Author Interview

全ての人に安全な水を

福田 紫瑞紀、沖 大幹、乃田 啓吾

2019年5月号掲載

私たちが当たり前のように手にしている水道水。こうした手軽で安価、安全な水は、感染症を防ぎ、子どもに学校に行く機会を与え、生活の向上や女性の社会進出につながる。国連機関でもこの50年、いろいろ取り組んできた。その1つが2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDGs)の7C「2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生設備を継続的に利用できない人々の割合を半減させる」だ。この目標はMDGsの中でもいち早く達成された。今回、(株)TECインターナショナルの福田紫瑞紀(ふくだしずき)さん、東京大学教授で国際連合大学上級副学長の沖大幹(おきたいかん)さん、岐阜大学助教の乃田啓吾(のだけいご)さんが、水目標達成の背景を明らかにし、Nature Sustainability 5月号に発表した1。持続可能な開発目標(SDGs)など今後の国際開発目標に取り組む上でも、非常に興味深い論文である。

―― この研究を始めたきっかけは?

図1
図1
ミレニアム開発目標7C「2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生設備を継続的に利用できない人々の割合を半減させる」は、5年前倒しで達成された。 | 拡大する

画像提供:沖大幹

福田氏: 私は「全ての生活の根本は水道から」と考えており、沖研究室に入った頃から、途上国で水道インフラに関わる仕事をしたいと思っていました。その中で、MDGsのような国際的な開発目標に向かって企業や国が行っている支援により、本当に現地の人たちの生活が豊かになり幸せになったという実感を持っているのか、と疑問を持ちました。MDGsには、水問題以外に、貧困や医療、食糧などの目標があります。卒業研究では、そういった指標の向上と途上国の主観的幸福度の相関を調べました2。その後修士課程に進み、大幹先生からのアドバイスもあり、この研究を発展させることになったのです。

沖氏: ちょうどその頃、MDGsの水目標が達成され、私自身、どうして達成できたのだろうと思っていました。外務省やJICA、世界銀行の人などに尋ねてもみましたが、皆さん一様に「そういえばどうしてでしょう、不思議ですね」って感じで……。

福田氏: そもそも、この目標が決められた背景についてもきちんと知りたいと思い、過去のWHOなどの資料を読みあさって、時代ごとにどうやって水問題の目標が移り変わってきたのか調べました。すると、いくつかの事情に気がつきました。1つ目は、10年とか15年単位でその時代にあった目標を立てているということ、2つ目はMDGsでは努力すれば達成できるような目標設定をしていること、3つ目はその目標達成には中国とインドの経済発展が大きかったということです。

沖氏: 結果だけ見るとそのすごさはわかりませんが、経緯を全部調べて、それが全て彼女の頭の中に入っていて、まとめたらこうした論文になったということです。僕も、まさか「全ての人に水道水を供給する」を目標にしていた時期が過去にもあったり、それはさすがに大変なのでレベルを下げたり上げたりしていたヒストリーがあったとは、福田さんがまとめてくれるまでは全然知りませんでした。

―― 目標は高すぎても低すぎてもだめですね。小さな目標を達成したときの達成感が、次への意欲になって大きな目標につながる。

沖氏: ええ。ですが、それが人文社会学的に証明されているのかどうかは不明なので、今回の論文では推論として少し触れただけに留めました。とはいえ、ウマの鼻の前のニンジンのようにちょっと頑張ればできるレベルに目標を掲げ、徐々に上げていくのはよさそうですよね。そのため、今回の論文でも、MDGsを達成できたことが次の目標SDGs(持続可能な開発目標)でも頑張ろうというモチベーションになる、としました。

乃田氏: 図2を見ると、それぞれの時代で目標が設定されて、達成率がだんだん上がっていっています。だからといって、高すぎない低すぎない目標を世の中に合わせて設定することがいいとの証明にはなりませんが、1つの結果にはなっていると思います。指標によっても達成率に違いが出ます。何をもって達成とするのか、指標での調節もあります。開発目標の場合、一概にちょうどいい目標を設定しながらモチベーションを維持することの評価は難しいですね。

図2
図2:飲み水のグローバル目標の沿革 | 拡大する

―― 今回は指標が単純だったので、達成できた?

