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エボラ血漿療法に有意差なしの結果

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160304

原文:Nature (2016-01-06) | doi: 10.1038/nature.2016.19125 | Trial of blood-based Ebola therapy disappoints

Declan Butler

エボラ出血熱からの回復者の血漿で患者を治療できると期待されていたが、最初の臨床試験では死亡率の有意な低下は見られなかった。だが専門家たちは検討の余地があると見ている。

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Martynasfoto/iStock/Thinkstock

2015年2月、アントワープ熱帯医学研究所(ベルギー)の研究者を中心とした国際コンソーシアムは、エボラ出血熱からの回復者の血漿を集め、ギニアの首都コナクリにあるドンカ病院内エボラ治療センター(国境なき医師団によって運営)の84人のエボラ出血熱患者に血漿を投与する臨床試験を開始した。その結果が、2016年1月7日にNew England Journal of Medicineに掲載された1。この試験では血漿療法による死亡率の低下は認められなかったが、専門家は、エボラ出血熱の治療法の選択肢から血漿療法を除外すべきと結論を出すには早計だと言う。

「疾患からの回復者」の血漿を投与するという治療法は長い歴史を持ち、20世紀初頭には流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、ジフテリア、はしかなどの感染症を治療するために広く用いられていた。抗生物質や抗ウイルス薬が開発されたことで出番は減ったが、現在でもアルゼンチン出血熱などの疾患の治療に用いられている。

「2015年にエボラワクチンが非常に有望であることが臨床試験で証明されましたが、エボラウイルスに有効な薬剤はまだありません。治療の手立てが必要です」と、ロンドン大学衛生学・熱帯医学大学院の感染症研究者David Heymannは言う。

エボラ出血熱の集団大発生が起こると回復者数も同時に増えるため、回復者の血漿が治療に有効ならば、エボラ出血熱に対処するための迅速かつ利用拡大が容易な治療法になる可能性がある。「これは行う必要のある研究でした」とHeymannは述べる。

得られた教訓

しかし、今回の臨床試験では、血漿投与群84人の死亡率は31%で、この数字は対照群(試験開始前の5カ月間にドンカ病院内エボラ治療センターで看護を受けたエボラウイルス感染者418人)の死亡率の37.8%とほとんど変わらなかった。患者の年齢やウイルス量を考慮して生データを補正すると、2群間の差はわずか2.6%と推定され、統計的に有意な差は認められなかった。

「残念な結果でした」と、コロンビア大学(米国ニューヨーク)のウイルス学者であり、ウイルス大発生についての専門家であるIan Lipkinは言う。彼は、この臨床試験には関わっていない。

それでもこの試験は、「エボラ出血熱が流行中であっても、血漿療法が安全であること、また、血漿提供の意思を示すドナーが存在することや、血漿採取に必要な医療インフラを組織できることを示しました」と、マラリアワクチンを開発したサナリア社(Sanaria;米国メリーランド州ロックビル)の最高経営責任者で感染症専門家であるStephan Hoffmanは言う。

Hoffmanはさらに、「エボラ出血熱患者に対する血漿療法を治療の選択肢から除外するのは早計でしょう。今回の臨床試験では、血漿療法を受けた乳児や妊婦の生存率は非常に高かったのです」と指摘する。死亡した乳児は、血漿投与群では5例中1例のみであったのに対し、対照群では23例中15例だったが、症例が少な過ぎたため、統計的に有意な差があるとはいえなかった。

また、HoffmanやLipkinは、今回の臨床試験で投与された血漿には患者を防御するのに十分な量の抗体が含まれていなかった可能性があると考えている。ギニアを含む西アフリカ諸国には、エボラウイルスを含む試料を扱えるバイオセーフティレベルの実験室(BSL4施設)がない。南アフリカやガボンにはBSL4施設があるものの、こうした施設やアフリカ外のBSL4施設へ血漿試料を輸送すれば臨床試験が遅れてしまう可能性があったため、抗体量のチェックは行われなかった。

しかし現在、保存されている血漿試料はフランス・リヨンにあるBSL4施設に送付されており、抗体量が測定されることになっている。これから6カ月にわたって、抗体量と患者の生存の間に相関関係があったかどうかを検討するための後向き研究が行われるのだ。

「血漿療法が有効であるしるしを得られる望みは、まだあります」と、今回の臨床試験を率いたアントワープ熱帯医学研究所の研究者Johan van Griensvenは言う。「回復者の血漿にはエボラ出血熱を防御する効果があるものの、治療には多量の抗体が必要というシナリオも考えられます」。

次の段階

このシナリオどおりであるならば、血漿中の抗体量が多いドナーを選んだり、血漿を濃縮して投与したり、患者に投与する血漿の量を大幅に増やしたりすることが効果的だと証明されるかもしれない。今回の臨床試験では、1回当たり200~250 mL、2回の点滴で計約500 mLの血漿が患者に投与された。

エボラ出血熱の流行はほぼ終息している。Griensvenらの仮説を検討するのは、次のエボラウイルス大発生のときになるかもしれない。研究者らは、リベリアやシエラレオネでも独立に臨床試験を行い、血漿療法の効果を検討することを望んでいたが、募集に応じた患者はわずか9人だったため実現しなかったからだ。

「次にやるべきことは、はっきりしています。すでに多くの血漿試料を回復者から集めてありますから、将来のエボラウイルス大発生の際に臨床試験を迅速に実施できるよう、抗体を抽出・濃縮しておくのです」と、Heymannは言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. van Griensven, J. et al. N. Engl. J. Med. 374, 33–42 (2016).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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