News & Views

浸透性農薬の根深い問題

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181231

原文:Nature (2018-09-06) | doi: 10.1038/d41586-018-05917-0 | An alternative to controversial pesticides still harms bumblebees

Nigel E. Raine

スルホキシイミン系の農薬への曝露が、マルハナバチのコロニーに重大な悪影響を与えることが示された。この知見は、ハチを殺虫剤にさらすリスクへの懸念がネオニコチノイド類のみに限定されるべきではないことを示唆している。

拡大する

JEF MEUL/ NIS/ MINDEN PICTURES/GETTY

農業の集約化に伴い、我々は農薬に大きく依存するようになった。中でも殺虫剤は、害虫による作物の被害を抑えるのに有用だが、その影響は益虫にも及ぶことがあり、農家が頼りにしている益虫の害虫防除能力や花粉媒介能力1を低下させてしまう可能性がある。実際、殺虫剤使用の増加は、花粉媒介昆虫の世界的な減少と関連付けられている要因の1つである2。特に、「ネオニコチノイド類」と総称される、世界で最も広く使用されている殺虫剤は、ハナバチに対して深刻な悪影響を及ぼすことが明らかになっており、昨今ニュースでも大きく取り上げられている。今回、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校(英国サリー)のHarry Siviterら3は、ネオニコチノイド類の後継品と目されているスルホキシイミン系殺虫剤「スルホキサフロル」もまた、重要な花粉媒介昆虫であるマルハナバチに対して深刻な影響を及ぼすことを明らかにし、Nature 2018年9月6日号109ページに報告した。

花粉媒介昆虫がネオニコチノイド系殺虫剤の施用された植物で採餌を行うと、採餌個体はもちろん、一部のハナバチ種ではその個体が属するコロニーの幼虫も、花粉や花蜜を摂取するたびに少量の殺虫剤にさらされることになる4,5。ハナバチは通常、ネオニコチノイド類への慢性的曝露で死ぬことはないが、学習や採餌などの広範な行動が障害されたり4-8、営巣成功率やコロニーの発達、生殖に悪影響が及んだり7-12、花粉媒介能力が低下したり13といった亜致死的な影響を受けることがある。そのため、欧州をはじめ世界の一部の地域では、ネオニコチノイド類の使用に対して厳しい規制が導入されている。こうした規制は、ハナバチの健康を考えれば朗報といえるが、それは、ネオニコチノイド類に代わる殺虫剤がより害の少ないものである場合に限られるだろう。

ネオニコチノイド類の後継品候補の1つに、スルホキシイミン系の殺虫剤がある14。この殺虫剤もネオニコチノイド類と同様、施用部分から吸収されて植物体全身に浸透移行することで殺虫力を発揮する「浸透性殺虫剤」だ。スルホキシイミン類はすでに、世界各地で使用が認可、もしくは認可が検討されている。しかし、農薬が花粉媒介昆虫に及ぼす亜致死的な影響は、標準的な生態毒性評価では検出されることは滅多にない。そこでSiviterらは、農業で重要な役割を果たしている花粉媒介昆虫セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)において、スルホキシイミン系殺虫剤スルホキサフロルが亜致死的な影響を及ぼすかどうかを調べる先制的評価を行った。セイヨウオオマルハナバチは、野生に広く分布する他、作物の花粉媒介用に商業的に飼育されてもいる。実験には飼育コロニーを使う方が便利だが、研究チームは今回あえて野生の個体を使うことを選んだ。研究の生態学的な実在性を高める、評価に値する決断である。

Siviterらは、野生のセイヨウオオマルハナバチの女王を332匹捕獲して寄生虫検査を行い、寄生虫がいなかった249匹を用いて実験室内の巣箱でコロニーを形成させた。このうち、最終的にコロニーを形成した女王は52匹だったが、これは実験に十分なサンプル数である。続いて研究チームは、コロニーサイズ(ワーカー数)が同等のものをペアにして、一方を対照コロニー、もう一方を曝露コロニーとしてランダムに割り振った。そして、対照コロニーには砂糖水のみ、曝露コロニーには5ppbの濃度のスルホキサフロル(スルホキサフロルの噴霧施用で作物の花蜜に認められるのと同等の濃度)を含む砂糖水を2週間にわたって自由摂取させた。その後、コロニーをペアごとに野外の各地に移動させ(コロニー間での意図しない往来を防ぐため、各ペアの巣箱は20m離して設置した)、ハチの行動とコロニーの発達の様子を記録した。

