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微粒子大気汚染と死亡率

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201115a

致死的な関連を示す最も強力な証拠。

山火事「キャンプファイア」の煙でかすむ米国サンフランシスコのベイブリッジ。 | 拡大する

MICHAEL SHORT/BLOOMBERG VIA GETTY IMAGES

2018年に米国カリフォルニア州で山火事「キャンプファイア」が猛威を振るったとき、煤煙などの汚染物質が上空を覆った。広範囲で粒子状物質の濃度が1m3当たり12µgを超え、米国環境保護庁(EPA)が「不健康」とする水準に達した。一部では数百µg/m3に跳ね上がった。

この毒気はPM2.5という直径2.5µm以下の粒子を含んでいた。ガソリン車や石炭火力発電所の排気にも含まれている微粒子で、極めて小さいため肺の奥深くまで入り込み、短期的には呼吸障害を引き起こす。長期的にも喘息の悪化や心血管障害、低出生体重などの原因になり得ることが、これまでの数多くの研究で示されている。

この関連性は広く認められた医学的コンセンサスだが、トランプ政権による指名見直しで一新されたEPA委員会の一部メンバーや石油・ガス業界の顧問たちは、それらの研究が直接の因果関係を示していないと主張している。ハーバード大学(米国)の生物統計学者Francesca Dominiciらは2020年7月にScience Advances で発表した研究で、この種の主張に対処した。同チームによる調査は大気汚染と早期死亡の間にこれまでで最も包括的な関連性を示しているという。

複数の統計手法で大規模データを解析

大気汚染の研究は「回帰分析」のみを用いたものが一般的だ。この統計手法は大気汚染など特定の要因がある結果(例えば死亡率)に影響している可能性を探り出すためのものだが、考え得る要因を回帰分析に基づくモデルが適切にカバーしているかどうかは定かでない。

そこでDominiciのチームは、回帰分析を含む5種類の異なる統計手法を使い、6850万人のメディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)給付対象者から16年間にわたって集めた5億7000万件の観察記録を解析した。この手法は微粒子大気汚染の影響をその他の影響から分離するのに役立った。因果関係を確かめるにはランダム化比較試験が理想的だが、汚染物質の影響を人体実験で調べるわけにはいかない。今回の手法はランダム化比較試験と実質的に同様の解析となる。「統計学のこの領域を大気汚染と死亡率に応用したのは初めてです」とDominiciは言う。

研究結果は、PM2.5の許容水準を12µg/m3から10µg/m3に厳しくすることで、高齢者の死亡リスクが最大7%下がり、10年間で14万3000人超の命を救える可能性を示している。

規制強化の根拠に

ブリガムヤング大学(米国)の大気汚染専門家C. Arden Pope IIIやEPA大気質局の元副局長John Bachmannなど同分野の関係者は、この研究に強い印象を受けた。「調査規模、統計学上の検定力、解析の精巧さの全ての点で最高です」とPopeは言う。

今回の研究結果は、トランプ政権が大気汚染規制を後退させる中で発表された。EPAは2020年4月、PM2.5の現行基準を変更せずに維持する案を示した。同庁の科学顧問と慎重に検討・協議した上での判断だとしている。だが、その検討が完了する前に、EPA長官であるAndrew Wheelerはこの種の事案に科学的専門知識を提供する補助諮問委員会を解散している。これまでの大気汚染研究の集積は強力であり、「今回の研究は、その最上のものとしてEPA案に対する強力な応答となります」とBachmannは言う。

(翻訳協力:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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