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ミトコンドリア置換法で想定外のDNA混合

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170712

原文:Nature (2017-04-06) | doi: 10.1038/nature.2017.21761 | Genetic details of controversial 'three-parent baby' revealed

Sara Reardon

置換療法で生まれた男児が母親由来のミトコンドリアDNAを一部持っていることが分かった。だが両親は、長期の経過観察を望んでいないという。

ミトコンドリア置換法で生まれた男児を抱くJohn Zhang。自身のクリニックにて。 | 拡大する

NEW HOPE FERTILITY CLINIC

2016年秋に、ミトコンドリア置換法を使って両親と女性ドナーの計3人に由来するDNAを併せ持つ男の子が生まれたことを、ニューホープ不妊治療センター(米国ニューヨーク)が明らかにした。この手法については議論が多く、実際にヒトで行われたことを受けて科学者らはすぐに警告を発した。一部の研究者は倫理的な理由から抗議し、また一部の研究者は、クリニックの創設者でCEOの医師John Zhangが述べた科学的主張に疑問を投げ掛けた。

その後数カ月にわたって議論や推測が繰り広げられたが、ようやくZhangのチームが2017年4月3日にReproductive Biomedicine Onlineで論文1を発表し、その男児の受胎の経緯について詳細な情報を提供した。しかし、男児の長期的な健康やこの実験的治療の科学的な価値については今も疑問視する声が多い。

ミトコンドリアはエネルギーを産生する細胞小器官で、独自のDNAを持っており、母から子へと受け継がれる。ミトコンドリアDNAの異常によって代謝疾患が起こるが、それが子に受け継がれないようにする1つの方法では「3人の親を持つ子ども」が生まれる。つまり、母親となる女性の異常ミトコンドリアを、健康だが血縁関係のないドナー、つまり「第3の親」のミトコンドリアと置き換えるのである。

今回の場合、Zhangらはまず、健康なドナーの卵から核を除去し、健康なミトコンドリアはそのまま残した中に、ミトコンドリアDNAにリー症候群の原因変異がある母親の卵細胞から取り出した核を移植した(リー症候群は希少な神経疾患で、いわゆるミトコンドリア病の一種である)。Zhangらは次に、この改変した卵を父親の精子で受精させてから、母親の子宮に着床させた。そして、2016年4月にこの男児が生まれたわけである。

Zhangらの論文では、ミトコンドリアを置換するために使った手法などの操作手順が、新たに詳しく報告されている。この研究から、母親由来の変異ミトコンドリアDNAが一部、何らかの事情でドナー卵内に持ち込まれたことも明らかになった。これらの変異DNAが子どもの健康に長期的な影響を及ぼすことも考えられる。

研究者の中には、今回の論文による新しい情報を歓迎する者もいる。「確実なのは、これが画期的な研究だということです」と、ニューヨーク幹細胞財団(NYSCF)の幹細胞科学者Dietrich Egliは話す。

しかし、男児の健康が母親由来の微量のミトコンドリアDNAによって影響を受けるかどうかは、誰にも分からない。これらのDNAが男児のミトコンドリアの一部に働いて不適切に機能させる可能性もあるのだ(Nature ダイジェスト 2016年8月号「ミトコンドリア置換に治療効果がない可能性も?」)。変異ミトコンドリアの含有率は、組織によって違うようである。Zhangらの論文によれば、男児の尿中にある細胞のミトコンドリアDNAのうち、母親由来のDNAはわずか2%だが、切り取られた包皮の細胞では9%だった。

2人の女性に由来する遺伝物質を持つ子どもで、異常ミトコンドリアの量がどれくらいだと目立った症状が現れるのかは、今のところ分かっていない。しかし、マウスでの研究から、由来の異なるミトコンドリアが混在すると神経疾患や代謝疾患が起こり得ることが明らかになっている2

マウスでのこうした実験結果を、ヒトの子のミトコンドリア置換の結果とどのように比較できるのかも、現状では明らかでない。「ヒトで分かることは、何であろうと全く新しいことなのです」とEgliは話す。

ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生を担う重要な細胞小器官である。 | 拡大する

CNRI/SPL/Getty

助言と同意

前述のような疑問の答えを、Zhangのクリニックで生まれた男児から得ることはできそうにない。今回の研究で男児の両親は、治療に必要でない限り、子どものミトコンドリア検査を今後も行うことを望んでいないからだ。また、同クリニックがこの家族に対して長期経過観察に同意してくれるよう働きかけたかどうかも明らかでない。この問題に関して、NatureはZhangとニューホープ不妊治療センターに問い合わせてコメントを求めたが、回答は得られなかった。

この男児の成長を追うことができなければ、今回の実験的治療の価値は限定されてしまうだろうとEgliは言う。「この置換手法を治療法として使おうと急ぐあまり、両親に『これは治療です』と話したように思えます。こうした手法の結果がどんなものか、ほとんどまだ分かっていない時点でですよ」。

ヒトを対象とする研究の指針は一般に、研究への参加を途中でやめられることを要件としている。実際に被験者が途中で参加をやめてしまった場合、その治療法が安全かどうかを判断するのが難しくなる可能性があると、ウィスコンシン大学マディソン校(米国)の生命倫理学者Alta Charoは話す。彼女によれば、今回の場合、長期経過観察がどのようにして子どもにも科学にも利益をもたらすかを正しく理解するための十分な情報が、両親に提供されたのかどうかは不明だという。

この研究論文と同じ号に掲載された3ページにわたる論説3によれば、Zhangらはこの両親に、彼らの卵が実験的手法で処理されることを認める同意書に署名してくれるよう依頼したと述べている。しかし、その同意書は実験手順を表面的になぞって記述してあるだけで、この手法を使って子どもを作ることの潜在的リスクを両親に伝えてはいなかった。

男児自身から同意を得ることは当然無理であり、「医師や両親が、生まれてくる子どもの最大利益を守るために果たすべき責務はさらに大きかったのです」と、マイアミ大学(米国フロリダ州)の法学者Rosario Isasiは話す。Zhangは論文内で、両親は「ミトコンドリア置換法を使った治療についての慎重な助言」を受けたと述べている。

2017年3月末、ZhangはNatureに、彼のチームがこの置換法の試験を継続し、妊娠出産を希望する42〜47歳の女性たちの卵を使って試験する予定だと話した。Zhangらは、若いドナーの細胞に由来するミトコンドリアが、高齢女性の卵の受精能力や正常に発生する能力を高められるかどうかをぜひ探りたいと考えている。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Zhang, J. et al. Reprod. Biomed. Online 34, 361–368 (2017).
  2. Wallace, D. C. et al. Cold Spring Harb. Perspect. Biol.. 5, a021220 (2013).
  3. Alikani, M., Fauser, B. C. J., Garcia-Valesco, J. A., Simpson, J. L. & Johnson, M. H. Reprod. Biomed. Online 34, 333–368 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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