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自家発電ペースメーカー

心拍によって発電して動くペースメーカーを、生きたブタで試す実験が成功した。ブタの心臓の大きさと機能は人間と似ており、電池の要らない埋め込み型医療機器の開発に向けた重要な前進だ。現在のペースメーカーは電池の寿命が7~10年で、交換するには高額な手術が必要である。

今回の新しい“共生ペースメーカー”は3つの部分からなる。1つはウエハースほどの大きさの発電機で、手術で心臓の表面に装着され、拍動の力学エネルギーを電気エネルギーに変換する。2つ目はそのエネルギーを蓄積するコンデンサーを備えた電力管理ユニット、3つ目は心筋を刺激して調節するペースメーカー本体だ。

北京ナノエネルギー・ナノシステム研究所のZhou Liとジョージア工科大学(米国)のZhong Lin Wangらは、このデバイスをオスの成体ブタ2頭に埋め込んだ。1頭目は健康な心臓を持つブタで、発電機がどれだけうまくエネルギーを拾って発電できるかを試した。得られた電力でペースメーカーを3時間半ほど駆動できた。研究チームは2019年4月のNature Communications に、このブタの心臓は人間用のペースメーカーを動かすのに必要とされるよりもずっと多くのエネルギーを生み出したと報告している。

2頭目のブタでは、不整脈(不規則な心拍)を誘発してペースメーカーの治療機能をテストした。ブタの心臓の動きによって1時間以上充電してから装置のスイッチを入れたところ、心拍はすぐに正常に戻り、スイッチを切ってもその状態が続いた。

装置のサイズや安全性、効率を人間に合わせて最適に調整する必要があるため、ヒトでの試験はまだ先になるだろう。また、サイズと効率の問題は大きく、動きの弱い病んだ心臓でこのペースメーカーがうまく働くかどうかは、まだ明確でない。また、この装置は心臓の表面に直接装着する必要があり、心臓の機能を阻害する可能性もある。

「電池を不要にするこうした技術の開発は、埋め込み型医療機器に革命を起こすと思われます」と、パデュー大学(米国)の産業・医用生体工学者Ramses Martinezは言う。「これまでの硬い埋め込み機器は遠からず、機能するのに必要なエネルギーを患者から得ることのできる柔軟なシステムに進化するでしょう」。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190805a