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TOOLBOX: ラボの在庫管理を見直す

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180828

原文:Nature (2015-08-03) | doi: 10.1038/524125a | Time To Take Stock

Jeffrey M. Perkel

ラボの在庫管理システムは、紙ベースのものから特注データベースまで、さまざまだ。最適なシステムを利用すれば、時間と費用とイライラを最小限に抑えることができる。

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ILLUSTRATION BY THE PROJECT TWINS

ルーネンフェルト・タネンバウム研究所(カナダ・トロント)のMarilyn Goudreaultは、ラボの貯蔵庫に保管しているプラスミドを譲ってほしいと言われれば、喜んで譲渡する。一般に、試料の共有は査読誌での論文出版の前提条件であり、科学的プロセスの基礎になるからだ。まずは、求められたプラスミドを見つけなければならない。多くのラボでは、こうした要請を受けたら、過去の実験ノートや、古い形式のスプレッドシート、霜がびっしり付着したフリーズボックスを、あちこち探し回らなければならないだろう。けれどもGoudreaultのラボでは、試料は「OpenFreezer」で追跡できる。

OpenFreezerは、プラスミドだけでなく、抗体、DNAやRNA、タンパク質の断片など、ユーザーが所有する全ての試料のデータ(置き場所、供給源、制作者、生物学的特性など)を記録するウェブ上の管理システムで、無料で利用できる。ユーザーは、簡単な検索で、探している試料の置き場所を知ることができる。後は、貯蔵庫に行って指示されたとおりの箱を取ってくればよい。「15分以内に全部集められました」と彼女は言う。

近年、ラボの管理を簡素化するために、コンピューターを利用した在庫管理システムが多数開発されており、OpenFreezerはその1種である。こうした在庫管理システムは、それぞれのラボが独自に作った簡単なデータベースから企業レベルのシステムまで幅広く、予算に応じて選ぶことができる。冷凍した試料について記録するためのものもあれば、試薬や実験動物を管理するためのものもある。試薬の購入や設備のスケジューリングを容易にするものもあれば、簡単に説明するだけのものもある。全ての在庫管理システムに共通する目標は、ラボで働く人々が、どのような資源が利用可能で、それがどこにあるかを把握できるようにすることだ。

多くのラボが在庫管理に使っているツールは、バインダーに綴じた紙かエクセルのスプレッドシート程度である。しかし、もっと洗練されたデータベースソフトウエアを使っている研究者もいる。例えば、ウイルス学者Joe Mymrykが1990年代末にウエスタンオンタリオ大学(カナダ・ロンドン)で彼自身の研究室を立ち上げたときには、主要な試薬を管理するためにマイクロソフトのデータベース管理ソフトウエア「Access」を利用していた。2007年には、彼の研究室の大学院生Ahmed Yousefが、当時パデュー大学(米国インディアナ州ウェストラファイエット)でコンピューター科学を学んでいた大学院生Ibrahim Baggiliと協力して、ウィンドウズ上でこのシステムを使いやすくするためのインターフェース「LINA(Laboratory Inventory Network Application)」を開発した(A. F. Yousef et al.,J. Lab. Automat. 16、82-89;2011)。

LINAのAccessデータベースは、細菌株、酵母株、オリゴヌクレオチド(DNAやRNAの短い断片)など、試料のタイプごとに作成する。ユーザーが作成したり入手したりした新しい試料をシステムに登録すると、固有の識別番号が割り当てられるので、後は識別番号に従って試料をフリーズボックスに収納すればよい。データベース内は、キーワード、供給源、機能によって検索できる。

無駄の削減から再現性の確保まで

Mymrykにとって、LINAの最も便利な特徴は、DNAの塩基配列を検索して比較するツールである。このツールがあれば、遺伝子を増幅したいと思ったときに、単純に新しい試料を注文するのではなく、目的遺伝子の塩基配列を入力して、その増幅に使えるオリゴヌクレオチドがライブラリー中にないかチェックすることができる。「この機能のおかげで本当に助かっています」と彼は言う。

LINAは無料で、使い方も簡単であるため、小規模な分子生物学ラボには魅力的だ。しかし、より高度な管理システムにも無料のものがある。ウェルズリー大学(米国マサチューセッツ州)で化学試薬準備室を管理するMarie Ebersoleは、エクセルを利用する管理システムをやめて「Quartzy」(クォーツィー)を導入することを選んだ。Quartzyはクラウド上の無料システムで、彼女が購入する1000種類の試薬の管理に役立っている。彼女がQuartzyを導入する決め手となったのは、コストがゼロである点だった。「3つの学部の12人からそれぞれ同意を得る必要がないだけでなく、既存のスプレッドシートをアップロードすることができたからです」と彼女は言う。

Ebersoleは、主に固体と液体の試薬を管理するのにQuartzyを使っている。しかし、このシステムはフリーズボックスの管理にも利用可能で、ユーザーは任意の容器内のどの場所に何が入っているかを正確に知ることができる。在庫が減ってきたら、ユーザーは再注文ボタンをクリックする。そうすれば、システムが自動的に管理者にアラートを出して、注文状況を追跡できるようになっている(このシステムが無料でサービスを提供できるのは、複数の試薬販売業者のカタログが組み込まれていて、注文が入ったときには、そこから製品を薦めるようになっているからである)。Quartzyには他にも、個々の試料に添付されたバーコードの管理、設備のスケジューリング、ラボマニュアル維持のための文書管理機能なども提供している。

