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試験管内の「原始スープ」からRNA塩基を合成

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191202

原文:Nature (2019-10-04) | doi: 10.1038/d41586-019-02622-4 | Lab-made primordial soup yields RNA bases

Davide Castelvecchi

地球上に現れた最初の生命体はRNAを主要成分としていたとする仮説を補強する化学的な証拠が得られた。

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MARK GARLICK/SPL/Getty

Thomas Carellの主張が正しければ、約40億年前の地球は、地表の大部分が灰色がかった茶色の物質で覆われていた可能性がある。それは普通の鉱物ではなかった。現代の科学者たちがアデニン(A)、ウラシル(U)、シトシン(C)、グアニン(G)と呼んでいる有機分子の結晶を含んでいたのだ。そして、Carellの説に従えば、その一部を材料としてRNAが生成し、DNAが出現する前の最初期の生命体の進化を駆動したと考えられる。

今回、有機化学者であるCarellと共同研究者らは、原始地球を模した条件下で、水や窒素などの単純な分子からA、U、C、Gを(原理的には)作ることができる化学反応経路を実証した。反応によって大量に生成したこれらの核酸塩基は、何千年もの時間をかけて蓄積し、厚い層をなしていた可能性があるとCarellは言う。彼の研究チームはScience 2019年10月4日号で結果を報告している1

ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ドイツ)に所属しているCarellは、この結果は「RNAワールド」仮説の信憑性を高めるものだと話す。「RNAワールド」仮説では、自己複製するRNA遺伝子から生命体が誕生したとされる。近縁分子であるDNAに遺伝情報を保存する能力を生命体が獲得したのは、その後のことである。この研究で実証された化学反応経路は、RNAを主要成分とする生命体の出現はとてつもなく幸運な出来事だったというわけではなく、他の多くの惑星でも起こり得ることを示す「強い証拠」でもあると、Carellは付け加える。

Carellの研究チームは、核酸塩基AとGを自発的に生成する化学反応を2016年に報告している2。一方、残る2つの塩基UとCについては、2009年に別のグループが同様の実験を報告していた3。しかし、これら2つの反応経路は温度やpHなどの条件が大きく異なり、並行して同時に進行することはあり得ないように思われた。

Carellの研究チームによる今回の報告は、4種類全ての核酸塩基が一連の条件下で同時に生成し得ることを実証したものだ。原始スープの2つの池があったとする。季節が巡るに従って、その環境条件は湿潤と乾燥、高温と低温、酸性と塩基性の間を循環する。時には一方の池から他方の池に原始スープが流れ込むこともある。Carellらは、まず単純な分子を熱水中で反応させ、得られた混合物を冷却して蒸発乾固し、2つの有機化合物の結晶を含む残留物を得た。そこに再び水を加えて生成物の1つを溶解させ、別の容器に分取した。その後、残った不溶性の生成物をさらに反応させた。全ての生成物を再び混合して反応させることで、核酸塩基が得られた。

「この論文は、全てのRNAヌクレオシドを作るために起こる必要がある化学反応経路を見事に実証したものです」と、スクリプス研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の化学者Ramanarayanan Krishnamurthyは言う。ただし、この研究や類似の研究は結論から出発しているため、実際に生命が誕生した経緯を明確に証明しているとは必ずしもいえない、と警告する研究者も多い。Krishnamurthyもその1人だ。

最終的にRNAが形成されるためには、リボースという糖が核酸塩基に結合する必要がある。どのような反応でリボースが生成したかという問題に今後は取り組んでみたいとCarellは考えている。

(翻訳:藤山与一)

参考文献

  1. Becker, S. et al. Science 366, 76–82 (2019).
  2. Becker, S. et al. Science 352, 833–836 (2016).
  3. Powner, M. W., Gerland, B. & Sutherland, J. D. Nature 459, 239–242 (2009).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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