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米国で遺伝子組換えサケが食卓へ

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160213

原文:Nature (2015-11-26) | doi: 10.1038/527417a | Transgenic salmon leaps to the dinner table

Heidi Ledford

米国初となる遺伝子組換え動物の食用販売は申請から20年間保留されていたが、このたび、米国政府がお墨付きを与えた。

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olgna/iStock/Thinkstock

2015年11月19日、成長の速いあるアトランティックサーモン(Salmo salar、タイセイヨウサケとも呼ばれる)が、一躍脚光を浴びることになった。人間が食べるための遺伝子改変動物として、米国で初めて承認されたのだ。この遺伝子組換えサケは「アクアドバンテージ(AquAdvantage)」サーモンといい、米国食品医薬品局(FDA)は承認を20年間保留していた。このたびの画期的な決定は、この業界を生き返らせる可能性がある。関係者らは、自らの製品を市場化できる可能性があることを示す何らかの兆しを長年待っていた。

カリフォルニア大学デービス校(米国)の動物遺伝学者Alison Van Eenennaamは、「これで、遺伝子改変技術を食品に利用する可能性が開かれました。これまでこの業界は、規制があるためにこの技術の利用になかなか手を出せずにいました」と語る。

FDAが決定を発表したのは、米国政府が遺伝子を改変した作物や動物の規制のあり方について見直しを行っているときだった。2015年7月2日、ホワイトハウス科学技術政策局は、1992年以来初めて、その種の規制を1年かけて改定することを明らかにした。そして11月18日の会議では、米国農務省(USDA)が、遺伝子改変作物に関する指針を見直すための準備計画を議論した。

こうした議論の推進力として重要な役割を担ったのは、「ゲノムの狙った場所だけを変化させられるCRISPR/Cas9法などの最新技術によって改変された作物や動物は、現在の規制の対象外なのではないか」という認識だった。USDAはすでに、複数のゲノム編集作物に対してその規制を適用しないことを決定している。Van Eenennaamによれば、FDAは、ゲノム編集技術を使って改変された動物をどのように規制していくか明確に示していないという。

公益科学センター(米国ワシントンD.C.)でバイオテクノロジー部門を統括するGreg Jaffeは、「最近は事態がとても流動的です。それまで主として注目が集まっていたのは、どう見ても作物の方でした」と話す。

アクアバウンティー・テクノロジーズ社(米国マサチューセッツ州メイナード)がアクアドバンテージ・サーモンの承認をFDAに初めて申請したのは、1995年のことだった。FDAはこのサケの食品安全性評価を2010年に終え、環境影響評価報告書を2012年末に公表した。一連の手続きの完了から最終決定に至るまでにかなりの年月が経過したことで、政治が介入したといううわさが広がった。

しかし、FDA獣医学センターの上席政策分析官Laura Epsteinによれば、承認にそれほどの時間がかかったのは前例がなかったからだという。「前例がない製品では、多くの場合とても慎重になるのです」とEpsteinは説明する。さらに、決定を公に出せるようになるまでには、一般からの大量のパブリックコメントに目を通す必要があるともいう。

アクアドバンテージ・サーモンは過剰な成長ホルモンを生成し、出荷できる大きさに育つまでに、通常は3年を要するところが18カ月しかかからない。だが、このサケが市場で勝負できるかどうかは分からない。動物バイオテクノロジー企業のリコンビネティクス社(米国ミネソタ州セントポール)の最高経営責任者Scott Fahrenkrugによれば、アクアバウンティー社が1995年に承認を申請した後、水産業界では同じスピードで成長する通常のアトランティックサーモンが育成されたのだという。

そして、消費者による受容の問題がある。複数の食品販売チェーンは、「フル生産しても米国のサケ総輸入量のごく一部にしかならないなら取り扱わない」と表明した。「バケツの中の1滴と同じです。消費者は、遺伝子改変サケを避けるどころか、探し出さなければならないでしょう」とJaffeは語る。

それでもFDAの承認は、一部の環境団体や食品安全団体からの素早い反対に遭った。アクアバウンティー社は、サケが自然界に逃げ出す可能性を抑えるための物理的・生物学的封じ込め措置を講じているが、反対派は、偶発的な流出が自然生態系を変質させるのではないかと危惧する。また、遺伝子改変品であるとの表示を全くせずに販売することをFDAが許容する見込みであることも問題にしている。

環境保護団体である食品安全センター(米国ワシントンD.C.)の上級政策分析員Jaydee Hansonは、「非常に多くの人々が『もちろん表示してほしい』と求めています。もし遺伝子改変品がそれほどまでに優れた製品ならば、会社は自分から『表示します」と言うはずです」と語る。

審査途上の遺伝子改変動物が他にもあるかどうかについて、FDAは口を閉ざしている。しかしFahrenkrugによれば、リコンビネティクス社は、除角しなくてよいウシや去勢の必要がないブタなどの動物を複数開発中だという。

同社の動物はゲノム編集技術を利用して作製されており、FDAによる承認が不要だとFahrenkrugは主張している。FDAが規制しているのは「組換えDNA構築物」を利用して作製された動物だが、同社の動物はタンパク質とRNAを胚に注入して改変されている。「単なる処理であって、遺伝子導入ではありません」とFahrenkrugは言う。

そうした動物をどう見なすかについて、FDAはまだ明らかにしていないが、Fahrenkrugは、アクアドバンテージ・サーモンの承認はFDAがその市場化の受容に前向きであることを示すものだと考えている。「今は状況を楽観しています」とFahrenkrugは語る。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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