その結果、スルホキサフロルへの曝露が、コロニーの成長速度に一貫して重大な影響を与えることが明らかになった。しかも、この影響はコロニーを野外に移動させてからわずか2~3週間で表れ始めた。曝露コロニーでは、生まれたワーカーの数が対照コロニーより少なく、誕生した生殖虫(女王と雄)の数も54%少なかった。この大きな差は、主に生まれた雄の総数の減少によって生じたものだが、新たに誕生した36匹の女王全てがわずか3つの対照コロニーに由来するという事実も反映している。女王の誕生数が対照コロニー間で大きく異なっていたことは想定内だったが、翌年の新たなコロニー形成には新たな女王の存在が必要であることを考えると、曝露コロニーで女王が1匹も誕生しなかったことは憂慮される。

コロニー成長と生殖におけるこうした障害は、ネオニコチノイド類への曝露の影響を調査した同様の研究での観察結果と似ている8–10,12,15,16。この類似性は、これら2種の殺虫剤が共に同じ神経伝達物質の受容体に結合することで殺虫作用を発揮するため14、さほど意外ではない。しかし、ネオニコチノイド類に曝露したマルハナバチのコロニーに見られる影響が、花粉採餌能力の障害(これは幼虫の栄養不足につながる)によって引き起こされるようであるのに対し7,8、今回の実験では、スルホキサフロルへの曝露で採餌能力に大きな差が生じたことを示す証拠は得られなかった。コロニー成長の初期段階やその後の生殖生産量に見られた影響は、発生中の幼虫に対するスルホキサフロルの毒性、あるいは他の何らかの間接的機構によってもたらされた可能性がある。いずれにせよ、コロニーの成長が減速したタイミングからは、初期段階での慢性的な亜致死性ストレスによって生殖が大幅に減退したことが示唆される15

殺虫剤の影響を正しく判断するには、施用法(噴霧、土壌灌注、種子処理)によって変わる曝露量を正確に評価する必要がある(図1)。例えば、噴霧では、施用後数日間は曝露量が比較的高濃度になるがその後はすぐに減少するのに対し、種子処理では、花蜜や花粉に殺虫剤が残留し続けることで曝露量は低濃度だがその影響は長期に及ぶ4,5。スルホキサフロルもネオニコチノイド類と同様、噴霧と種子処理の両方での施用が可能だが、現在最も一般的なのは噴霧である。Siviterらの今回の実験は、「マルハナバチは噴霧施用後の作物で花蜜のみを摂取する」という筋書きに基づいて行われた。

図1 マルハナバチの殺虫剤への曝露経路
Siviterら3は、浸透性殺虫剤スルホキサフロルへの曝露がマルハナバチのコロニーにどのような影響を与えるかについて、実験室と野外での実験を組み合わせた複合的な手法で調べた。浸透性殺虫剤への曝露には複数の経路が考えられる。
a 春、殺虫剤で処理された種子がまかれると、播種機から放出された汚染粉塵は圃場全域を漂って、圃場外の野生植物の花にも付着する(赤色のひし形は残留した殺虫剤、赤色の矢印は拡散経路を示す)。土壌中には前年の施用に由来する殺虫剤が残留しており、マルハナバチの女王は、冬眠中に土壌中で直接的な影響を受けたり、土壌中の残留殺虫剤を取り込んだ野生植物の汚染された花蜜や花粉を摂取することによって曝露したりする。
b 夏、殺虫剤処理を受けた種子から育った作物が花を咲かせ、汚染された花蜜や花粉が利用可能になる(赤色の縞模様)。一方、噴霧施用では、作物や近隣の野生植物の花で殺虫剤の濃度が高まる。マルハナバチのワーカーは、殺虫剤が施用された作物と汚染された野生植物の両方から、殺虫剤を含む花蜜や花粉を集めて摂取する17,18他、作物での採餌中、噴霧施用された植物の組織との接触によっても曝露する。ワーカーはさらに、殺虫剤を含む花粉や花蜜をコロニーへ持ち帰り、幼虫はそれを摂取する(図中にはない)。 | 拡大する

この筋書きでは、花以外の植物組織との接触や花粉の摂取による曝露は考慮されておらず、採餌対象となる作物がスルホキサフロル以外の農薬の影響を受けていないことを前提としている。これらはいずれも、実際の環境では曝露量に大きく影響してくる要因だ。また、噴霧以外の方法を用いた場合は曝露の性質も変わってくるだろう。特に、最近の、そして今後導入されるであろうネオニコチノイド類の規制を受け、スルホキサフロルの施用法が多様化する可能性は高い。さらに、スルホキサフロルを種子処理や土壌灌注によって施用した場合には、この殺虫剤が圃場の外へ広がって野生植物に吸収され、それらの花蜜や花粉を汚染することで曝露量を増大させる可能性がある。この影響は実際に、ネオニコチノイド類の種子処理で示されている17,18。そのため、スルホキサフロルの使用がもたらす影響の正確な評価には、ハナバチを誘引する作物の花蜜と花粉に含まれるスルホキサフロルの濃度について、さらに多くのデータが必要となる。

