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岩石の風化で大気中のCO2が除去される

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201034

原文:Nature (2020-07-09) | doi: 10.1038/d41586-020-01965-7 | Removal of atmospheric CO2 by rock weathering holds promise for mitigating climate change

Johannes Lehmann & Angela Possinger

岩石の風化を促進することによって、大気中の二酸化炭素が大量に除去される可能性がある。現在この方法は、コストとCO2除去能力の面で、他の戦略と同じくらい有望のようだ。

地球温暖化の緩和目標を達成するには、大気から二酸化炭素(CO2)を大量に除去することが必要となる。このほど、大気中のCO2を除去するための国際的戦略として、土壌での「岩石風化促進法(enhanced rock weathering)」に大きな技術的、経済的可能性があることを、シェフィールド大学(英国)のDavid J. BeerlingらがNature 2020年7月9日号242ページで明らかにした1。玄武岩や鉄鋼スラグなどの工業用ケイ酸塩材料は、破砕して土壌に添加すると徐々に溶解し、CO2と反応して炭酸塩を生じる。炭酸塩はそのまま土壌中にとどまることもあれば、海まで流されることもある。Beerlingらの主張によれば、この技術によって毎年5億~20億tのCO2が大気から除去されるという。この速度は、土壌中に有機炭素を蓄積させる、炭素を捕捉し地層中に隔離する、土壌へバイオ炭(炭素分の多い素材)を投入するといった、陸地を利用した他のCO2除去法2と同等だ。

Beerlingらは、岩石風化促進法による大気中CO2の除去にかかるコストについて、米国、カナダ、欧州ではCO21t当たり平均160~190ドル(約1.7万〜2万円)、中国、インド、メキシコ、インドネシア、ブラジルでは同55~120ドル(約5800〜1.3万円)と算出している。さらに、彼らによれば、化石燃料の使用によるCO2排出の上位3カ国である中国、米国、インドは、この方法によるCO2除去の可能性が最も高いという。一方、工業用ケイ酸塩材料の土壌への投入(図1)に関しては、金属の溶出や残留性有機化合物(環境中で分解されにくい化合物)など、慎重なリスク評価が必要であることも指摘している。

図1 工業用ケイ酸塩材料の耕作地への投入
Beerlingら1は、玄武岩や鉄鋼スラグなどの工業用ケイ酸塩材料を破砕して土壌に添加することによって行われる「岩石風化促進法」が、大気から二酸化炭素を除去するための効果的な戦略であることを明らかにした。 | 拡大する

ILSA B KANTOLA

Beerlingらの知見は大反響を呼ぶ可能性がある。だが岩石風化促進法で隔離される炭素の量は、楽観的な想定でも、化石燃料の使用によって毎年世界で排出される炭素の一部にすぎないことは強調しておかなければならない。従って、深刻な気候変動の回避に向けて、CO2の排出量の削減が最優先であることに変わりはない。さらにBeerlingらが指摘するように、単独で十分な方法は存在せず、岩石風化促進法はあらゆる方法を選択肢の1つとして考えるべきだ。

陸地を利用する他の炭素隔離法は、土壌に依存する。有機炭素の隔離では、大気からのCO2の除去は植物による光合成に、そして植物炭素(大部分は微生物残渣の形をとる)の保持は土壌に依存するのだ。しかし、岩石の風化による無機炭素の隔離は、有機炭素の隔離とは根本的に異なっている。従って、今後科学者は、その「炭素隔離」が、無機的隔離なのか有機的隔離なのかに対してもっと注意を払うべきだ。

岩石風化促進法による大気中CO2の隔離には、有機炭素の隔離と共通の課題もあるが、共通する大きな魅力がある。どちらの方法も、作物生産に利益があるという事実は間違いなく大きな強みだ。岩石風化促進法で投入される岩石には、カルシウムやマグネシウム、さらにはカリウムや、さまざまな形で作物の生産を増進する微量栄養素など、植物の必須栄養素が含まれている。現在の農業でこうした栄養素が十分に供給されていないことは、Beerlingら以上に我々が主張したいくらいだ。

世界の多くの地域では、土壌のpHを上げるだけで作物の収量が大幅に増加する可能性がある。というのも、土壌のpHが低いために作物生産量が上がっていない耕地や果樹園は2億ha以上あると考えられるからだ3。その面積は、その種の土壌の総面積9億6700万ha(go.nature.com/31rcajdを参照)の約20%に相当する。従って、世界規模では酸性度が農業の最も重大な土壌的制約条件となっている4。しかし、低pH土壌と至適pH土壌の作物収量差を複数地域で詳細に分析する研究は行われておらず、そうした研究が行われれば、炭素隔離法同士の相乗効果の研究に有益と考えられる。今回提案された岩石の投入は、さまざまな地域で農業用石灰の供給不足や過少使用を改善する可能性がある5。さらに、酸性の地下土壌では、カルシウムが植物の根の成長を改善し、根の吸水が促進されることで非常に重要な波及効果を生む6