沖氏: はい、そういうこともよく分かるインフォマティブな論文になっています。ですので、Nature Sustainabilityに掲載でき、すごく良かったなと。今後、とりあえずMDGs、SDGsを勉強するならまずこれを読め、という論文の1つになればと期待しています。

―― 指標の中にある、「改善された水源(improved water source)」とは?

福田氏: 「ふた」がされていれば、井戸でもいいんです。動物のふんが入り込んだり、動物が飲みにきたり、表流水が混ざったりしないように保護されていればね。

沖氏: 実は、瓶詰めの水は改善された水源ではありません。瓶詰め水やタンクで運ばれる水は、利用可能な量が限られており水としての価値が下がるので、improvedではない。必要な量の水を必要なだけ使えるのが、improvedの条件です。また、MDGsやSDGsでいう飲料水(drinking water)は生活用水全般を指しており、飲み水だけでなく手を洗ったり調理したりする水も含んでいます。このため、1日に必要な飲料水の量は、1人当たり20lとされています。

―― 距離も関係しますか?

沖氏: はい、します。福田さんはアクセスについてもいろいろまとめてくれました。国によって、距離の定義も違うし、時間で定義している国もあります。歩いて30分以内というのが指標になっている場合が多いのですが、実は、国によってばらつきがあります。都市と農村を分けて考えている国も多いようです。

―― 都市部にしても共同使用の水道などは、蛇口までの距離が近くても、使っている人が多い場合があると思います。その辺の事情でも変わってきますよね。

沖氏: はい、その通りです。SDGsの指標では待ち時間込みで30分以内となっていますが、厳密に調査するのは、難しいかもしれません。

福田氏: 一応、今回もデータを取ってはいるようですが、指標の中には反映されていません。

図3
図3:ミレニアム開発目標(MDG)7.8
改善された安全な水の指標(下図)とそうした水源までの距離(上図)。 | 拡大する

―― もう1つ、達成の大きなファクターが、中国とインドの経済発展ということですが。

沖氏: はい。でも正直、もう少し突き詰めたかったというのが本音です。改善された水源へのアクセス率と経済発展の相関性や、その2つが向上していくプロセスをもうちょっと掘り下げたかった。修士課程で仕上げるという時間的な制限があってでききれず、消化不良なんです。

―― 今までおざなりにされていた経済発展との関係に目を付けたところがよかったなと思いました。

沖氏: ありがとうございます。MDGsの達成に向けた期間が、ちょうど両国が大きく経済発展するときに重なったのです。そうでなかったら、いまだに達成できていないかもしれません。でも学生は辛辣(しんらつ)ですよ。講義でこの話をすると、そんなの当たり前だと言われます(苦笑)。東大教授という本に書いたつもりですが、「研究とは非常識を当たり前にする作業である」。

図4
図4:途上国の総人口と改善された水源へのアクセス人口の増分(1990~2015年) | 拡大する

―― なるほど。ところで、達成度はどうやって調べているのですか?

福田氏: WHOが各国の政府機関に要請して、各国の専門家が統計を取っています。ただ、数字の設定の仕方はその国の考え方によります。WHOのアドバイザーが派遣されているみたいです。

―― うがった見方をすると、ごまかされてもわからないですよね。

福田氏: 統計と実情は違っていたりします。例えば、インドでは農村部の改善された水源へのアクセス率は大分上がったとなっていますが、実情はそうではないというインド現地の方の論文もあります。

沖氏: その辺は難しくて、楽観的に書くと信じられないし、批判だけしても建設的でない。論文を書くときに大分悩みました。

乃田氏: 批判しているのか楽観的なのか、自分たちのスタンスをはっきりしなさいと、レビューアーに3回くらい指摘されました。

―― 目標達成の裏で、サハラ以南ではまだ多くの人々が改良された水源にアクセスできない状況です。その辺はどう考えていますか?

