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太古の鳥の頭蓋が明かす鳥類進化の道筋

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180836

原文:Nature (2018-05-02) | doi: 10.1038/d41586-018-04780-3 | Evolutionary insights from an ancient bird

Kevin Padian

鳥類が、祖先である恐竜の特徴を捨てて現在の特徴を進化させていた時代の、歯を持つ絶滅鳥類イクチオルニス。今回、この象徴的な化石鳥類の頭蓋が三次元でほぼ完全に復元され、恐竜から鳥類への移行の状況が明らかになった。

ステム群有歯鳥類イクチオルニス(Ichthyornis dispar)の頭蓋の復元像と、これを基にして描いた頭部の想像図。 | 拡大する

Credit: Michael Hanson and Bhart-Anjan S. Bhullar.

現生鳥類には、くちばしから羽毛まで、他の動物群と明確に区別できるような独特な特徴が数多くある。そうした特徴はどのように進化してきたのだろう。今回、バース大学(英国)の古脊椎動物学者Daniel Fieldら1は、進化上極めて重要な意味を持つ初期鳥類「イクチオルニス(Ichthyornis dispar)」の頭蓋について、複数の新たな標本を用いてその三次元構造を復元し、Nature 2018年 5月3日号96ページに報告した。鳥類の象徴的な特徴の1つであるくちばしの進化についての手掛かりが得られたことで、鳥類の進化の道筋がより鮮明になってきた。

19世紀後半、古生物学者のオスニエル・C・マーシュ(Othniel C. Marsh)と彼の発掘チームは、北米西部で新種の恐竜や哺乳類の化石を数多く発見した。そうして得られた彼の膨大な化石コレクションはまさに化石版「動物寓話集」で、欧州で当時知られていた化石標本群をはるかにしのぐものだった2。マーシュの戦利品はどれも話題になったが、一番大きく取り上げられたのは、おそらく1880年に出版された学術書『Odontornithes』(マーシュが有歯鳥類に当てた分類群名)だろう3。この書籍は、米国カンザス州およびその周辺のかつて海岸だった地域で発見された、中期白亜紀(約8700万~8000万年前)に由来する複数の化石鳥類を記載したもので、鳥類の起源が爬虫類であることを示す手掛かりをもたらした。これらの鳥類は、一見見慣れた姿をしているが多くの点で奇妙で、口には歯が並び、尾には骨格が残るなど、原始的な特徴を有していた。マーシュからこの書籍を受け取ったチャールズ・ダーウィンは、「北米の古代の鳥類や多くの化石動物に関する貴殿の研究は、生まれて20年足らずの進化論に最高の支持を与えるものです」とつづった手紙をマーシュに送っている(go.nature.com/2hhjxrdを参照)。

『Odontornithes』で報告された標本の数々は、主に対照的な2つの属に分類される。1つは、全長1.3~1.8mの、現生のアビ類に似ているが翼がほとんどなく飛べない「ヘスペロルニス属(Hesperornis)」で、もう1つは、翼開長が平均で約60cmの、現生のアジサシ類に似た「イクチオルニス属(Ichthyornis)」である3。いくらか類似性はあるものの、いずれも現生のアビ類やアジサシ類と近縁ではない。ヘスペロルニスやイクチオルニスの口には、数多くの鋭い湾曲した歯が並んでいたが、上顎の先端には歯がなく、この部分は角質の鞘で覆われたくちばしをなしていた。ところが残念なことに、発掘された骨はどれも小さくてもろく、構造が複雑でひどく破砕しており、処理は困難だった。そのため、これらの標本で試みられた修復や骨格の組み上げ、図解は、どこか思い込みに影響されていた感がある。結果として、これらの標本について十分信頼できる記述が得られたのは、記載から1世紀以上が経過し、博物館で展示されていた骨格を解体して各標本を一から処理し直してからのことだった1,4

21世紀になった現在も世界各地で数多くの恐竜化石が発見されている。この20年間で特に衝撃的だったのは、羽毛恐竜や新種の初期鳥類に関する報告が、次から次へと発表されたことだろう。これらの標本群は主に中国の白亜紀層で見つかったもので、ヘスペロルニス類やイクチオルニス類よりも既知最古の鳥類である始祖鳥(Archaeopteryx;約1億4500万年前の後期ジュラ紀に由来する)に近い5。一連の標本の研究からは、初期鳥類での体毛のような綿羽から飛ぶための風切羽への羽毛の進化が、現生鳥類の1本の羽毛の発生でさまざまな特徴が生じる過程と大筋で似ていたことが明らかになった6。こうした洞察から、鳥類の翼や飛行の進化について、考え得るある1シーンが浮かび上がってくる。それは、孵化したての恐竜が、捕食者から逃れるため、手に入れて間もない翼を羽ばたかせて急勾配を登っていた、というものだ7

しかし、鳥類の初期進化における解剖学的な変化に関してはまだ謎が多い。Fieldらが取り組んだのは、まさにこうした謎の解明だった。現生鳥類の頭蓋は、他の全ての動物だけでなく、その進化的起源である恐竜とも多くの点で異なっている。鳥類の吻は軽量で、通常は細く、ときに極めて長い。実際、鳥類の吻部の骨は他の動物のそれと比較して軽くてもろく、その骨格構造はタンパク質のケラチンを主成分とする強固な角質の鞘で覆われ、くちばしを形成している。これによって鳥類は、種子から動物の死骸まで多様な餌を手に入れることが可能になった。くちばしの内部にはヒトの口蓋に相当する骨の複合体が存在するが、ヒトとは異なり、鳥類のこの部分の骨は互いの接続が可動性で、周囲の頭蓋骨や顎骨には固定されていない。こうした可動性の骨格は、鳥類が多様な食性を取り入れる上で極めて重要だった。