とはいえ、Siviterらの今回の研究は、スルホキサフロルへの曝露がハナバチに及ぼす影響を理解するための重要な第一歩といえる。一方、農業では他の種類の浸透性殺虫剤(ブテノリド類やアントラニルジアミド類など)も使用されているため、今後はネオニコチノイド類とスルホキシイミン類の比較にとどまらない、より幅広い議論が必要になるだろう。そして、数多くの殺虫剤のうち、花粉媒介昆虫にとって潜在的なリスクが最も低いのはどれかを突き止めることが重要だ。しかし、現生のハナバチ類は2万種に上り、そのどれを研究対象とするかなど、比較リスク評価の進め方でその答えは大きく変わってくる。ハナバチ類には、生理、行動、生態に関して高い多様性があるからだ。こうした差異、特に社会性の程度については、殺虫剤に対するハナバチの感受性に影響している可能性がある10,12,19。例えば、低濃度の殺虫剤曝露による影響は、社会性が高くワーカー数が多いコロニーよりも、単独性のハナバチの方が大きいと考えられる。

世界の農業では、商業的に飼育された花粉媒介昆虫(特にミツバチ)が大規模に利用されているが、実際には必要とされる作物の花粉媒介サービスが、これらのハナバチのみで全て賄われるわけではない20。マルハナバチや単独性ハナバチなどの野生の花粉媒介昆虫もまた、役割を担っているのだ。こうした野生昆虫の役割は重要だが過小評価されており、今後作物の花粉媒介に関する需要が増すにつれ、その重要性はさらに高まると考えられる1,20。従って、農薬の花粉媒介昆虫に対するリスクの理解、そして害虫駆除におけるさまざまな選択は、こうした現実を反映させ、それらに見合ったものに発展させていかなければならない。リスクのない選択などないが、今回Siviterらが提示したような情報が増えれば、地球環境および我々が依存する重要な生態系サービス(花粉媒介など)に取り返しのつかない危害を加えることなく、必要な食物の生産方法に関して、最も適切な意思決定を行うことができるようになるだろう。

(翻訳:小林盛方)

Nigel E. Raineは、ゲルフ大学(カナダ・オンタリオ州)に所属。

参考文献

  1. Garibaldi, L. A. et al. Science 339, 1608–1611 (2013).
  2. Vanbergen, A. J. & the Insect Pollinators Initiative. Front. Ecol. Environ. 11, 251–259 (2013).
  3. Siviter, H., Brown, M. J. F. & Leadbeater, E. Nature 561, 109–112 (2018).
  4. Godfray, H. C. J. et al. Proc. R. Soc. B 281, 20140558 (2014).
  5. Godfray, H. C. J. et al. Proc. R. Soc. B 282, 20151821 (2015).
  6. Stanley, D. A. & Raine, N. E. Funct. Ecol. 30, 1132–1139 (2016).
  7. Gill, R. J., Ramos-Rodriguez, O. & Raine, N. E. Nature 491, 105–108 (2012).
  8. Stanley, D. A., Russell, A. L., Morrison, S. J., Rogers, C. & Raine, N. E. J. Appl. Ecol. 53, 1440–1449 (2016).
  9. Whitehorn, P. R., O’Connor, S., Wackers, F. L. & Goulson, D. Science 336, 351–352 (2012).
  10. Rundlöf, M. et al. Nature 521, 77–80 (2015).
  11. Baron, G. L., Jansen, V. A. A., Brown, M. J. F. & Raine, N. E. Nature Ecol. Evol. 1, 1308–1316 (2017).
  12. Woodcock, B. A. et al. Science 356, 1393–1395 (2017).
  13. Stanley, D. A. et al. Nature 528, 548–550 (2015).
  14. Brown, M. J. F. et al. PeerJ 4, e2249 (2016).
  15. Bryden, J., Gill, R. J., Mitton, R. A. A., Raine, N. E. & Jansen, V. A. A. Ecol. Lett. 16, 1463–1469 (2013).
  16. Ellis, C., Park, K. J., Whitehorn, P., David, A. & Goulson, D. Environ. Sci. Technol. 51, 1727–1732 (2017).
  17. Tsvetkov, N. et al. Science 356, 1395–1397 (2017).
  18. Nicholls, E. et al. Environ. Sci. Technol. https://doi.org/10.1021/acs.est.7b06573 (2018).
  19. Arena, M. & Sgolastra, F. Ecotoxicology 23, 324–334 (2014).
  20. Aizen, M. A. & Harder, L. D. Curr. Biol. 19, 915–918 (2009).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度