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高エネルギー宇宙線の起源は銀河系外

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171214

原文:Nature (2017-09-28) | doi: 10.1038/nature.2017.22655 | High-energy cosmic rays come from outside our Galaxy

Davide Castelvecchi

最も高エネルギーの宇宙線の起源は銀河系外であることが、アルゼンチンにある巨大観測所の12年間の観測で確かめられた。

高エネルギーの宇宙線が大気中で粒子のシャワーを作り出す様子の想像図。 | 拡大する

A. CHANTELAUZE/S. STAFFI/L. BRET

最も高エネルギーの宇宙線がどこから地球にやって来るのかはまだ分かっていないが、少なくとも私たちの住む銀河系(天の川銀河)の外から来ていることが、アルゼンチンにあるピエール・オージェ観測所の12年間にわたる観測で確かめられた。科学者たちは数十年前からこれを予想していたが、確かめられていなかった。

この観測を行ったのは同観測所で研究を行っている国際共同研究チームで、Science 2017年9月22日号に報告した(Science 357, 1266–1270; 2017)。今回の報告は、個別の宇宙線の源が何であるかや、宇宙線が高いエネルギーに達する理由は説明していないが、研究者たちは、宇宙線の起源の解明に向けた第一歩になると期待している。

宇宙線は、多くは陽子や原子核などの荷電粒子で、鉄のように重い原子核も含まれている。宇宙線粒子が地球大気の原子核と衝突すると複数の二次粒子が生じ、二次粒子がまた別の原子核に衝突するなどしてさらに多くの粒子が発生し、粒子のシャワー(空気シャワー)を作り出す。空気シャワーは、地面に達するまでに広がり、例えば、エネルギーが1019電子ボルト(eV)の高エネルギー宇宙線では、1010個の粒子が発生し、シャワーは20km2にも広がる。

ピエール・オージェ観測所は、アルゼンチン・メンドサ州のアンデス山脈に近い草原に建設された、世界最大の宇宙線観測所だ。東京都を上回る3000km2の面積に、入射粒子によるチェレンコフ光を検出する水タンク(円筒形で底面積10m2、深さ1.2m、水量は12トン)1600基を1.5km間隔で格子状に配置し、空気シャワーを捉える。各タンクでの粒子の検出時刻の差により、宇宙線の飛来方向を1度未満の角度分解能で決定できる。

ピエール・オージェ観測所の空気シャワー検出用水タンク。入射粒子によるチェレンコフ光を捉える。このタンクが1.5km間隔で1600基設置されている。 | 拡大する

The Pierre Auger Observatory

タンクとは別に、4カ所に計24基の望遠鏡が設置されていて、水タンクアレイの上空を監視し、夜間、空気中の窒素分子がシャワーによって励起されて出す紫外光の蛍光を捉える。観測所は赤道に比較的近く、天球の85%からの宇宙線を捉えることができる。

この観測所がこれほど大きいのは、まれにしかやって来ない高エネルギーの粒子をなるべくたくさん捕まえるためだ。宇宙線の中には、1020eVを超えるエネルギーを持つものが見つかっている。ちなみに、世界で最も強力な粒子加速器である大型ハドロン衝突型加速器(LHC;スイス・ジュネーブ近郊)で加速された陽子のエネルギーは7×1012eVにすぎない。しかし、エネルギーが高い宇宙線ほど、飛来の頻度は少なくなる。1019eV以上の粒子は、平均して地球の1km2当たりに1年に1個しかやって来ない。

研究チームは、2004年1月の観測開始から2016年8月までに同観測所で検出された、8×1018eVを超えるエネルギーを持った3万2187個の宇宙線を調べた。その結果、宇宙のある方向を中心とした半球から飛来するものが平均より少し多く、その反対方向を中心とした半球から飛来するものは平均より少し少ないことが分かった。その平均からのずれの振幅(大きさ)は6.5%だった。多い方向の中心は、赤経100度、赤緯マイナス24度の方向で、銀河系の中心方向から約125度離れている。また、この方向には銀河が比較的多い。

銀河系の磁場は、荷電粒子の経路を曲げる。このため、荷電粒子が地球に衝突するまでにその方向は曲げられている可能性があるが、超高エネルギーの粒子は曲がり方は少ないはずだ。

予想外の偏り

英国の天文学者でこの観測所の共同設立者であるAlan Watsonは、「最も高エネルギーの宇宙線の起源は銀河系外だという証拠が初めて得られました」と話す。

フランス国立科学研究センター(CNRS)国立原子核・素粒子物理学研究所(オルセー)の宇宙粒子物理学者で、データ分析の調整を手伝ったPiera Ghiaは「研究者たちの多くは飛来方向の偏りを予想していましたが、これほど大きな偏りがあるとは思っていませんでした」と話す。ウィスコンシン大学マディソン校(米国)の宇宙物理学者Francis Halzenも「偏りは本当にとても大きく、驚きでした」と同意する。Halzenは、南極のIceCubeニュートリノ観測所の研究責任者だ。

研究チームの一員である、バルセイロ研究所(アルゼンチンのサンカルロス・デ・バリローチェ)の宇宙物理学者Silvia Mollerachは、「磁場による偏向を考慮すると、ピエール・オージェ観測所が見いだした分布は、銀河系から約90メガパーセク(約3億光年)以内にある銀河の分布と一致します」と話す。

今回の結果は、高エネルギー粒子の主要な源は、銀河系の中心にある超大質量ブラックホールだ、という考えを強く否定する。「その源として最も可能性が高いのは、これまでも候補に挙がっていたものです」とMollerachは話す。つまり、荷電粒子にエネルギーを与える、極端に強い磁場を作る宇宙物理学現象だ。具体的には、活動銀河核(光速に近い速度で物質のジェットを吐き出す超大質量ブラックホール)やガンマ線バーストなどがある。

今回の報告は、この国際共同研究チームが2007年に発表した論文と比べればとても控えめだ。研究チームはこのとき、その時点までに観測した、57×1018eVを超える27例の高エネルギー宇宙線の飛来方向が、銀河系近隣の活動銀河核の分布に近いことを報告した(Science 318, 938–943; 2007)。この論文は物議を醸したが、結果の統計的有意性は低く、観測所がさらに多くのデータを集めるとはっきりしなくなった。

同観測所のスポークスパーソンで、ブッパータール大学(ドイツ)の物理学者Karl-Heinz Kampertは「今考えれば、観測結果の発表を急ぎ過ぎたことは失敗でした」と振り返る。彼は「今回、研究チームは危険を冒していません。ずっと多くのデータを蓄積し、結果が確実であることに自信があります」と話す。Halzenも「今回の結果の統計的有意性に疑いの余地はありません」と話す。

研究チームは、かつてをはるかに上回るデータを基に、再び、宇宙線源候補天体と宇宙線の分布との相関を見つけようと試みるだろう。その結果は数カ月以内に発表されるはずだ。研究チームは、米国ユタ州にある宇宙線観測所「テレスコープ・アレイ」と協力し、宇宙線の空全体の分布を調べることも計画している。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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