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宇宙滞在の影響が双子研究で明らかに

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190605

原文:Nature (2019-04-11) | doi: 10.1038/d41586-019-01149-y | Astronaut twins study spots subtle genetic changes caused by space travel

Alexandra Witze

長期間の宇宙滞在の影響は、地球帰還後数カ月でほぼ消えた。

NASAの宇宙飛行士Mark Kelly(左)とScott Kelly(右)は一卵性双生児で、MarkはScottより6分だけ早く生まれた。 | 拡大する

ROBERT MARKOWITZ/AFP/Getty Images

NASAに所属する一卵性双生児の宇宙飛行士Scott KellyとMark Kellyの体は、ほぼ同じに戻った。それが、2015~2016年の約1年に及ぶ宇宙滞在中にScottの体に生じた変化を追跡した研究の結論である。研究チームが2019年4月12日号のScienceで発表した論文によると、宇宙滞在中にScottの体に生じた遺伝的、生化学的、およびその他の変化の多くは、宇宙から帰還するとあらかた消失したという1

今回の研究ではこの2人しか調べていないため、この知見を他の宇宙飛行士に広く当てはめることはできない。けれどもNASAは、今回得られた情報を、今後予定している宇宙飛行士の健康に関する研究の指針として役立てたいと考えている。NASAは、10人の宇宙飛行士を3つのグループに分けて、1年おき、半年おき、2~3カ月おきに宇宙に送り出す実験などを予定している。

2019年3月、トランプ政権は2024年までに宇宙飛行士を再び月面に送り込むという目標を発表し、NASAは現在、そのための準備を進めている。宇宙飛行士の健康維持のためには、宇宙飛行に対して人体が長期的にどのように反応するかを理解しておく必要がある。

NASAの請負企業KBRwyle(米国テキサス州ヒューストン)で宇宙飛行士の生理学を研究しているStuart Leeは、「トランプ政権が有人宇宙探査を目標に掲げたことで、NASAの基礎生命科学プログラムも、宇宙飛行が人体に及ぼす影響を早急に解明せねばならなくなったのです」と話す。

自然の実験

宇宙環境の微小重力や放射線量の高さが人体に及ぼす影響は、何十年も前から研究されてきた。ScottとMarkという一卵性双生児の宇宙飛行士を得たNASAは、ほぼ同じ遺伝情報と生活経験を持つ2人を比較するという、かつてない機会をつかんだ。今回の実験で、Scottは国際宇宙ステーションに340日間滞在し、2011年に宇宙飛行士を引退しているMarkは地上で過ごした。Markは現役時代にスペースシャトルで比較的短期間のフライトを4回経験していて、生涯の宇宙滞在期間の合計は54日である。

兄弟の検査は、10の研究チームにより25カ月にわたって行われ、宇宙飛行前、飛行中、帰還後に採取された試料(血液、尿、便)が分析された。コロラド州立大学(米国フォートコリンズ)の放射線がん生物学者Susan Baileyは、「今回の双子研究により、宇宙飛行に対する人体の反応に関して、これまでで最も包括的な知見が得られました」と言う。実験中、宇宙ステーションにいるScottは食事と運動を厳密に管理されていたが、地上にいるMarkは特に何の制限もなかった。

宇宙滞在中、Scottの体には多数の変化が生じたが、地上に帰還するとほとんど元に戻った。ジョンズホプキンス大学医学系大学院(米国メリーランド州ボルティモア)の遺伝学者Andrew Feinbergは、ストレスと関連付けられている遺伝子マーカーの変化もあったが、恐らく環境が変化したせいだろうと言う。

微妙な変化

Scottの遺伝子の変化のうち染色体に関するものは、帰還後半年たってもほとんど元に戻らなかった。染色体の一部に逆位(部分的に切断され、反転して再結合すること)が起きていたのだ。DNAの損傷につながる逆位が生じたのは、宇宙滞在中に大量の放射線に被曝したことと関係があるかもしれない。

Baileyの予想に反して、Scottの染色体の末端を保護するテロメアと呼ばれる構造の多くは伸長していた。テロメアは加齢とともに短縮し、宇宙飛行は加齢と同様に人体にストレスを与える。Scottのテロメアは、地球への帰還後48時間以内にほぼ出発前の長さに戻ったが、一部のテロメアは出発前より短くなっていた。これにより、心臓血管疾患やある種のがんのリスクが上昇する可能性があるとBaileyは指摘する。

Scottはこの実験の後、宇宙飛行士を引退した。現在は、宇宙での経験について執筆や講演を行っている。一方Markは、2020年のアリゾナ州上院議員補欠選挙に民主党からの出馬を表明している(註:彼の妻は、民主党の元下院議員Gabrielle Giffords。2011年に銃撃され頭部に重傷を負ったが、奇跡的な回復を遂げた)。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Garrett-Bakelman, F. E. et al. Science 364, eaau8650 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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