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森林火災後には真菌と細菌が爆発的に繁茂

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190303

原文:Nature (2019-01-16) | doi: 10.1038/d41586-019-00151-8 | Severe wildfires spark population boom in fungi and bacteria

Jennifer Leman

森林火災後の微生物群集の変化を理解できれば、生態系がどのように再生していくかを予想するのに役立つ。

2016年5月6日、フォートマクマレー(カナダ・アルバータ州)の森林火災で上空を覆い尽くす煙。火災が発生した森林の土壌中の微生物は立ち昇る煙の中の灰や塵に乗り、何千kmも離れた場所まで運ばれる。 | 拡大する

Darryl Dyck/Bloomberg via Getty Images

森林火災は、より大規模に、より高温に、ますます予測不能になってきていて、植物種や動物種に甚大な被害をもたらしている。研究者たちは今、細菌や真菌など森林にすむ極微の生物たちに火災がどのような影響を及ぼしているかを研究し、一部の微生物が激しい火災を生き延びていることを明らかにしようとしている。

2019年1月7日にプレプリントサーバーbioRxivに投稿された論文1は、カナダのノースウェスト準州とアルバータ州の北方林での激しい森林火災の後、数種の細菌と真菌の数が増加したと報告している。こうした研究や、火災に伴って生じる煙などが微生物の分布に及ぼす影響の研究によって、研究者は森林火災が微生物群集を変化させる仕組みについて、より明瞭な描像を得られる。またその知見は、激しい森林火災の後に生態系がどのように回復するかを予想するのにも役立つだろう。

ミシガン州立大学(米国イーストランシング)の生態系生態学者Jessica Mieselは、「一般的には、火災が微生物群集を破壊することはありません。ただ、その構成を変えるのです」と言う。一部の細菌や真菌は植物との間に共生関係を築いており、特定の地域の植物がどの栄養分を利用できるかは、この関係によって決まることが多い。特定の微生物群集が火災によって破壊されると、その栄養分に依存している植物は、当該生態系では再生できなくなるかもしれない。

逆境に耐える

研究者チームは今回、森林火災が細菌と真菌の群集に及ぼす影響を調べるために、カナダの2つの州の北方林において62地点の土壌サンプルを採集した。そのうちの50地点は、2014年の森林火災の被災後、約1年が経過した場所である。分析の結果、マシリア(Massilia)属とアルスロバクター(Arthrobacter)属の数種の細菌と、ペニシリウム(Penicillium)属とフシクラジウム(Fusicladium)属の数種の真菌は、森林火災後の方が多くなっていることが分かった。これらの増加は、燃え方が激しかった場所で顕著だった。

論文の共著者であるウィスコンシン大学マディソン校(米国)の土壌生態学者Thea Whitmanは、「生態系の火災への応答を駆動する要因が解き明かされつつあります」と言う。

微生物は、有機物を分解し、植物が吸収できる栄養分にすることで、健康な生態系の維持に役立っている。ある種の細菌は動植物の排泄物や死骸を分解して植物が利用できる無機窒素化合物や無機炭素化合物にしているし、ある種の真菌は植物の根端にすみ着き(菌根菌)、宿主が周囲の土壌から栄養分や水を吸収するのを助けている。

Whitmanは、森林火災後に繁茂できる細菌や真菌は、短期間で繁殖できる、利用可能な栄養分を活用できる、高温の中で生きられるといった能力を持つのかもしれないと見ている。微生物の中には、火によって化学的に変成した有機物を分解できるように適応したものもいれば、新たにできた生態学的ニッチをうまく利用するものもいる。

もっと高く、もっと遠くへ

微生物が火災を利用して新しい土地に定着する方法の1つは、立ち昇る煙の中の灰や塵などの小さな粒子にヒッチハイクすることだ。アイダホ大学(米国モスコー)の火災生態学者Leda Kobziarのチームは、2018年11月に発表した研究2において、フロリダ州の3カ所の野焼きの煙と、アイダホ州の森林の植生を採取して研究室で燃やしたときの煙を採集した。分析の結果、煙の中にいた微生物は、周囲の空気に残っていた微生物とは異なっていることが判明した。Kobziarは、微生物が森林火災の煙に乗って運ばれているのは明らかだと言い、場合によっては、栄養固定を行う細菌が煙に乗って遠くに運ばれ、そこで植物の成長を促すこともあるかもしれないと考えている。

しかし、オーク突然死病(sudden oak death)を引き起こす真菌様生物フィトフトラ・ラモルム(Phytophthora ramorum)などの植物病原体の胞子が森林火炎の煙に乗って健康な木がある地域まで運ばれる場合には、このような旅の仕方は有害なものとなり得る。消防士やその他の救急隊員にとっても、潜在的に危険な微生物やアレルゲンを吸入する危険性があるとKobziarは言う。森林火災の影響に関する話の中で、微生物は無視されることが多い。しかし、こうした微小な生物が、森林が炎に舐め尽くされた後の周囲の風景を決定するのだ。「土壌環境には無数の変化が生じ、その中には、各種の微生物に有利になるものも不利になるものもあるのです」とMieselは言う。生態系全体が灰燼に帰すとき、再生への第一歩を決定付けるのは微生物なのだ。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Whitman, T. et al. Preprint at bioRxiv https://dx.doi.org/10.1101/512798 (2019).
  2. Kobziar, L.N. et al. Ecosphere 9, e02507 (2018).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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