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生態学者らが大規模な再現研究を実施

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171119

原文:Nature (2017-08-17) | doi: 10.1038/548271a | Why 14 ecology labs teamed up to watch grass grow

Ewen Callaway

野外研究の信頼性向上への筋道をつけるため、欧州の複数研究室が「研究の再現性」を確かめる実験を行った。

再現実験を行うため、複数の研究室がイネ科のモデル植物ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)をさまざまな環境下で育生した。 | 拡大する

Monty Rakusen/Cultura/Getty

欧州各地14の生態学研究室が手を組み、同一の土壌と種子を使って草本の生育を観察するという、異例の「再現性を確認する」研究が行われた。生態学研究の信頼性向上を目的として開始された活動の一環であるこの研究の成果は、2017年8月8日にプレプリントサーバーbioRxivで公開された(A. Milcu et al.; Preprint at bioRxiv http://dx.doi.org/10.1101/080119; 2017)。

近年科学界では「再現性の危機」(Nature ダイジェスト 2016年 8月号「『再現性の危機』はあるか?」参照)が認識されつつあり、心理学と生物医科学の分野では特に、この問題の改善を目指した議論が盛んに行われている。この流れを受け、生態学者らも自らの領域の研究結果の信頼性に疑念を受ける恐れを認識し始めている。そうした学者の1人であるフロリダ大学(米国ゲインズビル)の植物生態学者Emilio Brunaは、2017年5月、一度も反復されたことがない「重大な熱帯生物学実験10件の再現実験を行わないか」という提案を各方面へ行った。

しかし、Brunaによれば、野外実験の反復には懐疑的な生態学者が多く、生態学的野外研究では決して同じ結果を得ることができないという主張もあるという。例えば、パナマの森林で行われた研究の結果は、コスタリカでは再現できないかもしれない。たとえ樹木が同じ種であったとしても、他の環境要因、例えば周囲の草食動物は異なる可能性があるからだ。

「『全ての研究はひとひらの雪だ。あなたが私の研究を再現しようとして結果が同じにならなければ、それは条件が違うせいであって、再現性の検証には意味がないのだ』と言う人々がいるのです」。こう話すTim Parkerは、ホイットマンカレッジ(米国ワシントン州ワラワラ)の生態学者で、大学生が将来再現研究に参加できるようになることを目指した授業科目群に携わっている。

フランス政府の基礎研究機関CNRSが運営する人工生態系エコトロン(モンフェリエシュルレ)で今回の草本栽培研究を主導した生態学者Alexandru Milcuによれば、そういった反論は、実験室で行われる単純化されたモデル生態系実験の再現性にも当てはまるという。「試料など、実験に関わる全てのものの標準化に取り組むことは可能ですが、実験に影響を与える変数を全て考慮に入れることはできません。研究者自身、気付いてすらいないものもあるからです」とMilcuは話す。

そこでMilcuは、少なくとも実験室での研究に関しては、実験に多様性を組み込むことにより結論の確かさを増すことを提案している。このアイデアは、2010年に行われたマウス研究にヒントを得ている。マウスの年齢やケージの数などの要因を意図的に変化させると、行動試験でおかしな結果が出ることが少なくなることを発見した研究だ(S. H. Richter et al. Nature Meth. 7, 167–168; 2010)。

Milcuらは、イネ科草本がマメ科植物(大気から窒素を取り込んで土壌を肥やす)と組み合わされた場合によく生育するという原理を検討した。これは広く支持された理論であり、クローバーなどのマメ科植物を利用した輪作の根拠となっている。あるセットの実験では、14の研究室ができる限り全ての変数を制御し、別のセットでは、意図的にさまざまな土壌条件で系統が混ざった草本を播種した。まだ査読は行われていないものの、この研究によって、イネ科草本とマメ科植物を一緒に栽培することで得られる利益について、管理強度が低い実験では各研究室の結論が同様の結論に達しやすいことが分かった。Milcuによれば、各研究室のデータのノイズを増やすことで、多くの条件下で一般化が可能な、確かな影響が際立つのだという。Milcuはこの戦略について、特定の系では、小さくても重要な局地的影響が見過ごされる可能性があると認めながらも、この可能性は実験の規模を大きくすることで緩和できるだろうという。この考え方を野外研究にどう反映できるかは不明だが、Milcuは探る価値があると考えている。

Brunaは、生態学者らの再現研究に対する抵抗感は、再現研究の目標と、再現研究が生態学の理論に与える影響に対して誤解しているせいだと考えている。Brunaによれば、再現研究は、研究を完全に復元しなくても有用なのだという。というのも、ある熱帯生態系で観察された影響が別の熱帯生態系に当てはまらないとみられることは、元の研究が誤っていたことを意味するわけではないからだ。「我々生態学者は、これほどのばらつきが生じる理由を探りたいのです」とBrunaは話す。「多くの人は、『木を見て森を見ず』になっているように思われます」。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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