さらに、実際の鳥類の脳は、「鳥頭(とりあたま)」という比喩表現のネガティブな意味合いからはほど遠い。鳥類の脳のサイズは、体サイズに対する割合では、爬虫類よりも大きく、有胎盤哺乳類に匹敵するからだ。鳥類の脳を保護する骨は、進化の過程で脳サイズの変化に合わせて拡大した。また、鳥類の頭蓋の天蓋と頬の部分の骨も相当する恐竜の構造より大きいが、顎の内転筋は鳥類で縮小している。こうした特徴は、どのような順序で進化を遂げ、鳥類進化を形作ってきたのだろう。

イクチオルニスは、現生鳥類に近縁でありながら最初期の鳥類の特徴も数多く保持している。だがその頭蓋標本は、1870年代にマーシュによって発見されたもの以降、新たな報告例はなかった。そんな中、Fieldらは今回、1点のほぼ完全な頭蓋を含む、構造が三次元的に保存された新たな頭蓋標本4点について細かに記述するとともに、ホロタイプ(正基準標本)であるマーシュの記載標本でこれまで見過ごされていた骨を複数見いだした。Fieldらは、これらの標本全てに対して高分解能コンピューター断層撮影法を用い、イクチオルニスの頭蓋の三次元復元像を得た。高分解能コンピューター断層撮影法とは、サラミソーセージを薄切りにした後でそれらを重ね合わせて元の形にするように、試料の端から端まで極薄の断面像を撮影し、それらを再構成して復元像を組み立てる方法である。これによって、骨の内部構造と外部の形状が同時に可視化できる。そして、全ての骨について復元像が得られると、コンピュータープログラムを用いてそれらの像を任意に操作できるようになり、骨の配置やそれらの可動域などについて解析が可能になる。

得られた復元像(図1)から明らかになったイクチオルニスの頭蓋の特徴は、この化石鳥類が最初期の鳥類と現生鳥類との間に位置付けられることを示している。例えば、くちばしは小さく、顎の先端に限定されていて原始的なのに対し、口蓋棚を欠く点は現生鳥類に近い。また、口蓋の可動性を示す特徴も現生鳥類の方に近く、脳は現生鳥類によく似ていたと考えられるが、頭蓋の天蓋と側部の骨に囲まれた頬の部分は、顎の内転筋を収める大きな空間が残るなど、恐竜の特徴に似ている。これは、鳥類の進化では、脳と口蓋のいくつかの特徴が先に進化し、その後で顎の筋肉が縮小して、現生鳥類のくちばしに見られるような特徴が進化したことを意味している。

図1 イクチオルニス(Ichthyornis dispar)の頭蓋の復元像
Fieldら1は、白亜紀の絶滅有歯鳥類イクチオルニスの頭蓋について、新たな標本4点を含む複数の標本に対して高分解能コンピューター断層撮影を行い、ほぼ完全な三次元復元像を得た。この復元像から、新たな構造の数々が明らかになり、恐竜の特徴が消失して現生鳥類の特徴の数々が進化するまでの移行過程に光が当てられた。図の黄色の部分は新たに発見された化石要素であり、灰色の部分はすでに記述済みだった構造を示す。
a 頭蓋を横から見た図。
b 頭蓋を上から見た図。中央の線の上下では断面の焦点が異なり、上の断面は下の断面よりも頭蓋の頂部に近い。 (参考文献1のExtended Data Fig. 2を改変) | 拡大する

今回のFieldらの研究は、解決すべき問題を数多く提起している。例えば、顎の筋肉の縮小に伴って機能的な変化は生じていたのか。生じていたとすれば、その変化は餌の変化を反映するものだったのか。そして、上顎先端部からの歯の消失とその部分を覆う角質のくちばしの進化と相関していたのは、どのような生態学的習慣なのか。ヘスペロルニス類は、水中深くで魚類や無脊椎動物を捕食する潜水型だったと考えられるのに対し、イクチオルニス類は、水面で餌をすくい取ったり水中に飛び込んで捕食したりしていた可能性が高い2-4。こうして捕食法が異なるにもかかわらず、同様な歯の減少パターンが生じたのはなぜか。また、他の初期鳥類群でも独立して同様の変化が起こったのはなぜなのか。イクチオルニスの口蓋骨に見られる、隣接する頭蓋骨に対する可動性は、恐竜や現生鳥類の口蓋の可動域と比較してどの程度だったのか。そして、こうした進化的変化はイクチオルニスの餌や捕食様式に関して何を示唆するのか。

こうした疑問への答えがどのようなものであれ、今回Fieldらが見事に成し遂げた、この象徴的な化石鳥類の頭蓋の3Dスキャンと復元、そしてその構造に関する異なる進化段階の鳥類との比較に基づく考察は、鳥類の初期進化の理解を助ける重要な情報源となるに違いない。

(翻訳:小林盛方)

Kevin Padianは、カリフォルニア大学バークレー校(米国)に所属。

参考文献

  1. Field, D. J. et al. Nature 557, 96–100 (2018).
  2. Plate, R. The Dinosaur Hunters (McKay, 1964).
  3. Marsh, O. C. Odontornithes: A Monograph on the Extinct Toothed Birds of North America (US Govt Printing Office, 1880).
  4. Clarke, J. A. Bull. Am. Mus. Nat. Hist. 286, 1–179 (2004).
  5. Chiappe, L. M. & Meng, Q. Birds of Stone: Chinese Avian Fossils from the Age of Dinosaurs (Johns Hopkins Univ. Press, 2016).
  6. Prum, R. O. & Brush, A. H. Sci. Am. 288, 84–93 (2003).
  7. Dial, K. P. Science 299, 402–404 (2003).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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