Ebersoleにとって、Quartzyの機能はラボの効率を高めるだけでなく、コストも削減してくれるツールだ。「経費を3分の1ほどカットできました」。理由の1つは、無駄になる試薬が減ったことにある。研究者に渡す試薬が詳細に分かっていれば、古いものを使い切ってから新しいものを購入することができる。また、新しい試薬を購入するときにも、以前より少ない量を購入するようになったという。

DNA Globe社(スウェーデン・ウメオ)が開発した「StrainControl」というソフトウエアは、小規模なラボの研究者が個人的に使用する分には無料である。プロフェッショナル・ライセンス(コンピューター2台)は79.95ドル(約8800円)だ。データがウェブ上に貯蔵されることはなく、ユーザー自身のコンピューターまたはユーザーがデータベースを共有するコンピューター・ネットワーク上のみに貯蔵される。

DNA Globe社の渉外担当部長Kristoffer Lindellは、StrainControl(直訳すると「系統管理」)は、その名前からショウジョウバエやマウスの系統管理の専用ソフトのように思われるかもしれないが、ほとんどの実験生物学者の資源の管理に使えると説明する。このソフトウエアのユーザーは約1万5000人で、各種実験動物系統、タンパク質、プラスミド、抗体、試薬などをサポートする他、試料のバーコード付けにも対応している。ユーザーは必要に応じて各フィールドの名称を変更できるため、ラボの在庫管理とは関係なく、あらゆるカタログ作りに利用できる。

より専門的なシステムもある。例えば、BioInfoRx社(米国ウィスコンシン州マディソン)が開発した「mLIMS」というラボ情報管理システムは、齧歯類のコロニーを管理するためにデザインされている。電子実験ノートに接続できるシステムもある。その1つが、ホルツブリンク・パブリッシング・グループ(ドイツ・シュツットガルト、Nature の関連会社)からの投資でBioData社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)が開発した「Labguru」だ。Labguruは、プラスミドや細菌、抗体、植物、齧歯類、タンパク質を管理するクラウド上のソフトウエアで、電子実験ノートが組み込まれていると、同社のプロダクト・スペシャリストXavier Armandは説明する。Labguruのユーザー1人当たりの年間利用料は、学術機関では120ドル(約1万3000円)、産業界のラボでは450ドル(約5万円)である。

Armandによると、通常、在庫目録と電子実験ノートは、個々の試料に関する詳細を実験結果と結び付けることで、どの実験にどの試料を使ったかをユーザーが追跡できるようにしているという。「私たちは、試料と手法に関する忠実度の高いメタデータと、実験データへのリンクを組み合わせることで、再現性問題の改善に役立てられると信じています」。確かにこうしたツールが普及すれば、研究者は、自分自身や他のラボの実験結果を再現しやすくなるだろう。ATGC Labs社(米国メリーランド州ポトマック)の「Freezer Web Access」と「Lab Inventor」という2つのツールも、ユーザーが自分の試料や試薬をLIMSとリンクできるようにするものだ。ソフトウエア開発者のPavel Bolotovは、どちらのソフトウエアもユーザー1人当たり150ドル(約1万7000円)、インストールするサーバー1台当たり350ドル(約3万9000円)で、カスタマイズには1000~2万ドル(約11万〜220万円)が上乗せされると説明する。

機関規模での導入

一部の研究所や企業は、より大きな規模で在庫管理を集中化している。ペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の環境衛生放射線安全課(EHRS)は、数年前から700ある実験チームをBIOVIA社(カリフォルニア州サンディエゴ。旧Accelrys社)の統合システム「CISPro」に移行させようとしている。ラボの安全性の専門家であるEHRSのKimberly Bushは、機関規模での管理は、コンプライアンスに関する報告(例えば、大学は可燃性の物品に関する建築条例に違反していないか)、ラボ間での物品の共有、大学全体での試薬の監視という3つの主要なタスクを容易にすると言う。「独立の在庫管理システムが700もあったら、そんなことは非常に難しいか、不可能です」。

2011年、EHRSは無駄をなくし、在庫管理を強化する取り組みの一環として、CISProを導入するための資金5万ドル(約550万円)を、同大学のサステナビリティー・イニシアチブ「ペン・グリーン・ファンド(Penn Green Fund)」から受け取った。CISProを導入したラボは2015年8月時点では全体の8分の1にとどまっている。導入はスムーズと言うにはほど遠く、在庫管理の難しさを体現しているとBushは言う。大学の試薬の購入は中央オフィスを通らないため、ラボごとに在庫目録を作成してアップロードする訓練が必要になる。その上、データベースを作成するプロセスが厄介で間違えやすい。例えば、1つの試薬が複数の名前を持つことがあり、データベースの設定と物品の記録との間に矛盾があると、後日、その試薬を検索できなくなり、不要な再注文をすることになる。Bushによると、2つのシステムを併用しているユーザーもいるという。「これでは二度手間です」と彼女は言う。

さらにCISProは、全ての試薬容器に固有のバーコードを与えるようにデザインされている。しかし、瓶入りの溶媒を次々と消費するユーザーにとって、何度も記録するのは面倒なことこの上ない。その場合、ユーザーは可燃性試薬が入ったキャビネットの戸にバーコードをいくつか貼っておき、それらを再利用すればよいとBushは言う。「在庫目録をできるだけ正確なものにするためには、ユーザーが試薬とワークフローの両方を考慮する必要があります」。

研究者がどの在庫管理システムを選ぶにしても、確実に言えることが1つある。彼らは二度とラボの資源について思い悩む必要がなくなる。少なくとも、気まずい思いをすることは減るだろう。「研究者にとって、同じ試料を2回譲り受けなければならないことほど体裁の悪いことはありませんから」とMymryk。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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