いじめを明確に禁止せよ
優れた実績を誇る研究室に所属し、協力的な同僚に恵まれていても、科学研究が困難を極めることがある。そこへ、もし上司や同僚から日常的に虐げられ、軽視され、けなされ、不当に非難されるといった圧力が加われば、事は関係する研究者間の個人的な問題では済まない。研究に悪影響が及ぶからだ。
そうした職場でのいじめは、黙っているとますますひどくなる。しかし、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)に対する告発が広がったように、科学界におけるいじめを巡る騒ぎも大きくなってきている。
今こそ研究機関が、こうした先例を手本として、続々と断固たる行動に踏み切るべきだ。研究機関にいじめ行為防止規程が整備されているかどうかは、国によって異なり、英国の研究機関ならば整備されている可能性が非常に高いが、米国などでは整備されていない可能性がある(Nature 2018年11月29日号616ページ参照)。いじめ行動は、ハラスメント防止規程の適用対象になる可能性があるが、いじめを受けた人がその適用を受けて雇用主に補償を請求するためには、請求者が労働法の保護対象となっていることに加え、性別、人種、宗教または年齢を理由とするいじめを受けたことを立証できなければならない。ここで、いじめ行為者の動機を問題とすべきではない。いじめは許されない行為であり、今よりも多くの雇用主が、この点を明確にする必要がある。
こうした状況下で何ができるだろうか。「自分だけが上司や同僚から不公平な扱いを受けた」と感じた場合には、複数の選択肢がある。その1つは、第三者に話してみることだ。あなたには、友人と家族のサポートが必要であり、あなたがいじめを受けていることを友人や家族が知らなければ、誰もあなたを助けられない。また、信頼できる同僚に話をすれば、同じ思いをしている同僚がいることが分かるかもしれない。
そして、この問題に取り組むために何ができるかについて、助言を求めてほしい。具体的には、所属機関の人事部の人に問題の解決法をさりげなく聞いてみることだ。あなたが労働組合員であれば、組合に助言を求めることもできる。また、日記にいじめ行為者の問題行動を記録しておくと役立つことがある。いじめ行為者と話をする自信が十分にあり、それが安全なことであれば、それも検討してほしい。穏やかな口調で、いじめ行動を容認できない、やめてほしいと言えばよい。
こうした手順をこなした多くの人々は、いじめ行為者を通報することに伴う職務の激変と精神的な動揺を経験している。いじめ問題の渦中にいない者が、いじめ行為への関心の高まりは科学と社会にとって素晴らしいことだと褒めたたえるのは簡単なことだ。だが、この問題の解決策を見つけるのは容易ではなく、水掛け論に終始する場合もある。
だからこそ、研究機関が問題の責任を取る姿勢を示す必要があるのだ。いじめ行為の通報があれば、適正な手続きに留意した公正かつ徹底した調査がなされることが望ましい。研究機関の研究員や職員に適用されるいじめ行為防止規程や行動規範は、簡単に利用できるものとし、職場における適切な行動と不適切な行動に関して明確な指針を与えるものであること、また、いじめ疑惑の通報があった場合に取るべき措置を大まかに定めていることが望ましい。
極めて重要なのは、こうした規程を定めた研究機関が、いじめを行ったとされる者が所長であれ、博士課程1年目の学生であれ、常に規程を厳守し、悪意のある主張の被害者かもしれない被疑者を含む関係者全員を保護する必要がある、ということだ。調査が不完全あるいは不公正であれば、研究機関の信頼性は損なわれ、関係者のキャリアに傷がつき、いじめを行う者に対して「いじめは許容される」というメッセージを発することになる。今やそのようなことは許されない。
翻訳:菊川要
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 2
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190240