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撤去を迫られるハワイの望遠鏡

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150910

原文:Nature (2015-06-04) | doi: 10.1038/522015a | Hawaiian telescopes pruned

Alexandra Witze

ハワイのマウナケア火山は、先住民にとっては神聖な山であり、科学者にとっては天文台を設置するのに理想的な場所である。異文化間の対立により、この山の利用法をめぐるルールが変わろうとしている。

世界最大級の望遠鏡の建設計画が、ハワイ島の1つの山の未来の姿を大きく変えることになった。2015年5月26日、ハワイ州知事David Igeは、現在マウナケア山に設置されている13基の望遠鏡のうち3基か4基を10年以内に撤去することを条件に、建設反対運動が起きている30m望遠鏡(Thirty Meter Telescope;TMT)を当初の計画どおり建造することを許可すると発表した。

マウナケア山には、ケック天文台の双子の10m望遠鏡、8m級のすばる望遠鏡やジェミニ北望遠鏡など、世界最高レベルの観測施設が集まっている(「マウナケア天文台群」参照)。Ige州知事の発言をきっかけに、どの望遠鏡をいつ撤去するかをめぐり、さまざまな憶測が飛び交っている。

マウナケア山を聖なる山として崇めるハワイ島の先住民たちは、これまでさんざん荒らされてきた土地をさらに冒涜する行為だとして、TMTの建造計画に反発している。TMTの建設工事は2015年の4月初旬に始まる予定だったが、マウナケア山やホノルルやハワイ諸島各地で起きた抗議活動の影響で延期になっていた。

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SOURCE: UNIV. HAWAII

州知事の発表は先住民の不安の声に応えるもので、これによってマウナケア山の老朽化した望遠鏡の引退に向けた長期計画が推し進められることになる。マウナケア山のカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡のDoug Simons天文台長は、「山頂から望遠鏡を撤去する計画は、以前からありました。天文台はさまざまな面で老朽化していくので、撤去は自然な流れです」と言う。

Ige州知事は、マウナケア山頂を科学保護区として賃借しているハワイ大学マノア校に対し、TMTが稼働し始める2020年代半ばよりも前に、保護区に設置されている天文台の25%を閉鎖するように命じた。ハワイ大学はマウナケア山で3つの望遠鏡を直接運営している。1970年に建設されたこの山で最古の2.2m光学望遠鏡、0.9m教育用光学望遠鏡、3.8mの英国赤外線望遠鏡(UKIRT)だ。また、米国航空宇宙局(NASA)の3m赤外線望遠鏡施設の管理も行っており、惑星や小惑星や恒星の研究に利用している。

ハワイ大学天文学研究所のGunter Hasinger所長は、「私たちは常に、山頂のスペースには最高の望遠鏡だけを設置するよう心掛けてきました」と言う。

2つの文化

最初に閉鎖されるのは、カリフォルニア工科大学が運営するカルテクサブミリ波天文台だ。閉鎖は2009年に発表されており、2015年9月に稼働を停止し、撤去される予定である。ケック天文台、ジェミニ北望遠鏡、すばる望遠鏡などについては複雑な国際協定があるため、ハワイ州単独では変更ができず、いずれも2033年末まで稼働することを表明している。

ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の天文学者で、8台の電波望遠鏡からなるサブミリ波干渉計のディレクターRaymond Blundellは、「科学的成果が運営コストに見合わないほど小さくなるまで、ここで研究を続けるつもりです」と言う。

その一方で、新たに賃貸借が始まったばかりの望遠鏡もある。東アジアの天文台のコンソーシアムが、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡のサブミリ波を使って銀河や恒星の形成過程を明らかにする研究に着手したのは2015年に入ってからだ。また、アリゾナ大学(米国トゥーソン)の天文学者Richard Greenによると、UKIRTでも、スペースデブリ(宇宙ゴミ)や地球近傍小惑星の研究などの長期の科学プログラムが始まったところだという。

現時点でGreenは、20年近く先の研究まで計画しているが、状況が変わり得ることは理解している。「文化やマウナケア山の管理方法について、配慮がもっと必要であることは承知しています」。

Ige州知事は、天文台の閉鎖の他にも要求を突き付けた。第1に、ハワイ大学は、2033年末に科学保護区の賃借が終了したら、現在賃借している45km2のうち40km2以上を州の保護下に戻さなければならない。第2に、山頂を訪れる者は、ハワイの文化に関する講習を受けなければならない。第3に、TMTの建設予定地はマウナケア山頂から数百メートル下になるが、この山での望遠鏡設置は、これを最後にしなければならない。

地元にはTMTに期待する声も確かにあるが、近年、マウナケア山への望遠鏡設置プロジェクトのほとんど全てが地元の抗議にあっている。ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の天文学者John Johnsonは、ハワイ諸島の歴史を考えれば、天文学者はマウナケア山の上にいるべきではないと言う。「TMTを建造するかどうかという問題以前の話です。米国はかつてハワイ王から国を奪い、その文化を計画的に絶やしていきました。マウナケア天文台群の存在も、その延長線上にあるのです」。

ハワイ大学は、天文台の25%を撤去する計画を2015年中に策定すると言っている。TMT国際天文台は、望遠鏡建設の再開可否や、その時期についても発表しておらず(訳註:6月23日に建設工事の再開が発表され、同24日から工事再開に向けた作業を開始する予定だったが、抗議者は道路を岩でふさぐなどして工事車両の通行を妨害。逮捕者が出る事態になった。現在も作業は延期されている。http://dx.doi.org/10.1038/nature.2015.18125参照)、ハワイの法廷では、このプロジェクトをめぐる訴訟が続いている。

TMTのライバルとなる2基の次世代望遠鏡は、チリでの建造が計画されている。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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