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CRISPRマッシュルームは米国では規制対象外に

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160714

原文:Nature (2016-04-21) | doi: 10.1038/nature.2016.19754 | Gene-edited CRISPR mushroom escapes US regulation

Emily Waltz

CRISPR–Cas9法で作製されたキノコが、当局の監督を受けずに栽培・販売できることになった。

褐変しにくくなるように改変されたマッシュルーム(Agaricus bisporus)。 | 拡大する

STUART MCCALL/GETTY

米国農務省(USDA)は、遺伝子編集ツールCRISPR–Cas9で遺伝子を操作したマッシュルーム(ツクリタケ)について、規制する意思がないことを言明した。つまり、当局の規制プロセスを経ずにそのマッシュルームの栽培と販売を行えることを意味しており、関係者にとって待望の決定であった。

これにより、そのマッシュルームは、米国政府からゴーサインを得た最初のCRISPR編集生物となった。中国科学院遺伝学発生生物学研究所(北京)の植物生物学者Caixia Gao(高彩霞)は、「この研究の関係者にとって、とてもよいニュースです」と喜ぶ(Gaoはそのマッシュルームの開発に関与していない)。「当局の規制対象から外れる遺伝子編集作物がさらに増えることは間違いありません」。

このツクリタケ(Agaricus bisporus)を作製したのは、ペンシルベニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)の植物病理学者Yinong Yangだ。彼は、ツクリタケの褐変の克服を目指し、褐変を引き起こす酵素「ポリフェノールオキシターゼ(PPO)」をコードする遺伝子のファミリーを標的にCRISPR–Cas9を使って遺伝子を編集した。マッシュルームゲノム中のわずか数塩基対を削除することにより、Yangは6個あるPPO遺伝子のうち1個をノックアウトし、酵素活性を30%低下させることに成功した。

当局のルール

このマッシュルームは、過去5年間にUSDAの規制制度を回避した約30種類の遺伝子改変生物(GMO)のうちの1つだ。いずれのケースでも、USDAの動植物検疫局は、「その生物(多くは植物)は規制すべきものには該当しない」と表明した。ただし、いったんUSDAの審査を通過した作物であっても、その後米国食品医薬品局(FDA)による任意の審査を受ける場合もある。

USDAをやり過ごした植物の中には、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)法やTALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)法のような遺伝子編集技術で作製されたものがある。しかしこれまで、科学界で最も注目されているCRISPR–Cas9というツールによって作製された生物もUSDAが同じように認めるかどうかは分からなかった。

2015年10月、YangはUSDA動植物検疫局の担当者に促され、そのキノコをUSDA規制当局の小部会で実際に提示してみた。会合では、「とても感激され、確かに関心と前向きな感触が得られた」とYangは話す。彼はその月のうちに、USDAに正式な照会状を出した。

USDAからYangへの回答は、2016年4月13日に発信された(nature.asia/28KKfsz)。それによれば、「APHIS(USDA動植物検疫局)は、貴殿の2015年10月30日付の書面に記されているCRISPR/Cas9編集マッシュルームを規制すべきものとは考えない」というものであった。

YangのマッシュルームがUSDAの規制対象にならなかったのは、ウイルスや細菌などの「植物病原体」に由来する外来DNAを含まないからだ。植物病原体は、米国政府がGMO規制の枠組みを構築した1980~90年代当時、遺伝子組換え植物や菌類に不可欠だった。しかし現在、そうした生物を使わない新しい遺伝子編集技術が登場し、またたく間に古いツールに取って代わりつつある。

米国は、一括して「バイオテクノロジー規制の調和的枠組み(Coordinated Framework for Regulation of Biotechnology)」として知られるGMO規制のルールを改定しようとしている。米国科学工学医学アカデミーはその目標を達成するため、今後5~10年の間にバイオテクノロジー製品でどのような進歩が実現されるかを予測するための委員会を招集した。最初の会合は4月18日に開催される(Nature ダイジェスト2016年5月号「『3人の親』を持つ胚の作製を米国専門委員会が支持」参照)。

その一方で、Yangはその改変マッシュルームを商品化する会社を設立するかどうか思案している。褐変に強い果物や野菜は、切った後になかなか変色しないため品質保持期間が長くなり、商品価値が高い。褐変しないように遺伝子を組み換えたリンゴとジャガイモが、この1年半の間にバイオテクノロジー企業から商品化されている。

マッシュルームを市場に投入する見通しについてYangは、「その件については学部長に相談する必要があります。大学が次に何をしたいのか、見極める必要があるかと……」と語る。しかしYangは、大学が2015年9月にその技術に関する特許の仮出願を行ったと付け加えた。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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