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ドイツ新政権は研究開発費の増額へ

ドイツの社会民主党(SPD)は、2018年1月21日に開かれた党大会で再び投票を行い、連立政権に向けた正式協議に入るという執行部の方針を賛成多数で承認した。 Credit: Sascha Schuermann/AFP/Getty

ドイツで2018年3月に発足した連立政権を担う、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)は、科学技術研究開発への支出を増やし、2025年までにドイツの研究開発費総額(官民の合計)を国内総生産(GDP)比で世界第3位に当たる3.5%に押し上げる方針を明らかにしている。

ドイツでは、2017年9月に連邦議会選挙が行われた。アンゲラ・メルケル首相が率いる中道右派の会派、CDU・CSUが最大の議席を獲得したものの、選挙前と比べて議席を大きく減らし、過半数を占めることはできなかった。選挙前までのメルケル政権の連立パートナーだったSPDは再び第2党になったが、政権に加わらず、CDU・CSUに対抗していく姿勢を打ち出した。選挙以降、CDU・CSUは、自由民主党(FDP)などの少数政党と連立に向けた交渉を行ったが、話し合いは不調に終わった。一方、SPDは方針を転換し、2017年12月に行われた党大会で、連立協議に加わることが承認された。

CDU・CSUとSPDは2018年1月12日、連立政権に向けた協議に入ることで基本合意した。合意によると、GDPの2.9%(2015年現在)であるドイツの研究開発費総額を、2025年までに3.5%へ増やすことを目指す。このため、2018~2021年の4年間に計20億ユーロ(約2600億円)の追加の連邦支出を科学研究開発に投じるとしている。新政権は3月14日に発足した。

3.5%が実現すれば、ドイツの研究開発費総額のGDP比は、日本とほぼ並び、イスラエル(2015年現在4.3%)と韓国(同4.2%)に次いで世界で3番目になる(経済協力開発機構の統計では日本は2015年現在3.3%)。しかし、ドイツの計画は、連邦政府だけではなく、16の州政府と産業界も研究開発支出を増やすことを前提にしている。

CDU・CSUとSPDの両会派・党は、エネルギー、健康、交通、安全などの差し迫った社会的課題に関する基礎研究の研究資金を得る機会を拡充することも約束した。詳細はまだ発表されていないが、基礎研究のための連邦レベルの資金助成機関を政府が創設するようだと多くの科学者が期待している。

メルケル首相のこれまでの12年間の在任期間に、ドイツ連邦政府の科学研究支出は2倍近くまで増えた。また、連邦政府と州政府は2005年、マックス・プランク学術振興協会、ドイツ研究センターヘルムホルツ協会、ドイツ研究振興協会(DFG;大学研究の主たる研究費助成機関)など、ドイツの主要な科学研究組織への予算を少なくとも毎年3%増やすことで合意している。今回のCDU・CSUとSPDの合意は、この増額を継続する方針も盛り込んだ。

ドイツ研究センターヘルムホルツ協会(ベルリン)会長のOtmar Wiestlerは、「研究開発への支援は、多くの分野で政府の最高の優先事項であり続けることを、あらゆるサインが示しています。これは、とても勇気づけられることです。交通、気候変動、エネルギー供給、個別化医療、情報技術など、重要分野での戦略的な研究活動を行うためには、安定した研究資金を得ることが不可欠です」と話す。

しかし、ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナ(ハレ)会長のJörg Hackerは、「植物での遺伝子工学や、農業での遺伝子操作された生物の使用について、ドイツ国民の支持が低いことは懸念材料です。ドイツは、生命科学についての議論がもっと必要です。技術指向の社会は、CRISPR-Cas技術のような可能性のある進歩に寛容であるべきです」と話す。

ドイツは現在、電力需要の約3分の1を風力、太陽、水力、バイオマスエネルギーで賄っている。両会派・党は、2020年までに風力と太陽エネルギーによる発電容量を約10%増やす計画をすでに発表している。また2030年までに、総発電量のうち、現在の2倍に当たる少なくとも65%を再生可能エネルギーから得ることを目指す方針を打ち出し、地球温暖化対策の目標に法的拘束力を持たせる構想も発表した。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180417

原文

German scientists hope for windfall from incoming government
  • Nature (2018-01-25) | DOI: 10.1038/d41586-018-01026-0
  • Quirin Schiermeier