールの合体による重力波はもっと高い周波数に達するが、巨大なブラックホールは低い周波数のうちに合体する。

LIGOの研究者たちは今回の観測を説明するため、いくつかの可能性を検討した。その中には、このブラックホールが宇宙の始まりから存在していたというシナリオも含まれる。研究者たちは数十年前から、ビッグバン後間もなくにさまざまな大きさの原始ブラックホールが自発的に生成した可能性があると推測してきた。

研究チームが検討した中心的なシナリオは、今回のブラックホールは、それ自身が過去のブラックホール合体の結果できたというものだ。高密度の星団の中に星の崩壊でできたブラックホールが存在し、何度も合体を経験する可能性がある。ただし、このシナリオには問題がある。最初の合体でできたブラックホールは、一般的には重力波の反動により、星団から飛び出してしまうはずだ。2回目の合体を経験する可能性のある領域にブラックホールがとどまるのは稀なケースだろう。

しかし、ブラックホールが銀河の混み合った中心領域にあるなら、合体が連続して起こる可能性はもっと高くなるだろうと、de Minkは話す。中心領域では反跳した天体が飛び出さないほどに重力が強い。

今回の合体がどの銀河で起こったかは分かっていない。しかし、空のおおよそ同じ領域で、GW190521のシグナルの約1カ月後にクェーサーが増光を起こしたことを、ある研究チームが見つけた3。クェーサーとは非常に明るい銀河中心で、そのエネルギー源は超大質量ブラックホールだ。この増光は、反跳したブラックホールによって作られた、クェーサーの高温ガス中の衝撃波だった可能性がある。しかし、重力波と増光が関係しているという見方には多くの天文学者たちは慎重な姿勢だ。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Abbott, R. et al. Phys. Rev. Lett. 125, 101102 (2020).
  2. Abbott, R. et al. Astrophys. J. 900, L13 (2020).
  3. Graham, M. J. et al. Phys. Rev. Lett. 124, 251102 (2020)
  4. Abbott, R. et al. Astrophys. J. 896, L44 (2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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