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不適切な較正が覆い隠した海面上昇

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171009

原文:Nature (2017-07-20) | doi: 10.1038/nature.2017.22312 | Satellite snafu masked true sea-level rise for decades

Jeff Tollefson

人工衛星による海面高度データを複数研究者が再計算した結果、海面上昇のペースが加速していることが裏付けられた。

グリーンランドの氷床の融解は世界の海面上昇に寄与している。 | 拡大する

JOE RAEDLE/GETTY

その数字はつじつまが合っていなかった。地球が温暖化し、氷河や氷床が融解しているにもかかわらず、人工衛星による数十年分の観測データは、海面上昇のペースが一定か、あるいは減速さえしていると言っているように見えた。

この矛盾を長年不思議に思ってきた科学者たちは、ついにその原因を特定した。これまで数基の人工衛星がレーダーを使って海面高度を測定してきたが、その中で最初に打ち上げられたものに搭載されていたセンサーの較正に問題があったのだ。データを調整して誤差を除去すると、やはり海面上昇のペースは年々速くなっていることが分かった。

コロラド大学ボールダー校(米国)のリモートセンシングの専門家で、今回の再分析を主導したSteven Neremは、「海面上昇のペースは速まっていて、その加速は基本的に私たちが予想したとおりです」と言う。彼は、世界気候研究計画(WCRP)と政府間海洋学委員会(IOC)が2017年7月中旬に米国ニューヨークで主催した海面上昇に関する学会で未発表データを発表した。

Neremのチームの計算によると、海面上昇のペースは1993年には1年に約1.8mmだったが、地球温暖化の結果、現在は約3.9mmに速まっているという。彼の分析には、人工衛星の較正のミスに加えて、1991年のフィリピンのピナツボ火山の噴火や近年のエルニーニョなど、この数十年間の海面上昇に影響を及ぼした現象も考慮されている。

Neremらの研究の結果は、TOPEX/ポセイドン衛星による初期の海面高度の観測データに疑問を投げかけた最近の3つの研究の結果ともよく一致している。TOPEX/ポセイドン衛星は米国とフランスの合同ミッションで、1992年末に海面高度の観測を開始し、2006年の運用終了後は3基の人工衛星がデータ収集を引き継いだ。

宇宙地球物理学・海洋学研究所(LEGOS;フランス・トゥールーズ)の地球物理学者Anny Cazenaveは、「私たちは、さまざまなやり方で同じ結論にたどり着いたのです」と言う。

4月にGeophysical Research Letters1に発表された分析では、Cazenaveのチームは、海水の温度上昇による膨張やグリーンランドの氷の融解など、海面上昇に寄与するさまざまな要因を計算していった。その結果は、人工衛星による海面高度の測定値が最初の6年間は高すぎたことを示していた。それ以降はTOPEX/ポセイドン衛星の予備のセンサーが使われるようになったが、初期の測定値の誤差は見えてくる傾向を歪ませ、海面上昇のペースの長期的な加速を覆い隠した。

不具合の修正

この問題に最初に気付いたのはニューサウスウェールズ大学(オーストラリア・シドニー)の海洋学者John Churchらの研究チームで、2015年のことだった。研究者たちは、人工衛星が収集した海面高度のデータと、世界各地に設置された検潮器のデータとの間に食い違いがあることに気付いた2。2017年6月にNature Climate Changeに発表された第2の論文3では、研究チームは明らかな偏りについて海面高度の記録を調節してから、Cazenaveらと同様の手法を用いて海面上昇のペースを計算した。両者の傾向はよく一致していたと彼らは言う。

Neremはさらに、人工衛星による測定値がおかしくなった理由を突き止めようと考えた。彼のチームはまず、人工衛星による測定データを、海面上昇の加速を示す検潮器からのデータセットと比較した。それから、2つのデータの違いを説明できるような要因を探した。

研究チームはやがて、TOPEX/ポセイドン衛星の高度計に組み込まれていた小さな較正を特定した。それは、電子部品の劣化などによる装置の問題から生じ得るデータの不備を修正するためのものだった。この較正が必要とは思えなかったNeremらがこれを除去すると、人工衛星による初期の海面上昇の観測データは、検潮器のデータとさらによく一致した。調整されたデータは、海面上昇のペースが時間とともに加速していることを示していた。

NASAのゴダード宇宙科学研究所(米国ニューヨーク)の所長である気象科学者のGavin Schmidtは、「記録が長くなるにつれ、いろいろな疑問が湧いてくるのです」と言う。けれども最近の多くの研究は、科学者たちが1つの答えに向かっていることを示しているという。

Neremは、海面上昇が現在のペースで加速し続けるなら、世界の海面は22世紀には約75cmも上昇するかもしれないと見ている。この予想は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に発表した推定とよく一致している。

「どの研究も、私たちの現状認識を裏付けています」とChurchは言い、人類は直ちに温室効果ガスの排出量を減らさなければならないと主張する。「私たちが今すぐ決断を行えば、その効果は何百年も何千年も続くのです」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Dieng,H.B.,Cazenave,A.,Meyssignac,B.& Ablain, M. Geophys. Res. Lett. 44, 3744–3751 (2017).
  2. Watson,C.S.,White,N.J.,Church,J.A.,King, M. A., Burgette, R. J. & Legresy, B. Nature Clim. Change 5, 565–568 (2015).
  3. Chen,X.et al. Nature Clim. Change 7,492–495 (2017). 


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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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