福田氏: 私は、上下水道のコンサルティングと設計業務を行う民間企業に勤めています。海外事業は、お金がある程度そろわないと事業に着手できません。日本レベルの上下水道設備を作るのは相当なコストになるので、アフリカなら今はまだ、飲める水が蛇口から供給されるレベルでなくてもいいのかもしれません。とりあえず、飲料用は瓶詰め水で、シャワーや洗濯はある程度濁度がとれた上水レベルで十分なのかも。

乃田氏: 今、私は、ラオスの水環境、上水と下水を一緒に考えるプロジェクトに関わっています。福田さんが言うように、彼らは、飲み水は瓶詰め水を使用していて、その他の生活用水は井戸水を使っています。ところが、その井戸水に大腸菌が混入しているのに、野菜を洗ってしまう。この点だけ改善すれば、今のあり方でいいんじゃないかなと思っています。全て日本レベルでやる必要はないのはもちろんのこと、MDGsの指標で一律にやってしまうのも現実的ではない気がします。

沖氏: アフリカを含め、改善された水源にアクセスできない人は、現状、かなり限られてきています。表流水を利用しているのは2億人足らず、改善されてない水源を使っている人も4億人です。これは素晴らしい成果なのですが、言い換えれば、対応、開発の難しい所が残っているのです。low-hanging fruitといって、開発援助は簡単な箇所からどんどん進められて、難しい箇所が残されるのです。だから今後は大変なんじゃないでしょうか。私は以前、ミネラルウォーター会社がボトル水の出荷量に応じてマリに井戸を供給する「1 litter for 10 litter」というキャンペーン関連で西アフリカのマリ共和国に行ったことがあります。1番衝撃的だったのは、その資金で新しく掘った井戸のある村を訪れた際、さらに以前に掘られた別の井戸がすでにあったことです。「もうあるじゃないの」と言うと、「それはちょっと使えない井戸で……」って、口を濁らせて。つまり、道路があって、受け入れ態勢もしっかりしている村にどうしても開発援助をしがちなのですよ。

―― 難しいですね……。

沖氏: 大きな災害があると、国連機関や国際NGOなどが大挙して行って、救出しましたとか援助しましたとか、とにかく目に見える成果を得ようとします。一方、なかなか成果が出なさそうな難しい所は後回しに。SDGsはそれを回避するためにno one will be left behindを掲げています。ただ、それはとても難しいなあって思います。というのも今、水や食糧不足で困っているのは、ソマリアや南スーダンなど紛争地域が多いのです。今回の論文では水問題の解決には経済的な発展の貢献が大きいとしましたが、経済発展のためには国が平和で安定していて、世界中からの投資が入ることが大事です。だからこそ、紛争地域などは困難を極めるのです。それから、アフリカで水が足りないのは乾燥した大地だからではない、という点も非常に重要です。

―― といいますと?

沖氏: 水が足りないのは雨が少ないからだと誰しも素朴に思っていた時代が、実はつい最近までありました。2006年にscience に発表した論文3で、水は時空間的に偏在しており、それを平準化して安定供給できる施設がない地域が水に困るのだと強調し、今では、そういう考えが世界的にも普通になってきたと思います。そういう意味で、今回、その裏側、社会はどうなのかということをある程度書けたかなと思います。が、本当に経済発展と水の開発に相関関係があっても、どちらが原因でどちらが結果なのか、因果関係は分かりません。もう少しいろいろな要因を探って、例えばガバナンスや政府がしっかりしているなどの指標で調べたいとは思っています。

―― 経済発展に伴う工業化や農業の近代化も関係してくると思います。工業や農業は大量の水を使用します。水不足や排水処理の問題だけでなく、地下水位が下がって帯水層が有害物質を含んだ層に到達して混入してしまう問題も起こります。

沖氏: SDGsには水質が入っています。さらに、全てのセクターで水の使用効率を上げることも入りました。農業は優遇されている国が多いのですが、農業分野も自分たちは例外と思わず、水の使用効率を上げなさいというメッセージです。もちろん、容易ではありませんけれどね。

