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ウイルスも会話する

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170302

原文:Nature (2017-01-18) | doi: 10.1038/nature.2017.21313 | Do you speak virus? Phages caught sending chemical messages

Ewen Callaway

細菌に感染するウイルスの一種は、祖先ウイルスからメッセージを受信し、それに従って宿主に対する攻撃法を決めていることが明らかになった。

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DAVID MACK/SPL/Getty

ウイルスは、祖先ウイルスが残した化学シグナルを感知することにより、宿主を殺すか、ただ感染するにとどめておくかを決めることが明らかになった。この「ウイルス同士の会話」は、バチルス(Bacillus)属の細菌を宿主とするウイルスで見つかった。

今回の発見は、あらゆるタイプのウイルスコミュニケーション系に関する報告として初めてのものである。だが研究者たちは、他の多くのウイルスもそれらに固有の分子言語を介してコミュニケーションを取り合っている可能性があり、おそらくヒト疾患の原因となるウイルスでも行われているだろうと言う。もしそうであるなら、ウイルスの攻撃を阻む新しい方法を科学者たちは見つけたのかもしれない。

この秘密のウイルス暗号を見つけたのは、ワイツマン科学研究所(イスラエル・レホボト)の微生物遺伝学者Rotem Sorekが率いる研究チームだった。彼らの発見はNature 2017年1月26日号に発表された1

「これは科学界に変革をもたらす論文の1つとなるでしょう」とレスター大学(英国)でバクテリオファージ(細菌に感染するウイルス)の研究を行っている微生物学者Martha Clokieは言う。

感染シグナル

Sorekの研究チームは、枯草菌(Bacillus subtilis)と呼ばれる細菌が、他の細菌に向けてファージに関する警告を発するという可能性を証明するための証拠を探していた。研究者たちは、細菌が一連の化学物質を分泌し、それらを感知することによって、仲間と対話することを知っていた。クオラムセンシングと呼ばれるこの現象により、細菌は周りに存在している細菌の数に従って行動を調整することができる。例えば、細菌はクオラムセンシングを用いて、分裂すべきかどうかや、いつ感染を始めるべきかを決める。

ところが研究チームがつかんだのは、目的とする「細菌の会話」の証拠ではなく、「ウイルスの会話」の証拠であった。バチルス属の細菌に侵入するウイルスでphi3Tと呼ばれるファージは、ある化合物を作り出し、それによって仲間のウイルスの行動に影響を与えるという、驚きの結果を得たのだ。

一部のファージは2つの異なった方法で細胞に感染することができる。通常、ファージは宿主細胞を乗っ取って、宿主が破裂して死ぬ(溶菌)まで増殖を続ける。しかし時には、ファージが自身の遺伝物質を宿主のゲノムに挿入して細菌の増殖によって複製されるだけにとどめ(溶原化)、ある引き金によって再び目覚めて増殖を開始するまで休眠してしまうことがある。

今回新たに発見されたウイルスのコミュニケーション系は、このようなphi3Tの感染の仕方を変化させる。

研究チームはまず、枯草菌の入ったフラスコにphi3Tを注入した。すると、ウイルスは細菌を殺す傾向があることが分かった。次にそのフラスコの中身をフィルターにかけて、細菌とウイルスを除去した。この「訓化培養液」には小さなタンパク質は残っており、これを細菌とファージの新鮮な培地に加えた。するとファージの行動に変化が現れた。ファージは細菌を殺さず、細菌のゲノムに自身のゲノムを挿入する傾向が強くなった。研究チームはこの現象に関与していると思われる未知の分子に、ラテン語の「意志による決定」という単語にちなんで「arbitrium」という名前をつけ、その正体を突き止める研究を始めた。

「憎らしいほど素晴らしい」

2年半にわたる研究により、Sorekと大学院生のZohar Erezは、arbitriumが短いウイルスペプチドであり、感染した細菌が死んだ後に細菌から放出されることを見いだした。多数の細胞が死んでarbitriumのレベルが上昇すると、ファージは残っている細菌を皆殺しにするのをやめて、細菌のゲノム内で休眠状態に入る。SorekとErezと研究チームは、さらに2つのphi3Tタンパク質を特定した。これらのタンパク質はarbitriumのレベルを測る役割を担い、その後の感染の性質に影響を与える。

a. Sorekらの研究チームは、枯草菌にphi3Tファージを感染させる実験から、ファージのコミュニケーションツールを発見した。ファージDNAから作られるAimPというタンパク質が酵素で切断されてできた未知のペプチド「arbitrium」は、菌体外に放出され、菌の周囲にメッセージとして残される。
b. Arbitriumは、周囲の細菌にオリゴペプチドパーミアーゼ(OPP)を介して取り込まれる。Arbitriumを受け取ったファージは、その量が少なければ宿主を破壊(溶菌)するまで増殖する。
c. 一方、受け取ったArbitriumの量が多ければ、ファージは細菌ゲノムに自身のゲノムを挿入して休眠状態(溶原化)となり、宿主を破壊しない。 | 拡大する

Nature 541, 466–467

「これは非常に合点のいく結果です」とオタゴ大学(ニュージーランド・ダニーディン)の微生物遺伝学者Peter Fineranは言う。「もしファージが宿主細胞を使い果たしつつあるなら、ファージは宿主の破壊を制限して、宿主が再び増えてくるのを静かに待つでしょう」。

この新しい研究は「憎らしいほど素晴らしい」とClokieは言う。「私は培地に何かあるかどうかを調べるためにそのような実験をすることを考えてきました」。彼女は他のファージ生物学者たちが別のコミュニケーション系を発見することにも期待を寄せている。Sorekの研究チームは100以上の異なるarbitrium様の系を発見しており、それらの大部分はバチルス属を宿主とする他のウイルスのゲノム中に発見された。「ファージは異なった周波数で情報を発します。ファージは異なった言語で話し、自分たちが話す言語だけを聞き取ることができるのです」と彼は付け加える。

Sorekは、ヒトなどもっと複雑な生物に感染するウイルスも互いに会話するのではないかとさえ考えている。HIVとヘルペスウイルスは活動性感染と潜在的な感染の両方を引き起こすことができる、と彼は指摘する。「もしウイルスを完全に休眠させてしまえるような分子が見つかれば、優れた薬となるでしょう」。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Rotem, S. et al. Nature 541, 488– 493 (2017)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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