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ブラックホールに関する発見にノーベル物理学賞

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201204

原文:Nature (2020-10-06) | doi: 10.1038/d41586-020-02764-w | Physicists who unravelled mysteries of black holes win Nobel prize

Elizabeth Gibney & Davide Castelvecchi

2020年のノーベル物理学賞は、数理物理学者のロジャー・ペンローズと、天文学者のアンドレア・ゲズおよびラインハルト・ゲンツェルが分け合うことになった。

ブラックホールの研究につきノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズ、アンドレア・ゲズ、ラインハルト・ゲンツェル(左から右へ)。 | 拡大する

DAVID LEVENSON/GETTY, CHRISTOPHER DIBBLE, ESO/M.ZAMANI

2020年のノーベル物理学賞は、宇宙で最も質量が大きく、最も謎に包まれた天体であるブラックホールに関する発見をした1人の数理物理学者と2人の天文学者に贈られる。

アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論からブラックホールの存在が必然的に導かれることを理論的に示した英国の数理物理学者ロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)には、1000万スウェーデン・クローナ(約1億2000万円)の賞金の半分が贈られる。

宇宙で最も有名なブラックホールである銀河系の中心の超大質量天体を発見した米国の天文学者アンドレア・ゲズ(Andrea Ghez)とドイツの天文学者ラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)は、賞金の残り半分を分け合う。

ゲズとゲンツェルは、1990年代からそれぞれのグループを率いて、銀河中心付近の恒星の軌道をマッピングしてきた。この研究から彼らが導き出した結論は、銀河中心には目に見えない超大質量天体があって、近くの恒星を猛スピードで運動させているに違いないというものだった。ノーベル賞を授与するスウェーデン王立科学アカデミー(ストックホルム)は、「いて座A(エー・スター)として知られるこの天体は、銀河中心に超大質量ブラックホールが存在することを示す、これまでで最も説得力ある証拠である」と説明している。

ミラノ大学ビコッカ校(イタリア)の天体物理学者Monica Colpiは、彼らが受賞するのは当然だと言う。「ゲンツェルとゲズによる観測データは素晴らしく、この天体の周りにある恒星の運動を測定する能力は、比類ないものです」。

一方、ペンローズは「理論物理学の巨人」であり、数世代の科学者に影響を与えてきたと、バース大学(英国)の天体物理学者Carole Mundellは言う。彼女はペンローズのことを、「何をするにも、計り知れない想像力と遊び心、そして旺盛な好奇心を発揮する、真に創造的な思想家」と評している。

一般相対性理論から幾何学へ

ペンローズは1965年、独創的な論文を発表した。光を捕捉する表面の形成という条件さえ満たせば、一般相対性理論に基づいてブラックホールが形成され得ることを示したのだ(R. Penrose Phys. Rev. Lett. 14, 57; 1965)。この表面の内部では質量が不可逆的な重力崩壊を起こし、エネルギー密度が無限大の「特異点」と呼ばれる領域が生じる。それまでの研究者たちは、物理的にあり得ないと考えられる条件下でしか、この必然性を証明することができていなかった。

ペンローズの貢献は、数学と物理学の多くの分野にわたっている。グラフィック・アーティストのM・C・エッシャー(1898〜1972)とも交流があり、不可能な幾何学的物体の線画のいくつかに影響を与えている。1970年代には、反復のない2次元パターンの幾何学的理論を打ち立てた。このパターンは、今では「ペンローズ・タイル」と呼ばれている。こうしたパターンは自然界では「準結晶」で見ることができ、2011年には準結晶の研究者がノーベル化学賞を受賞している(2011年12月号「ノーベル化学賞は準結晶に」)。

カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の数理物理学者Matilde Marcolliは、ペンローズは物理学のいくつかの分野に高度な数学的手法を導入したと言う。「それは全く新しい考え方でした」。

ペンローズがブラックホールの存在の理論的基礎を打ち立てたのに対し、ゲズとゲンツェルのチームは、私たちの銀河系の中心にブラックホールがあることを裏付ける強力な証拠を提出した。

天文学者たちは1960年代から、ほとんどの銀河の中心には太陽の100万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールがあるかもしれないと推測していた。電波観測により銀河中心から高エネルギー放射が観測されていた銀河系は、そうしたブラックホールを持つ銀河の最有力候補だった。しかし、ガスと塵が恒星からの放射を不明瞭にしていたため、詳細な観測は困難だった。ライバル関係にあるゲズとゲンツェルのチームは、1990年代からそれぞれハワイ島マウナケア山のケック天文台とチリのセロパラナルの超大型望遠鏡VLTという世界最大級の望遠鏡と最先端の観測技術を駆使して、この困難を乗り越えた。

ケルン大学(ドイツ)の天体物理学者で、かつてマックス・プランク地球圏外物理研究所(ドイツ・ガルヒンク)のゲンツェルのチームのメンバーであったAndreas Eckartは、彼らの研究のカギは、微弱な光に対する分解能と感度を高める方法を見つけることにあったと説明する。両チームは地球大気の揺らぎによって星像がぼやけるのを防ぐため、スペックル・イメージングと呼ばれる手法を用いてスナップショットのデータを取得した。その後、鏡を使って歪みを補正する補償光学系を使用した。こうすることで、より長時間の露光が可能になり、より多くの光を捉えて感度を高められるようになり、恒星の運動を3次元で追跡できるようになった。Eckartは、銀河系の中心に超大質量ブラックホールがあるという結論は、チームの努力と「多くの論文やプロジェクト」の集大成だったと考えている。

今もゲンツェルと共同研究をしているEckartは、ゲンツェルの勤勉さは有名だと言う。「彼の言葉は簡にして要を得ています。非常に良い科学者です」。またゲズについては、「明確な目的意識を持ち、問題に真っ向から立ち向かっていく人です」と言う。

ゲズは現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)に在籍している。ノーベル物理学賞を受賞した女性は彼女を含めてまだ4人しかいない。3人目は、2018年に受賞したレーザー物理学者のドナ・ストリックランド(Donna Strickland)で、55年ぶりのことであった。

ゲズは受賞発表後の記者会見で、「私は、ノーベル物理学賞を受賞した4人目の女性であることに伴う責任を非常に重く受け止めています。この分野に若い女性を呼び込むきっかけになればと思っています」と述べた。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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