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「マイクロプラスチック」がカキの生殖系に及ぼす影響

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160405

原文:Nature (2016-02-02) | doi: 10.1038/nature.2016.19286 | Microplastics damage oyster fertility

Daniel Cressey

プラスチックの微粒子「マイクロプラスチック」を体内に取り込んだカキは、生殖能力が低下することが実験で示された。プラスチックによる海洋生態系の破壊について、懸念がますます高まっている。

北太平洋で採集されたマイクロプラスチック。これらがさらに細片化するとネットでの回収も困難になる。 | 拡大する

Universal Images Group via Getty

世界中の海には、プラスチックの小さなかけらが大量に漂っている。今回、新たな研究から、こうした微小なプラスチックを摂取したカキでは、誕生する幼生の数が少なく、生まれた幼生の健康状態も劣るなど、生殖に関するさまざまな悪影響が見られることが報告された1

世界各国で廃棄され、最終的に海へとたどり着くプラスチックの量は、毎年数百万tに上る。また、世界経済フォーラムが発表した最近の試算では、2050年頃までに、海洋に存在するプラスチックの量は重量比で魚類よりも多くなると予測されている(go.nature.com/59rxvt参照)。中でも最近、海洋生態系への悪影響が特に懸念されているのが、サイズが5mmに満たない微小なプラスチック粒子「マイクロプラスチック」だ。マイクロプラスチックには、包装・梱包資材などのより大きなプラスチックが劣化・崩壊して生じた細片の他、スクラブ洗顔料や歯磨き粉の研磨剤などに使われるマイクロビーズ(Nature ダイジェスト2015年12月号34ページ「海洋汚染と引き換えの美しい肌なんていらない」参照)、プラスチック製品の中間材料であるレジンペレットなどが含まれる。

フランス国立海洋開発研究所(Ifremer;フェニステール県プルザネ)のArnaud Huvetらは今回、繁殖期のマガキ(Crassostrea gigas)を、2µmと6µmの2種類のサイズのポリスチレン粒子を0.023mg/Lの密度で含む海水で2カ月間生育させ、マイクロプラスチックがマガキの生殖系に及ぼす影響を調べた。このサイズのマイクロプラスチックの海洋における実際の密度はまだ測定されていないため、Huvetらは、過去に類似の研究で、より大きなプラスチック片に関する実測値を基に算出された、野生のカキの生息域(海水と堆積物の界面)での推定値を参考に実験に使う密度を設定した。結果、マイクロプラスチックに2カ月間さらされたカキでは、プラスチックを含まない海水で生育させたカキに比べ、雌では形成された卵母細胞の数が少なくてサイズも小さく、雄では精子の運動能力が低く、また、誕生した幼生の数も著しく少なかった1。さらに、幼生の生長速度にも大きな遅延が見られたという。

マイクロプラスチックが海生生物の生殖能力に及ぼす悪影響については、これまでにカイアシ類2やミジンコ類3などの小さな甲殻類で報告されている。「今回の研究でその範囲がカキまで広げられました」とHuvetは言う。

実験では、マイクロプラスチックにさらされたカキの方が、餌として消費した微細藻類の量がはるかに多かったことから、「プラスチックを摂取するとカキの消化機能が妨げられるかもしれません。通常の摂食では十分な栄養を得られず、補おうとしたと考えられます」とHuvetは説明する。また、マイクロプラスチックにさらされたカキでは、生物の生殖系に影響を及ぼすことで知られる内分泌攪乱化学物質(一般には「環境ホルモン」と呼ばれる)に似た影響も確認された。これは、マイクロプラスチック粒子から溶け出た(もしくは付着していた)化学物質が消化管に放出されて表れた可能性がある。

プラスチック問題

海鳥やウミガメがプラスチック片を喉に詰まらせたりしている画像や映像は広く報道されている。それに対し、「マイクロプラスチックが生物や生態系に与える悪影響は、ようやく認識され始めたところです」と、エクセター大学(英国)の生態毒性学者Tamara Gallowayは指摘する。

Gallowayは、カキの生殖系に関する今回の研究を「非常に総合的な研究です」と語り、マイクロプラスチックの悪影響についてすでに得られている他の証拠と合わせて、海のごみ問題に取り組む必要性をより強めるものだと評価する。「ごみの問題は、私たちがその気になればすぐに対処できることなのです」と、Gallowayは言う。プラスチックの使用を減らしたり、ごみ処理の方法により注意を払ったりすることで改善できるからだ。

「野生のマガキの個体数はまだ減少していません」と、Huvetは言う。しかし、カキは他の多くの動物にとって必須の食物供給源であり、今回の研究は、マイクロプラスチックがカキの野生個体群に対して長期的な影響を及ぼす可能性を示唆している。「カキに蓄積したマイクロプラスチックが、最終的に、カキを食べるヒトにとって有害であるかどうかは、まだ明らかになっていません」と、Huvetは言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Sussarellu, R. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1519019113 (2016).
  2. KyunWoo, L. et al. Environ. Sci. Technol. 47, 11278–11283(2013).
  3. Besseling, E. et al. Environ. Sci. Technol. 48, 12336–12343(2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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