乃田氏: Nature sustainability の掲載論文4で、今後世界の都市でどの種類の水が足りなくなるかを色分けしたものがあります。アフリカなどの乾燥地域はdrinking waterが足りなくなるので赤く、農業の灌漑(かんがい)に大量に地下水を使っている地域は農業・工業用水が足りなくなるので青く、先進国の多くは環境のための水が足りなくなるので緑色にという具合です。SDGsは、MDGsで1番下のカテゴリーにある地域だけでなく、先進国も対象にしています。いろんなレベルのグローバルな評価があってもいいのかなって思いました。

また、SDGsの水問題ターゲット6.6に、湿地や池に関する項目、いわゆる生態系サービスの維持があります。これはMDGsにはありませんでした。これが、去年報告されたUN Waterというレポートのトピックであるnature based solutions、いわゆるグリーンインフラとグレーインフラの組み合わせで持続可能な水を達成していこうというテーマにつながってくるのではと思います。

―― 気候変動も関わってきますね。ヒマラヤ山脈や天山山脈の麓では、雪解けの頃は川の流量が増えている一方、他の季節では減っていると聞いています。

沖氏: その地域は氷河も重要です。氷河は年中ゆっくりと解けており、地面にとってみれば、いつも雨がしとしと降っているのと同じなので、おかげで安定して川の流量が保たれるのです。今は、温暖化で氷河の融解が加速していて、本来よりも降水量が多くなっている状態です。でもある程度氷河が小さくなってしまうと、今度は減り始める。私の仲間が、そろそろその時期を迎えたのではないかという論文を発表しています。季節変化が大きくなると、それを制御するような施設を作らない限り、安定して水を使えなくなります。

―― 安定供給も大事ですね。

沖氏: 今までは、施設があって水道が敷設されていればいいという考えでしたが、それでは1日24時間週7日のサービスは保証されていません。ネパールのカトマンズなどは、いまだに1日5時間程度しか水が出ない地域もあるようです。それでも、MDGsの指標だと1番上の「安全に管理された水にアクセスできる」ことになってしまいます。目標が達成されたからといって、日本と同じような状態になったというのは幻想です。だから、指標のグレードをだんだん上げているのです。

今心配なのは、パキスタンですね。人口はまだまだ増えるのに、水源はチベット・ヒマラヤで、下流の方は乾燥地帯で水がありません。そういうところでは、施設があっても水が得られない。だから、食料を輸入しないと、飲み水も足りない状況になるのは自明です。

―― 水問題と一口に言っても、産業、官、自然が絡まり合っている。難しいですね。

沖氏: 経済発展は悪だと思っている人もまだまだいるでしょうが、今回の論文では、経済が発展しないとみんなが改善された水源にアクセスできない、つまり経済発展と水へのアクセスの向上とが軌を一にしていることをきちんと示せたのが良かったと思います。

環境保護が経済発展と相反すると思っている人も少なくありません。でも、高度経済成長時代にひどく汚染された日本の河川も、最近はものすごく良くなりました。中国もそういう時期を迎えており環境改善の気運が高まっています。環境汚染の増加があるレベルに達すると減少に転じる環境クズネツ曲線という概念がありますが、それをいろいろな指標について実証したいですね。みんなの幸せの増進を考えれば、環境保護と経済発展がともにうまくいくやり方を見つけることが重要だと信じます。経済発展や市場原理が停滞すると環境も悪くなってしまいますし、逆に環境をないがしろにした経済発展もないでしょう。このことを実感できる研究成果をうまく示せたらかっこいいなと思います。

温暖化問題対策の先鋭的な活動家の中には、地球温暖化を産業革命以前にくらべて1.5度とか2度以内にするために、急激な社会変化を起こす必要があると考えている人も少なくありません。確かに科学的にはそうです。しかし、急激な変化は社会的な弱者に大きなしわ寄せがいってしまい、副作用の方が大きくなる恐れがあります。温暖化を止めるためには多少の犠牲は仕方ないと思っている人もいるかもしれませんが、究極の目的、つまりみんなの幸せの増大を考えると、多方面への目配りが必要かな、と思います。

―― ところで、福田さんの会社ではどんな海外事業を進めていますか?

