学術界サバイバル術入門 — Training 11:学会発表 ②
印象的なスライド発表とは
学会でのスライドを使った口頭発表は名誉です。あなたは選ばれて、同輩たちの前で研究成果を発表する機会を得たのです。ですから、このチャンスを最大限に利用してインパクトを与えましょう!
スライド発表には、ポスター発表とは異なる注意点がいくつかあるので、心得ておきましょう。第一に、聴衆からの関心をあまり得ることができません。スライド発表は、聴衆にとってポスター発表ほど興味をそそられるものではないため、聴衆は退屈したり飽きてしまったりしやすいのです。とりわけ、暗い室内では! 第二に、スライドはすぐに次へと移ってしまうため、聴衆はあなたの研究結果(スライド)をさっとしか見られません。また、何かを見逃したからといって、ポスターや論文のように前の図に戻ることはできません。こうした難題があるため、複雑な研究結果を各スライドで可能な限り簡潔かつ直接的に示すことが不可欠になるでしょう。
スライド発表もポスター発表と同様に、あなたの論文要旨の視覚的表示の場と考えるといいでしょう。人々はスライドを読みたいとは思っていないので、スライドに文章をずらずらと並べるのは得策ではありません。ですから、ポスター発表のところで説明したことの多くはスライド発表にも適用できます。通常、序論に1枚のスライド、研究設計/方法に1枚、そして重要な結論に1枚のスライドで十分です。スライドの大部分はあなたの研究結果に焦点を合わせるべきです。
とはいっても、研究結果をスライドで発表するに当たり、スペースという重大な制限があります。従って、スライドに複雑な図を提示するべきではありません。そうした図はスライドには適していないからです。また、限られた持ち時間で発表しなくてはなりませんから、どの研究結果が不可欠かを決めます。賢く選択しましょう! 次に、それぞれの図をできるだけ大きく明確に表示しましょう。パネルが1つだけ表示された2枚のスライドを見せるのと、2つのパネルを表示した1枚のスライドを見せるのにかかる時間は同じですが、前者の方が、図の内容はずっと明確に聴衆に伝わるでしょう。
形式に関しては、聴衆の気持ちをそらすような背景やアニメーションは避けましょう。聴衆は研究結果に興味があるからあなたの発表を聞いているのであって、スライドがどれくらい見栄え良く作られているかに興味があるわけではありません。ですから私は、パワーポイントテンプレートは極力使わないようにして、データを際立たせることをお勧めします。また、画面切り替えとアニメーションは最小限かつ目立たない程度に抑えましょう。そうした効果はあなたが強調したいと考えている重要なポイントから聴衆の関心をそらしてしまうことが多いからです。文字は全て24ptよりも大きくし、最後列に座っている人でも確実に読めるようにしましょう。最後に、発表の前にプロジェクターを使って試してみることをお勧めします。プロジェクタースクリーンの解像度はあなたのコンピュータのディスプレーの解像度よりもはるかに低いので、コンピュータのディスプレーでははっきり見えたものが、発表の際にプロジェクターで映し出したときには不明瞭になってしまう可能性があります。実際に発表を行う前にスライドの明瞭さを確認しておけば、同輩の前で恥をかかないで済むのです。
有効な発表スキル
話をする際に最も重要なポイントは、信用と信頼性を確立することです。あなたは同輩たちに、話の内容を信じ、信頼してもらいたいと思っています。話している最中に信頼性を確立するのに役立つ、非言語的スキルと言語的スキルがいくつかあります。
非言語的スキル
1.顔をいつも聴衆に向けておきましょう。
これは、単に聴衆に敬意を示すだけでなく、信用を確立する助けにもなります。
2.アイコンタクトをしましょう。
そうすることで、あなたが参加者たちを十把一絡げに見ているのではなく、それぞれの個人として見ているのだということを示せます。これは、あなたが話している間、彼らの注意を引き付けておく助けになるでしょう。
3.背筋をまっすぐ伸ばして立ちましょう。
そうすることで、あなたにとってこの発表が重要なものであり、同輩たちにぜひ伝えたいと思っている、という意思表示ができます。
4.自然に振る舞いましょう。
固くなっているように見えると、自信がなくて神経質になっていると聴衆に思われてしまいます。人は自然に振る舞う人と接するほうが楽なのです。
5.手振りはなるべく少なく。
手振りは、目障りなだけでなく、文化的にも不適切な場合があります。書見台に自然に手を乗せておくのが最も良いでしょう。
6.微笑を浮かべましょう。
人は親しみやすい人に引き付けられるものです。聴衆と良い関係を築きたいですよね。ならば微笑むことは、一番いい方法です。
言語的スキル
1.ゆっくり話しましょう。
あなたが伝えたいことを人々は一度しか聞けません。ですから、聴衆がしっかりと聞き取れるペースで話しましょう。
2.強調したいときには、間を置きましょう。
間を置くと、人々は無意識にあなたがいま言ったことについて考えます。これは、発表中に重要なポイントを強調する助けになります。
3.自然に話しましょう。
普段会話をするときのように、声の調子や高さに変化をつけましょう。一本調子で話されると聴衆は退屈してしまいます。
4.常にマイクに向かって話しましょう。
大きなホールでは、マイクに向かって話すことが不可欠です。発表中にスクリーンを見なければならないときには、そうしている間にも声がマイクを通っていることを確認しましょう。
5.つなぎ言葉は避けましょう。
「えーっと」などの意味のないつなぎ言葉は、聴衆の注意を話からそらしてしまうだけでなく、あなたが言葉に詰まっているようにも見えてしまいます。
6.熱意を持って話しましょう。
あなたは研究について同輩たちに知ってもらう機会を得たことを喜んでいるはずです。あなたの熱意は聴衆に伝わり、聴衆の関心を引き付けておく助けになるでしょう。
最後に、発表前には必ず、何度も練習しましょう。何度も練習しておけば、自信を持って発表ができますし、原稿を読む必要もなくなります。何を話すべきかを確認するために最初に原稿を書いておくべきですが、発表の場では決して原稿を読んではいけません。原稿の棒読みは、聴衆にとって非常に退屈です。何度も練習して、何を話すべきかを頭に入れておき、自然に会話調で話して、聴衆から敬意を得られるようにしましょう。
(翻訳:古川奈々子)
ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)
ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11
DOI: 10.1038/ndigest.2019.191118
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