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ハエトリの目

多くの鳥が飛びながら獲物を追いかけるのと異なり、ミドリメジロハエトリは木の枝などに止まって昆虫を待ち伏せする。最近、この鳥の目に奇妙な構造が発見された。この構造は、自分がじっとしたままで、動く昆虫を目で追跡するのに役立っているのかもしれない。

ニューヨーク州立大学プラッツバーグ校(米国)の視覚生態学者Luke P. Tyrrellらは、この鳥の網膜の中央にある光受容器(光を感知する細胞)が特別に大きなミトコンドリアを含んでいることを発見した。ミトコンドリアはエネルギーを作り出す細胞小器官で、この鳥の場合、個々の大きなミトコンドリアが数百個の油滴で囲まれ、細長い小塊を形成している。以前にゼブラフィッシュなどの目に大きなミトコンドリアが観察されていて、多くの鳥の光受容器には光を調節するための油滴があることも知られていたが、両者を併せ持つ例が見つかったのは今回が初めてだ。

この構造は「かなり衝撃的です」とワシントン大学(米国セントルイス)の視覚科学者Joseph Corboは評する。「こんな特徴的な形の構造は、どの種の生物にもありません」。

油滴を含む光受容器を持つ鳥は他にもあるが、通常は大きなものが1つだけだとTyrrellは言う。このハエトリの場合、「極めて小さな油滴が数百から数千あり、ミトコンドリアの周囲に密集していて、非常に特異です」と言う。Tyrrellはこの研究を2019年2月にbioRxivに投稿した後、査読付きの専門誌へ論文を投稿している。

この油滴は波長の短い光をカットして、長波長の光(橙色や赤色)だけを通す。以前にマウスで実証されていたように、それら長波長の光がミトコンドリア内の特定の酵素を活性化して網膜細胞のエネルギー生産量を増やしているのだろうと研究チームは考えている。「そのエネルギーは、細胞が発火する頻度を増やすために使われている可能性があります」とTyrrellは説明する。「フレームレートの高い高速度カメラのようなものです」。

これに対しCorboは、この構造がエネルギー増産の役割を果たしていると推測するのは危ういと注意する。もしそうならば、同様の構造が鳥類にもっと広く見られてしかるべきだろう。Tyrrellは現在、ミドリメジロハエトリと近縁な他の鳥に同様の構造があるかどうかを調べている。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190905a