玄武岩は地球を構成する主要な岩石で、海洋地殻を形成している火山岩だ。灰色から黒っぽい色をしており、石垣や庭石のほか、墓石などにも利用される。写真は、岩手県八幡平の玄武岩柱状節理である。柱状節理は、高温のマグマが冷却されて固まるときに体積が収縮して柱状になったもので、六角形や五角形のものが多い。 | 拡大する

nattya3714/iStock/Getty

岩石風化促進法を別の土壌依存の隔離法と同時に実施すれば、制限の緩和と相乗効果の最大化が同時に実現されるかもしれない7。Beerlingらの研究は、そうした可能性の一端とともに、運用面や土壌の生物地球化学的な側面における制約条件を暗示している。作物の成長が促進されれば作物残渣(収穫後に農地に残される残余作物や作物ごみ)の土壌への投入量も増加し、有機炭素の蓄積が増強される。しかし、カルシウムと有機物との相互作用が大気へのCO2の環流を妨げる可能性はほとんど研究されておらず、マグネシウムの作用に関してもほとんど情報がない。基本的に有機物は、カルシウムによって粘土への吸着や炭酸塩への封入、または凝集が促進され、分解が抑制される8。しかし、有機化合物と粘土鉱物だけの相互作用ではなく、微生物生態学的な変化や有機化合物との相互作用を介したカルシウムの間接的な作用はほとんど研究されていないのだ。

相乗効果が有機炭素隔離と作物生産とのトレードオフになれば、土壌の有機炭素含量が低下して、農家の生計や、ひいては食料安全保障までもが脅かされる可能性がある。土壌が関わる全ての炭素隔離は、何億人もの農家が働く広大な農地で隔離技術を用いなければならないため、奨励施策、予測、モニタリングが極めて難しい9。必然的に、場合によっては増収予測の未達や、それどころか逆に減収をきたして、インセンティブが農家に受け入れられなかったり、サプライチェーンが崩壊したりすることもあるだろう。しかし、科学者は、そうした技術の評価を避けて通るべきではない。それぞれの農地と作物生産の目標とをすり合わせるために土壌管理を調整するときには、農家が主役となる必要があることを受け入れるべきである。農家を中心に据える研究によって農地固有の最適化方法を編み出すには、協調的な国際的取り組みが必要となろう。

世界の肥料流通ネットワークは、共通している点が多い。しかし、そうしたネットワークが機能しているところであっても、岩石風化促進法採用の成功のカギを握るのは、作物生産の利益だけではないかもしれない。炭素市場が必要とされており、それが社会的、環境的に確かな実施の動機となれば有益だろうと、我々は考えている10。技術が選ばれるべきものとなるには、採用したときに土壌の肥沃度向上がもたらす以外に、特別なインセンティブ(余得)もあることが示されなければならない。重要なこととして、岩石風化促進法やその他の土壌依存の炭素隔離法の実施は、数ある中でも10、余得の課題を積極的に克服する農家向けに、公平で財政的に堅実なインセンティブを考慮しなければならない。

このように、今回分かったこととして大きいのは、大気中のCO2を除去することが期待される主要な技術のいくつかは食料生産の大きな利益となる可能性があり、土壌管理を中心とするものであるということだろう。そうした国際的取り組みは農家に十分支持されるものでなければならず、さもなければ水泡に帰す。気候変動の緩和が自動的に十分なインセンティブになるわけではなく、金銭的インセンティブと同様に作物の成長への効果も優先されなければならないということを、科学者は認識する必要があるのではないだろうか。土壌の健全性と作物の生産を財政面から支えるそうした方法は、大気からのCO2の除去という問題に対する近々の最適解として登場してくる可能性がある。

(翻訳:小林盛方)

Johannes Lehmann & Angela Possingerは、Johannes Lehmannはコーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)に所属、Angela Possingerはバージニア工科大学(米国ブラックスバーグ)に所属。

参考文献

  1. Beerling, D. J. et al. Nature 583, 242–248 (2020).
  2. Pacala, S. et al. Negative Emissions Technologies and Reliable Sequestration: A Research Agenda (National Academy of Sciences, 2018).
  3. von Uexküll, H. R. & Mutert, E. Plant Soil 171, 1–15 (1995).
  4. Wood, S., Sebastian, K. & Scherr, S. J. Pilot Analysis of Global Ecosystems: Agroecosystems (World Resources Inst., 2000).
  5. Fabregas, R., Kremer, M., Robinson, J. & Schilbach, F. Evaluating Agricultural Information Dissemination in Western Kenya (International Initiative for Impact Evaluation, 2017).
  6. Lynch, J. P. & Wojciechowski, T. J. Exp. Bot. 66, 2199–2210 (2015).
  7. Amann, T. & Hartmann, J. Biogeosciences 16, 2949–2960 (2019).
  8. Rowley, M. C., Grand, S. & Verrecchia, É. P. Biogeochemistry 137, 27–49 (2018).
  9. Bradford, M. A. et al. Nature Sustain. 2, 1070–1072 (2019).
  10. Cavanagh, C. J., Vedeld, P. O., Petursson, J. G. & Chemarum, A. K. J. Peasant Stud. https://doi.org/10.1080/03066150.2019.1707812 (2020).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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