福田氏: 今は、カンボジア・コンポントム州の浄水場の更新設計を行っています。南スーダンでも事業が進めらていますが紛争が起こって中断してしまい、隣国にスタッフを呼んでやるなど、なかなか進みにくいようです。東南アジアでは、ミャンマーなどは現地の人たちもやる気があって、仕事もやりやすそうです。

―― 現地の人がやろうと思わないと事業は成功しないですね。

沖氏: 援助を待つのではなく、途上国自身、安全な水が必要だと思うことが大事です。受け身なばかりか、支援が当たり前と思っていたり、今度は何をしてくれるのという態度であったりする地域もあります。自分たちで、自分たちのいい社会を作るんだと思っている地域にどんどん投資が入るようになるといいですね。

―― 今後、投資以外にSDGsの達成に日本ができることは何でしょう?

福田氏: 民間企業の立場からは、技術移転。ただ、日本だけで発展した技術もたくさんあります。海外に目を向けると、別の着眼点からの技術があり、そういうものを学んで各土地にあった浄水処理の仕方を開発しないと、と思います。

乃田氏: 私は大学教員の立場から、人材育成を挙げます。

福田氏: ハードを作った後でも、メンテナンスは現地の人がやらなくてはなりません。そのためにも人材育成は必要ですね。

沖氏: アジアにおける日本の価値は、「西洋のマネをしなくても、先進的なテクノロジーを享受し豊かな社会を構築できる」という唯一の例外だった点にもあったと思います。日本に来て見てもらえば、欧米とは建物が違う、食べ物が違う、文字や言葉が違う、古典が違う、欧米と全く違う暮らしをしているのに精神的にも経済的にも豊かな生活をしていて、平均寿命も長いという点に深く感じ入ってもらえると思います。日本にできるのなら、私たちにも実現できるはずだと思っていただけるのではないでしょうか。

―― 同じ米食う人としてアジアの人に見せるのは大きいですね。農村でも、都市の人と同じ生活をしている。

沖氏: 東京だけではなくて、日本の農村を見せるのは大事かもしれないですね。

乃田氏: ある程度の意識の共通性が日本と東南アジアではあると思います。drinking waterの定義にしても、これは家の中で使う水、これは外で使う水っていう意識みたいなものが。そういう意味で、東南アジアでは、一緒にそこにある新しい将来を考えることができるのかなと、感じます。日本が彼らの将来である必要はなくて、彼らが自分たちの将来を描くときに日本からサポートできるのが本当の意味での人材育成だと思います。

―― 最後に、Nature Sustainability に投稿しようと思ったのは?

沖氏: 実は、福田さんの卒業論文をNature に投稿しようとしたら、「Nature はsociologyを扱っていません」と断られたんです。「こんないい論文が載せられないのか」と思っていたら、Nature Sustainability の創刊前に査読が回ってきて、だったらこれに修士論文を出してやろうじゃないかと、満を持しての投稿です。

正直言うと、1回目はreviewとしての投稿でした。いかに目標が立てられて変遷してきたかというのを詳細に書き記した分厚い論文だったのですが、査読でこれはreviewじゃないと言われました。普通のNature系のreviewは、あるテーマについてどんな研究があるかを書いたもので、セマティックに経緯を調べたものではないと。

乃田氏: レビュアーから、インド・中国の話を前に持ってきた方がわかりやすいし、すっきりするからいいんじゃないのというコメントを受け、変遷はサプリメントになりました。

沖氏: ボリュームの関係で、analysisに投稿ということになりましたが、その変換に大分時間がかかりましたね。投稿後は、非常に好意的な査読でした。また、掲載号のNews & Viewsでも取り上げられ、どういう点に着眼して評価されたのかが分かって非常に良かったです。自分たちが思ってもみなかった価値を見いだしてくれていました。

