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巨大衝突クレーターの形成過程が明らかに

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170210

原文:Nature (2016-11-24) | doi: 10.1038/nature.2016.20994 | Rock core from dinosaur-killing impact reveals how enormous craters form

Alexandra Witze

恐竜絶滅のきっかけとされている小惑星衝突の巨大クレーターで大規模な掘削プロジェクトが行われ、得られたコアサンプルから、謎の環状構造「ピークリング」の起源をはじめ、巨大衝突クレーターの形成過程の詳細が明らかになった。

チクシュルーブ・クレーターの掘削調査で回収されたコア。ピンクがかった花崗岩の結晶からは、クレーターの形成過程に関する重要な手掛かりが得られた。 | 拡大する

DSMITH@ECORD

メキシコ・ユカタン半島の海底下には、約6600万年前の小惑星衝突によって形成された、直径200kmに及ぶ巨大な「チクシュルーブ・クレーター(チチュルブ・クレーターとも呼ばれる)」が埋没している。この小惑星衝突は、地球規模の劇的な環境変化をもたらして恐竜を絶滅に追いやった原因として有名だが、衝突クレーター自体については、地下数百mの深さに埋没していて直接的な調査が難しいため、その構造や形成過程はこれまで推測の域を脱していなかった。そんな中、2016年春に国際的な大規模プロジェクト「国際深海科学掘削計画(IODP)」の一環としてチクシュルーブ・クレーターの掘削探査が行われ、その分析結果の第一弾がScience 2016年11月18日号に発表された1

掘削は、「ピークリング」と呼ばれる巨大な天体衝突クレーターの内部に見られる特徴的な環状構造(中心を取り囲むように環状に連なった山脈)の場所で行われ、その起源や形成過程が今回解明されたことで、月や金星の表面に見られる同様のクレーターの形成過程も解明が進むと期待される。また、今回の分析結果からは、チクシュルーブ・クレーターを形成した小惑星の衝突が、恐竜を絶滅に追いやった一方で、他の生物が繁栄できる環境を作り出していた可能性も示された。天体衝突によって岩石が粉砕されたことで、微生物が移り住むことのできる空間と暖かい環境を作り出したと考えられるのだ。

月惑星研究所(米国テキサス州ヒューストン)の地質学者David Kringは、「想像し得る以上の見事なコアを手に入れることができました」と言う。「本当に信じられないくらい素晴らしいコアなのです」。

今回のチクシュルーブ・クレーター掘削探査計画は、10年間に及ぶ準備期間を経て、2016年4月から5月にかけて実施された。場所はメキシコ・ユカタン半島プログレソ沖の海底で、堆積層の表層を除く深さ505.7〜1334.7mのコアが回収された。コアサンプルを分析した結果、深さ618mの所でピークリングの岩石層が現れ、深さ748mから下ではピンクがかった花崗岩を含む層が確認された。これらの花崗岩は結晶が大きいことから、地殻内の比較的深い所、おそらく地下8~10kmに由来すると考えられる。火成岩は、溶融した岩石(マグマ)が地下深くでゆっくりと冷却されると大きな結晶を形成するが、浅い所で急激に冷却されると小さな結晶を形成する傾向があるからだ。今回得られた掘削コアでは、花崗岩が比較的浅い場所で発見されており、これは、深部にあった花崗岩が何らかの力によって高く持ち上げられ、他の岩石の上に投げ落とされたことを意味している。

月面にある巨大な衝突クレーター、シュレーディンガー・クレーター。クレーターの内部には「ピークリング」と呼ばれる環状構造が見られる。 | 拡大する

NASA SVS

天体衝突によるクレーター形成のモデルの1つに、粉砕された岩石のほとんどがボウルに入った熱いスープのようにその場にとどまってクレーターを形成したとするものがあるが、今回得られた花崗岩に関する知見はこれを除外し、むしろ「動的崩壊モデル」を支持している。動的崩壊モデルとは、小惑星の衝突によって地殻に深い穴があき、その衝撃で岩石が液体さながらに流動して空高く吹き上がった後に地表に落下し、それが降り積もってできた中央丘が高くなり過ぎて崩壊してピークリングを形成したというものだ。

インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)の地球物理学者Joanna Morganと共に今回の掘削探査チームを率いたテキサス大学オースティン校(米国)の地球物理学者Sean Gulickは、「私たちが見ているピークリングの環状構造は、地中深くにあった岩石が舞い上がって地表に出てきたものなのです」と説明する。

快適な住環境

チクシュルーブ・クレーターのピークリングが動的崩壊によって形成されたことが分かったことで、他の天体を探索する新しい方法が見えてきた、とKringは言う。彼らは、月にある直径約320kmの「シュレーディンガー・クレーター」のピークリングが、チクシュルーブのそれと同様に、地殻の深い所に由来する物質でできていることをスペクトルデータや画像データの解析に基づいて示し、2016年10月26日付でNature Communicationsに発表している2。これは将来、ロボットや宇宙飛行士がこのクレーターを訪れた際、ピークリングのサンプルを採集するだけで月の内部の情報が得られることを意味する。

地球上の衝突クレーターの中でピークリングを持つことが確実に分かっているものはチクシュルーブ・クレーターしかない。2016年7月、新たな月の観測データに基づいて衝突クレーターにおけるピークリングの形成モデルを検証した論文3を発表したNASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の惑星科学者David Bakerは、他の天体の衝突クレーターのピークリングを調べることで、別の環境でも動的崩壊モデルが成り立つかどうかを確認できると説明する。

今回得られたチクシュルーブの掘削コアはまた、地震波がピークリングの岩石中を驚くほどゆっくり進むのはなぜかという、地球物理学における長年の謎も解き明かしている。ピークリング中の花崗岩は、小惑星の衝突によって激しく粉砕された結果、典型的な花崗岩に比べて密度が大幅に低くなり、これが地震波の進む速度を遅くしていたのだ。

岩石の密度が低いということは内部に空洞が多いことを意味しており、従って微生物が動き回れる空間がたくさんあることになる。小惑星が衝突した直後のクレーター内はどんな生物をも死滅させるような高温だったと考えられるが、温度がある程度下がった後に、残った熱と空間をうまく利用する生物が現れた可能性がある。「生命は、新たに形成された多孔質の岩石中にどうにかして入り込み、その環境を利用して自分たちのすみかとしたのでしょう」とGulick。だとすれば、地中に残された化学エネルギーと熱を利用することで、太陽の光が届かない地中深くで数百万年にわたり、独自の生物圏が進化してきた可能性もある。

チクシュルーブの掘削コアサンプルからは、細胞や微生物DNAも発見されているが、その詳細については今後の論文発表を待たなければならないだろう。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Morgan, J. V. et al. Science 354, 878–882 (2016).
  2. Kring, D. A., Kramer, G. Y., Collins, G. S., Potter, R. W. K. & Chandnani, M. Nature Commun. 7, 13161 (2016). 

  3. Baker, D. M. H., Head, J. W., Collins, G. S.& Potter, R. W. K. Icarus 273, 146–163 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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