今後、気候変動のように自然科学と人文・社会学の融合的要素が不可欠な分野もあり、今後のNature の発展にもこうした社会学系をカバーしていく必要があるのでしょう。そう思っていた中での創刊で、非常に歓迎しています。

―― どうもありがとうございました。

参考文献

  1. Fukuda, S., et al. How global targets on drinking water were developed and achieved. Nature Sustainability 2, 429–434 (2019).
  2. Fukuda, S., et al. How achieving the millennium development goals increases subjective well-being in developing nations. Sustainability 8, 189 (2016).
  3. Oki and Kanae. Global Hydrological Cycles and World Water Resources. Science, 313(5790) 1068-1072 (2006).
  4. Flörke, M., et al. Water competition between cities and agriculture driven by climate change and urban growth. Nature Sustainability 1, 51–58 (2018).

インタビューを終えて

今回は、科学というより社会学系のインタビューでした。個人的に興味のある水問題で、インタビュー前よりワクワクしていました。沖先生は、とても親しみやすく、今回の研究についてだけでなく、水を取り巻くいろいろな問題について語ってくれました。どれも興味深く、全てを書ききれませんでしたが、それでもいつもよりボリュームがあるインタビュー記事になってしまいました。乃田先生は、ラオスの水に関する支援を意欲的に行っています。福田さんは、バイタリティにあふれ、途上国支援での今後の活躍に期待が膨らみます。

聞き手は、田中明美(サイエンスライター)。

Nature Sustainability 掲載論文

Author Profile

沖 大幹(おき たいかん)

東京大学未来ビジョン研究センター 教授
東京大学 総長特別参与
国際連合大学 上級副学長

1989年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1989年 東京大学生産技術研究所 助手
1993年 博士(工学)
1995年 東京大学生産技術研究所 講師
1997年 同研究所 助教授
2002年 文部科学省大学共同利用機関 総合地球環境学研究所 助教授
2003年 東京大学生産技術研究所 助教授
2006年 同研究所 教授
2016年 国際連合大学 上級副学長、国際連合事務次長補(東京大学とクロスアポイントメント)
2017年 東京大学 総長特別参与(兼務)
2018年 東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構 教授
2019年 東京大学未来ビジョン研究センター 教授

日本学術振興会賞(2008年)、日本学士院学術奨励賞(2008年)、海洋立国推進功労者表彰(2009年)水文・水資源学会論文賞(2009年)、土木学会出版文化賞(2013年)、第6回日本LCA学会賞論文賞(2015年)など、受賞多数。

研究のモットーは「やがて教科書に載る研究」。

沖 大幹氏

乃田 啓吾(のだ けいご)

岐阜大学応用生物科学部 助教

2005年 東京大学農学部卒業
2007年 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了
2010年 東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(博士(農学))
2010年 茨城大学農学部 産官学連携研究員
2011年 東京大学生産技術研究所 特任研究員
2012年 同研究所 特任助教
2017年 岐阜大学応用生物科学部 助教(現職)

今の目標は、(織田信長が命名した)岐阜にあやかって、「天下統一」。

乃田 啓吾氏

福田 紫瑞紀(ふくだ しずき)

株式会社TECインターナショナル

2014年 東京大学工学部卒業
2016年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
2016年 株式会社TECインターナショナル入社
2016年 株式会社東京設計事務所(出向中)

「75歳まで現役のエンジニアとして働くこと」が目標。長生き&心の健康のために「目の前の料理を残さず美味しく食べる」を人生の唯一の決め事としている。

福田 紫瑞紀氏

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Nature Sustainability では、創刊と同時にCommunity siteをオープンしています。これは、Nature Sustainability 掲載論文についてだけではなく、サステイナビリティ研究に関するいろいろな考え、意見、経験を語りあい、ディスカッションできるブログ形式のフォーラムです。いろいろなセクションがあり、今回インタビューした沖大幹さんも、論文の背景などをBehind the Paperセクションに語っています。サステイナビリティ研究に興味のある方なら、是非、参加してみてはいかがですか。

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